仕事観の一致で (株)アルカディア社長 松井 利光氏(長野)

仕事観の一致で
社員みんなで経営指針を実践
(株)アルカディア社長 松井 利光氏(長野)

思い込みに気づくこと

 (株)アルカディア社長の松井利光氏(長野同友会会員)が初めて経営理念、経営計画を作ったのは1994年のことでした。

 仕事が回っているのに利益が出ないことに疑問を感じ、一般に行われている経営セミナーを受けたところ、経営の何たるかを全く知らずにやっていたことに気づきました。

 しかし、その後長い間、経営理念は社員には理解されませんでした。毎日朝礼時に唱和をしていたので、松井氏は浸透しているものと思っていましたが、今から3年前、同友会の例会に出る中で、それが思い込みであったことに気づかされました。

 同友会では、いつも経営理念の大切さが強調されるのです。松井氏は一度社員に問いかけてみようと思いたち、「経営理念について、皆さんどのくらい理解していますか」と聞いてみたのです。社員の正直な答えが返ってきました。「言葉として経営理念は覚えていますが、社長の深い思いはよくわかりません」。

仕事観の共有へ

 松井氏は自分自身の思い違いに気づき「経営理念の中でうたっている仕事について考えてみよう。みんなの仕事観を出してみてくれないか」と提起しましたが「そんなものわからねえから、社長が出してくれ」という反応でした。そこで仕事、誠意、新しい価値などについて社長がまとめ、2カ月かけて、経営理念の中の一字一句について社員と意見交換をしました。

 たとえば仕事についてはこんな提起をしました。

 「仕事は人間社会に最も必要不可欠なもので、社会生活の基盤。人は仕事を求めて一生懸命働く。その働きの結果が賃金報酬となり、経済基盤となって社会生活を豊かにする。仕事を通して経験した失敗や成功体験の中から、貴重な知識と洗練された技術力が修得できる。大きな仕事をするために、同僚と力を合わせた連携も必要になることから、人間関係もよりよい形が育(はぐく)まれる。大局的に仕事とは、人間生活に必要な経済力、知識、技術力、人間関係をつくる力を成長発展させる源泉である」。

 2カ月間のやりとりで明らかになったのは、若い社員ほど、仕事は金を稼ぐためのものと考える傾向が強いということでした。この2カ月は価値観の共有のために有効な時間となり、「仕事を通して人間がつくられる」という理解が進み、仕事に対する意識が変わりました。

仕事全体が見える楽しさ

 2004年、同友会の経営指針をつくる会に参加、従来の経営理念を進化させ、その徹底のために一人ひとりの社員と面接をしました。

 その中で、仕事を通して人格の向上と豊かな人生を育み、自律型社員を育てるためには、仕事の流れが全員にわかるようにする必要性があると感じた松井氏は、さっそく思い切った改革をしました。

 それまで営業担当がお客様に対する窓口になり、業務担当が仕事の指示をして、現場がつくるという、どこの会社にもあるスタイルで仕事をしていました。それを社員1人ずつ、4~5社を担当するようにしたのです。

 仕事を受けるところから、クレーム処理まで、すべて1人の社員が窓口になる体制にしました。お客様の声を各自が直接聞き、自分で受注し、売るようにしたため、不良が激減しました。また仕事が減ってくると、それぞれが「仕事をください」という営業の電話を入れるようになりました。

みんなで実践する経営指針に

 経営指針を生きたものにする上で、個人面接に基づいた個人の目標と行動計画の設定や、4つの委員会(コスト対策、品質向上、新商品開発、環境)での自主的活動も大事な要素となっています。個人目標と計画の実践状況は、隔週ごとに各自が発表して自己評価を行っています。

 また、不良が出ると、どういう状況で出たのか徹底して分析、個人の責任追及ではなく、原因の共有化をはかっています。以前はそうした会議をやると社員は落ち込んでいましたが、全体のレベルアップのためという目的が明確になってからは、自分のミスを隠さなくなりました。

 今、松井氏は、経営指針の実践のためには、社長の思いをていねいに伝えることの大切さを痛感しています。そして社員の仕事観が変わり、仕事の全体が見えることで、社員が前向きにいきいきと仕事に取り組むようになった確かな変化を感じています。

【経営理念】

 私達は仕事を通して、人格の向上と豊かな人生を育み、社会に貢献します。物心両面の幸福を追求し続けるとともに、顧客満足に徹します。

【会社概要】
設立 1983年
資本金 1000万円
社員数 22名
年商 3億円
業種 精密板金加工
所在地 上田市大字小泉2566-1
TEL 0268-25-0034

「中小企業家しんぶん」 2006年 5月 15日号より