建設業発「失政不況」に備えよう~建築確認遅延問題の深刻な影響とその意味を考える

 耐震偽装問題の再発防止をめざして改正建築基準法が6月に施行されましたが、準備の遅れや周知不足などがあるまま「見切り発車」したために、建築確認業務が大停滞に陥ってしまいました。

 新設住宅着工戸数は7月に前年対比約23%減、8月が約43%減、9月は44%減と急速に落ち込みました。各同友会では、緊急アンケートやヒアリングを実施して実態の把握に努め、行政への早急な改善や対応策の要請に着手。8府県の同友会のアンケート(回収総数1723社)によれば、建設業で5~7割、建設業以外でも2~3割が建築確認遅延問題の影響を「現在、受けている」と答え、「これから危惧(きぐ)される影響あり」という建設業者が6~9割に達する勢いにあるという深刻な事態に至っています。

 この問題は、建設業を直撃するとともに、建設業以外の業種にも波及しており、当初の「一時的影響」という観測を覆し、先行きの不透明感を強めています。「日経NEEDSで読み解く」(11月1日付)によれば、07年7~12月に建築着工が3割減ったと想定した場合、06年度には129万戸あった新設住宅着工が、07年度は106万戸に減少し、バブル崩壊時や97、98年度の金融不況に並ぶ水準に落ち込みます。また、実質GDPを0.7%下押しし、名目GDPを4兆円減少させるとしています。景気へのマイナスの影響はかなり大きくなると考えられます。

 同友会景況調査(DOR)によれば、2007年1~3月期に業況判断DI(「好転」―「悪化」割合)がマイナスに転じた後、4~6月期がマイナス8、7~9月期はマイナス9と3期連続のマイナスでミニ不況的様相となっています。特に、7~9月期の建設業は、業況判断DIが前期のマイナス14からマイナス27へと13ポイント悪化し、大きく後退。建設業の悪化が、景況の足を引っ張った形になりました。

 今後、このような建設業発「失政不況」とも言える事態に備えることが求められます。中同協は11月7日、国土交通省住宅局と経済産業省・中小企業庁に、建築確認手続きに関する円滑かつ柔軟な対応の実施や運転資金(つなぎ融資)の特別な対応などの要望を要請しました(本紙11月15日号掲載)。

 建設行政の体たらくに比べ、民間では注目される取り組みが始まっています。遅延問題の影響を受けている業者を対象に山陰合同銀行が「住宅建築関連事業者サポート資金」を11月1日からスタートしました。金利1%で3000万円以内の融資。リスクを引き受けながらも、地元の建設業者を支援しようという心意気が伝わってくる、大いに励まされる動きです。

 この問題を論議した中同協政策委員会で、大林弘道神奈川大学教授は、「建築確認遅滞問題により、中小企業憲章がいかに必要かを改めて認識させられた。EUのヨーロッパ小企業憲章の『小企業を第一に考える』という『Think small first』の精神のthinkすら日本にはなかったという印象を受けた」と発言しました。

 今回の件は、法律や規制等が中小企業・自営業に与える影響を考えて実施することが経済全体への影響をも考えることにつながることを事実で浮き彫りにしました。中小企業憲章の日本での必要性を改めて裏付けるものとなりました。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2007年 11月 15日号より