経営実践検証する共通の尺度(目標)をつくる
「企業変革支援プログラム」の検討へ
中小企業の強み弱みを分析し、客観的に自社の経営課題を明確にしていくための共通の尺度として、「企業変革支援プログラム」が愛媛、大阪の2つの同友会でつくられ、岡山同友会では経営理念の浸透のため、実践の進捗状況を確認しうる「企業サーベイランス審査項目」の5次案が出されています。2006年10月に開かれた中同協労働委員会でも議題となり、全国的にも検討していくことになりました。「企業変革支援プログラム」の持つ意味や3同友会の取り組みの概略を紹介します。(文責・編集部)
「企業変革支援プログラム」とは
「よい会社とはどんな会社なのか」「人を生かす経営とはどんな経営か」など、同友会で意見交換し、お互い分かったようなつもりにはなるものの、イメージはそれぞれに違います。
同友会で検討されている「企業変革支援プログラム」は、いずれも経営指針づくりの過程で問われる諸項目、特に「労使見解」(中小企業における労使関係の見解)をベースにした企業経営が行われているかどうか、実態において問うものとなっています。
たとえば愛媛同友会の場合、ベーシックモデル(導入版)とアドバンスモデル(上級版)を作成し、アドバンスでは以下の10のカテゴリーのもと詳細の項目を問う内容となっています。
(1)経営者、(2)戦略・マーケティング、(3)顧客満足、(4)組織、(5)人材育成、(6)社会責任、(7)オペレーション、(8)財務・会計、(9)IT及び情報活用、(10)経営活動の結果。たとえば、(1)経営者の部分では「理念の浸透と課題の発見」「経営に対する熱意」「従業員とのコミュニケーション」など8つの質問項目があります。
会員が自社分析を行うツールとして、学び実践している状況を会員相互に確認するものさしともなりうるものです。
一般には、アメリカの「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞(MB賞)」を範として、1995年に創設された「日本経営品質賞」が有名で、これをもとにした都道府県単位の経営品質賞も作られています。この制度は、セルフアセスメント(自己評価)による経営品質の向上を進めるプログラムですが、主に大企業を対象にしたものであり、中小企業にとっては資金面をはじめとした経営資源の不足により、取り組むためのハードルが極めて高いというのが実情です。
また、一般的な財務諸表による業績評価や、企業業績に結びつく目標をバランスのとれた視点で達成することによって、業績向上を図る戦略的システムとして「バランススコアカード」もあります。これは企業業績を、財務を含む4つの視点から評価を行うところに特徴がありますが、経営理念の深まりを問うものにはなっていません。
90年代の金融問題きっかけに【愛媛】
産学官連携で本格的な検討
愛媛同友会は、1998年の銀行の不良債権処理(貸し渋り、貸しはがし)に疑問をもち、自社の経営を自らが評価する目(自立的経営への視点)を養い、量から質への転換を図るべきときであるとして、「企業変革支援プログラム」に着想。自らの立ち位置を明確にし、目標設定を行うことの意義(経営者の姿勢、全社一丸経営)を確認しました。
2003年度から、同友会、愛媛大学、松山市の産学官連携による中小企業活性化プロジェクトとして景況調査(EDOR)活動、企業変革支援プログラム開発、チャレンジジョブ活動(若者・学生の教育・就職支援)への3つの取り組みを開始しました。
「企業変革支援プログラム」の基本的な評価ロジックは、日本経営品質賞の評価基準、バランススコアカード等を参考にして、中小零細企業が使いこなせるものにカスタマイズしました。目的は、単なる企業評価や表彰ではなく、中小企業の育成と支援(同友会活動の支援メニュー構築)です。
今年度は、同友会、愛媛大学、愛媛県の共同で「若者(学生)の中小企業理解促進事業」を行い、企業変革支援プログラムを学生版にカスタマイズして作成し、学生がこのプログラムにもとづいて地元中小企業をヒアリングするなどの活動に、今秋から取り組む予定です。
今後は、大学が中心となり、プログラムのブラッシュアップ、収集データの分析およびフィードバック、関係機関へのプログラム供給などを行う予定です。
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●名称:企業変革支援プログラム
●検討組織:松山市、愛媛大学、愛媛同友会の産学官連携
●目的:体系化されたいくつかの観点(尺度)を参考に自社の強み弱み分析を行うことで、より客観的に自社の経営課題を明確にし、中長期的な経営指針の策定において、それらの経営課題を効果的に戦略に盛り込むことで、環境変化に強い、企業の自立的経営を目指すもの。(同友会)
教育と研究に産学官連携を生かすというテーマでアプローチ。実践的フィールド(同友会活動)を通して、中小企業の実態(ミクロ経済)を理解すると同時に、企業マネジメントから教育手法を研究してきました。(愛媛大学)
中小企業の潜在的力を最大限に生かす経済社会システムの構築。自治体としても経営体力育成への支援策によって多くの企業が成長することが自治体の施策の必要条件。(松山市)
経営指針の浸透度合いを確認【岡山】
相互に企業訪問し励ましあい
岡山同友会は、2002年から本格的な「経営指針作成セミナー」を開始しました。今では1回当たりの受講生20名に対し、フォロー委員50人が参加して5カ月間をかけて経営指針づくりを行っています。
03年には同友会理念、経営理念の浸透をめざして、お互いの実践の進ちょく状況を確認しうる共通の「企業経営サーベイランス」の審査項目を作成することになりました。これまでに5回の見直しが行われています。
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●検討組織:岡山同友会経営指針推進部会(経営委員会、正副代表理事、担当事務局)
●目的:(なぜ第三者評価が必要か)以下原文
個々の同友会企業は経営理念を基に経営指針(理念・方針・計画)を成文化し、これを経営の羅針盤として経営を行い、よりよい会社にするために努力しています。そのためにも同友会理念にもとづいた企業経営が実践できているかどうか、第三者の目で確認し課題を明確にして、さらにレベルアップをはかる必要があります。そのために、私たちは、自ら同友会企業の評価審査を行う評価基準を作成しました。
第三者からの評価によって、自社のよい所、悪いところを知り、さらに会社を改善していけるものと考えています。共によい会社をつくろうは同友会精神の表れであり、企業は社会の公器であり、第三者からみてもよい会社でなければなりません。この審査が企業発展の一助となることを願っています。
自立的で質の高い企業へ【大阪】
同友会経営品質賞の評価基準として
2005年までの中期ビジョンにのっとって、「自立的で質の高い企業づくり」をめざし、例会の充実などを図ってきた大阪同友会では、今年4月に発表した「2001年ビジョンのまとめ」で、「『経営指針』セミナーの受講生の同期会活動のように学び実践した成果を『企業の業績』として競い合い学び合うシステムづくりや、経営品質賞をもとにした企業変革支援プログラムなど、企業づくりを検証していく基準づくりなどが求められます」と提起しています。
この提起に基づいて、5月に「経営革新支援プロジェクト」を立ち上げ、中小企業が取り組める変革支援プログラムの開発に着手しました。愛媛同友会の作成中のプログラムを全面的に参考にし、大阪中小企業診断士会とも連携。「大阪同友会経営品質賞」の評価基準として現在、参加企業を募っています。
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●検討組織:大阪同友会経営革新支援プロジェクト、審査機関:社団法人大阪中小企業診断士会
●目的:以下、「大阪同友会経営品質賞募集要項」より引用
大阪版中小企業変革支援プログラムは、大阪同友会の目指す「自立的で質の高い経営」を実現するために、中小企業の経営革新を支援する一連のプログラムをいいます。(中略)
企業・組織が経営の仕組みを自ら評価し変革するというセルフアセスメント(自己評価)の考え方を租借しながら、大阪同友会では、「2001年ビジョン~自立的で質の高い経営を目指して~」を実現するための仕組みをつくりました。
大阪同友会経営品質賞は、大阪版中小企業変革支援プログラムに取り組む中小企業の中から、特に中小企業の経営革新のモデルとなる企業や組織を表彰する制度です。(中略)
経営指針を成文化し、実践する中でその次の目標が見えるプログラムでもあります。経営環境が激しく変化する今日において、大阪同友会経営品質賞を目指すことは、経営理念の実現に向けて経営革新をすすめるための目標として極めて有意義なものになると確信します。
「中小企業家しんぶん」 2006年 10月 15日、11月15日号より