地域の停滞を打破する地方自治の拡充を~何のための道州制の導入なのか

 自民党の道州制調査会は6月、今後8~10年後をめどに現行の都道府県制度を廃止して道州制に完全移行することを柱とする中間報告を発表し、安倍首相に提出しました。報告書は、国の役割を外交や防衛、国土保全などに集中し、それ以外の権限は道州や市町村に移譲するとしています。いよいよ道州制に向けて本格的に動き出しました。

 建国以来の連邦制国家であるドイツやアメリカと違い、日本での道州制の導入は、都府県をエリアごとに寄せ集めればできるというものでなく、「全く新しい自治体を創出する」という大変な労力を必要とするものです。

 道州にどのような権限や財源を移譲できるのか。国の地方出先機関を再編したタテ割り行政を引き継ぐだけの地方政府になる危険性はないのか。州都をどこに置くのか。旧都府県地域の州内での主導権争いに終始する可能性はないのか。人口減少地域・過疎地域はますます行政から遠くなり、見放される可能性はないのか。現時点でもさまざまな懸念があります。

 帝国データバンクの道州制に関する企業の意識調査(07年5月実施、9856社が有効回答)によれば、道州制への懸念は、「道州間における格差拡大」が43・7%と多く、「道州間の政策の相違による混乱」34・3%、「行政サービスの低下」30・7%と続いており、企業も道州制に懸念を抱いていることが示されました(「産経新聞」6月7日付)。

 昨年の中同協総会議案への道州制に関する意見に対する回答では、日本総合研究所の「地方の停滞を打破する分権改革を~求められる都道府県への権限と財源の本格移譲」というレポートを紹介しました。

 ここでは、地方経済がすでに深刻な停滞に直面しているうえ、地方圏の人口減少スピードが加速し、一段と厳しい低迷に陥る懸念が大きく、強力な地域振興策の速やかな展開が求められていると指摘。多様な問題が山積みで今後10年間で実現できるか否か予断を許さない道州制を棚上げし、都道府県に国から大幅に権限や財源を移譲し、地方政府が独自に政策展開を行える仕組みへの改変を提言しています。傾聴に値する卓見です。

 同レポートは、わが国の都道府県は、ドイツのヴェスト・ファーレン州、アメリカのカリフォルニア州やニューヨーク州等を除くと、人口規模でみる限り、米独仏3カ国の州政府とほぼ同等であり、国から広範な権限と、それに対応した財源の移譲を受ける主体として、特段の問題はないとしています。

 米独仏の州政府と人口規模の同じ日本の都道府県が、国からの大幅な権限や財源の移譲の受け皿になる資格は十分にありますし、疲弊する地域経済の現状からはさし迫った要請であり、最も現実的な選択です。

 今後、中小企業憲章と中小企業振興基本条例の制定にかかわり、地域再生・活性化のための地方自治のあり方についても大いに論議、研究していくことが求められています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2007年 7月 15日号より