自治体の企業誘致政策をどのように考えるか ~企業誘致政策の限界と今後の方向

 「中小企業憲章」をめぐる議論の中で、いくつかの議論を深めるべき課題がありますが、企業誘致をどう考え、位置づけるかというテーマもその1つです。

 同友会が中小企業振興基本条例制定の取り組みなどで自治体と関係づくりを進める中で、地元中小企業振興に熱心な行政人ばかりでなく、大企業誘致優先、中堅企業育成など行政の「もう1面の本音」を見せつけられることがあります。それに対して、内発的な地域づくりを強調しすぎるあまり、企業誘致に対する単純な反発や否定論に走ってしまい、行政との議論が平行線となる場合もあります。そこで、企業誘致政策をどう考え対処するか、議論を整理したいと思います。

 企業誘致など外来型開発方式は、一般に次の限界・問題点が指摘されています。

 第1に、誘致先の地域で上がった利益は本社に還流し、地域内に循環しないこと。

 第2に、誘致企業の拡張も撤退も、企業の採算性で決定され、地域の事情等は考慮されないこと。

 したがって第3には、誘致のための補助金や減税、インフラ整備費用など財政支出が回収できない場合も多いことです。

 また第4に、自治体が地元企業の育成・発展よりも企業誘致、特に大企業を優先し、誘致企業の数を追うようになるという弊害もあります。

 このような限界・問題点を見据えつつ、地域の活性化、地域づくりに企業誘致をどのように位置づけるかを考えることが大切です。例えば、岩手県北上市のように、地域の産業集積で欠けている産業・業種の企業を誘致して自立的な産業構成になり、成功しているケースもあります。中同協・中小企業憲章制定運動推進本部での議論の中では、自分たちが地域の主体となって考え行動すれば見えてくるはずで、同友会は地域の活性化に必要なことを見極める力量を持つ必要があることが話し合われました。

 島根県斐川町(人口、2万7000人)は、東証一部上場企業3社を含む28社を誘致し、雇用されている従業員は4600人以上に上ります。工業出荷額は県内トップで、地方小都市としては企業誘致で未曽有の成功を遂げました。しかし、1990年代に大企業のアジア、中国移管が進み始め、斐川町は「誘致企業と地元企業の結びつきが弱い。誘致企業の撤退を食い止め、他方で内発型の産業振興を行うことが急務」との認識を深め、「企業化支援貸工場」「企業化支援センター」を設置し、地場の中小企業の育成や技術の地域化を進める地域産業振興政策を強化しています(関満博編著『地方圏の産業振興と中山間地域』新評論)。このように現在では、内発型の地域産業政策を進めなければ、誘致政策も機能しない時代になっているという認識を深める必要があります。

 植田浩史氏(慶應義塾大学教授)は、「誘致に依存した地域産業政策に問題はありますが、地域産業政策に誘致を積極的に位置づけていくことは当然意味があります。その場合、誘致によってどういった地域経済、地域産業を作り上げていくのか、地元企業との関係をどのように作り上げていくのかなどについて構想を持っていることが不可欠です」(『自治体の地域産業政策と中小企業振興基本条例』自治体研究社)と強調していますが、至当な視点です。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2007年 10月 15日号より