先日、ヨーロッパの環境規制に関する講演会を聴講。会場の日経ホールは満席で、この問題への関心の強さが伝わってきました。
講演会は、欧州連合(EU)が、昨年のRoHS(ローズ)指令に続き、本年6月から新しい化学物質規制・REACH(リーチ)規制を施行したことへの対策をテーマとしたもの。
今年の中同協総会議案の第2章では、リーチ規制について「EU域内で年間1トン以上を製造・輸入する化学物質について、それを扱う業者は新設される『欧州化学物質庁』への登録と安全性評価を義務付けるもの。未登録の化学物質が製品に含まれていた場合は使用制限や出荷停止などの処分を受ける可能性があります」と指摘し、日本企業にも少なくない影響が予想されると述べています。
先の講演会では講師が、「欧州の市場競争は性能・価格競争から環境適合性競争に変わる。この競争は優劣ではなく、生きるか死ぬかの戦争」「この戦争は欧州から世界に拡大し全面戦争となる。戦いに勝つためには、環境規制の変化に他社よりも早く対応して先手を取ることが鍵」などと聴衆を煽(あお)り立てました。
たしかに、この環境規制は世界に拡がる可能性があり、そのインパクトは計り知れません。リーチ規制は化学品メーカーだけでなく、成型品の製造に至るサプライチェーンにかかわる全ての企業に及びます。来年には候補物質リストが公開され、12月までに物質予備登録を終了させ、2011年から成型品届出義務が施行される予定になっています。
膨大な手間と費用がかかりそうですが、インターネットを使って、一つひとつの化学物質の安全性を証明するデータを共用する「REACH―IT」という仕組みが準備されています。企業は安全性が証明されたデータをシステム上で売り買いするデータシェアリングという仕組みに参加し、ライバル企業同士でも交渉しなければなりません。
また、EUでは昨年、独禁法のカルテルの制裁が強化され、さまざまな業界で日米欧の大企業に巨額の制裁命令が出されています。国境の垣根を取っ払って5億人の巨大な単一市場をつくる一方、強力な規制で市場を先導するEU。そこには、ユーロ導入の成功にみられるように確かな戦略と老獪(ろうかい)な知恵があります。
この戦略と知恵を「規制帝国」と論ずる見方もあります(鈴木一人「『規制帝国』としてのEU」―『帝国論』講談社所収)。「規制帝国」とは、かつての帝国主義のような軍事力等の圧力を用いずに、自らの市場活動の規制を帝国の領域外諸国に「自発的に」受け入れさせ、「帝国」のルールに従わせるものとします。それは、植民地支配が許されない時代であるとともに、帝国経営のコストが見合わないものだったという過去の経験から、「コスト効率」よく、しかも「民族自決」を尊重しながら影響力を行使できる、アメリカ帝国と「競合しつつ共存」する新しいタイプの帝国と規定します。
「帝国」と呼ぶか否かは別として、欧州の動きも目が離せません。
(U)
「中小企業家しんぶん」 2007年 8月 15日号より