【運動としての経営指針づくり】滋賀同友会の実践

地域を担う主体者づくり

 滋賀同友会副代表理事 前経営労働委員長
竹中 聡雄氏((株)ラブリーシステムイン社長)

 
 滋賀同友会が経営指針成文化に取り組んだのは、1990年からです。1泊2日の成文化セミナー形式でスタートし、今日までに受講生は延べ206社から、221名になり、滋賀での同友会運動の核づくりを担ってきました。

経営指針づくりから成文化運動へ

 「セミナーを受けても実践が弱い」「どうすれば育ち合う運動に高まるのか」。経営労働委員会では毎回論議になりました。「富山同友会では、会員講師で経営指針を創(つく)る会を行っている」という情報を聞きつけ、6年前に委員2名と事務局長が半年通い、学び合いました。

 その学びから、「受講生と深くかかわりあいながら経営指針づくりに取り組もう」と委員会で熱く論議され、2002年9月からスタートした第16回成文化セミナーを皮切りに、全5講の連続講座を開催。現在の「経営指針を創る会(以下・創る会)」へと発展する転換点となりました。

「創る会」の目的を深めながら

 第17回目からは全5講の「創る会」が行われますが、企業づくりに役立つ経営指針書をつくることが目的でした。講師団から受講生へ「頭ごなしに」「アラを探す」ような指摘が行われる弱点もありました。

 その状況を克服する転機は、増え続ける受講生に対応するために、理事会へ講師団としての参加要請が行われたことからです。

 講師団が強化され、「創る会」の目的も改めて論議されて、共に育ち合う仲間として愛情を持って問いかけ合い、受講生の良さを引き出す運営が始まります。

 いまでは、新会員はオリエンテーションを受けた後、できるだけ早い時期に「創る会」へ参加してもらい、経営指針を創る中で同友会運動を理解してもらうように努めています。

 テキストには『経営指針成文化の手引き』(中同協)に加え、『人を生かす経営』(中同協)、『中小企業の経営課題』(大久保尚孝著)、『人間尊重の経営』『経営理念』(赤石中同協会長著)を使っています。

 理事の「創る会」への参加と、同友会運動の入り口として新会員に参加を促す位置づけが、第2の転換点となりました。

企業は社会の一員であるという自覚から

 今、経営理念を次の3つのテーマで深めています。

 1.何のために
 2.社会の一員であることの理解と責任
 3.どのような事業を通じて理念を実現するか

 「何のために経営をしているのか」という問いは、会社の足場を固める側面です。

 社会の一員とは、自社の存在が良くも悪くも地域に影響を与え、与えられていることを自覚するということです。「金がすべてだ」という風潮を是正しない限り、自社の社員は育たないし、会社は良くなりません。だからこそ、中小企業憲章、振興基本条例制定運動へと結びつけられます。

「理念経営」を追求する

 事業(お金)←業務←企業←地域←社会←人類←地球←宇宙。

 事業はそれを必要とする業務から生まれ、業務はそれを必要とする企業から生まれます。企業は地域に必要だから存在し、地域を必要とする社会・人類がいて、人類は地球が生み出し、地球は宇宙が生み出しました。「あなたはどのレベルで仕事をしていますか」。ここを問いかけあっています。「何のために」を実現する事業のドメイン、方針・計画すべてが経営理念、同友会理念を実現するためにあり、自社を取り巻く内外の環境を変えていくテコになっています。だからこそ「理念経営」を追求する姿勢が大切です。

 しかし、わが社だけでは小さな力しかありません。でも、小さいからこそできることがあります。大切なことは「あきらめない」こと。社会の一員であり、同友会運動の主体者であるという自覚が高まれば、「中小企業だからこそ世界に貢献できる」ということが荒唐無稽(こうとうむけい)な話ではなくなります。

 同友会理念は「人類の未来を確かにする」。その必然がここにあります。

事業推進の力生み出す理念経営

 (株)村田自動車工業所 社長 村田 健二氏

「何のための経営か」を問われ、創る会に

 「あなたは何のために経営をしていますか」。会員オリエンテーションでの問いかけに、(株)村田自動車工業所社長の村田健二氏は、今まで参加した会にはない温かさを感じ、経営指針を創(つく)る会に進んで参加しました。2代目社長を引き受け、創業来初めての赤字を経験した翌年のことでした。

 「会社を何とかしたい」と強い思いで臨んだものの、心の中では「業界のことも知らないのに、偉そうに言わないでくれ」と反発もありました。

 「肩に乗っている、重たい荷物を下ろして考えてみたらどうや」と問いかけられた言葉が心に染み入り、眠れずに翌朝5時までかかって第5講の宿題を仕上げます。「後継者や経営者ではなく、1人の人間として何が大切か考えてみた時、見えてくるものがあった」と言います。

自分が変わったことで得られた信頼

 第5講で発表した経営指針書は、チンプンカンプンなものでした。しかし、その後も経営労働委員会に参加し、「ウソ」のない理念づくりに取り組みました。2004年10月に経営指針書を発表して2年目。今では、方針と計画は各部門の責任者と一緒につくっています。

 発表1年目は 「何やこれは」という社員の反応。その後、年3回の個人面談を持ち、経営指針とは何かを理解してもらうことに精いっぱい取り組みます。「社員が変われではなく、自分が理解して変わることが、社員との距離を縮め、信頼されることの第1だった」。

業界の水準を超える労働環境の整備をめざす

 労働条件は自動車業界の水準を超えることが目標。3年かけて休みはディーラー並みに、賃金はこの4月で7割以上の社員が水準を超えました。

 職人を育てると利益率が下がるため、同業者では避ける傾向がある中で、「54年間親父が積み上げた地域での信頼と、社員に蓄積された技術。人間の力こそ、わが社最大の強み」ときっぱり言い切る村田氏。それが、リピーター率80%、業界トップクラスを維持する力となっています。

 「“すてきな、カーライフ創造企業”という経営理念の柱から見えてくる事業がある。まず、車検・点検・整備・保険・車販という本業の追求がベースになり、その近辺にある小さな事業をつないでいくこと。イメージは蜂の巣」。

 同友会では理事、経営労働委員長、大津支部運営委員を兼任し、同友会運動と自社経営を不離一体として、理念経営を実践中です。

 
【会社概要】
設立 1948年
資本金 1000万円
年商 4億5000万円
社員数 30名
業種 自動車整備・鈑金・販売・保険(生命・損害)代理店
所在地 滋賀県大津市朝日が丘1-9-8
TEL 077-523-1700
URL http://www.muratajidosya.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2006年 7月 5日号より