【運動としての経営指針づくり】千葉同友会の実践

 中同協が活動方針で経営指針(理念、方針、計画)づくりを提起した1977年から約30年。経営指針は実践を伴って初めて企業を変え、地域を変える力となっていきます。本紙連載第4回目は、1997年以来、経営指針成文化セミナーを立ち上げ、今年度第13期セミナー(5~9月実施)を終えたばかりの千葉同友会を紹介します。

経営理念を深め切れているか

「何のために経営するのか」「社員との関係は」を問いかけあい【千葉】

経営理念の確立に最大の力を

 千葉同友会では、「経営指針成文化セミナー」立ち上げ当初より、経営理念の確立を最重点に置いてきました。受講者に対して「何のために経営をするのか」「どんな会社にしたいのか」「社員との関係をどう見るのか」という問いかけを鋭く行い、中小企業の社会的な存在価値を認識し、社員を真の経営のパートナーとして位置付ける、21世紀型企業をめざしてきました。

 また、修了生が運営委員として参加し、共に学び、実践し合う仲間として、率直な指摘や体験を通じた助言をすることに心がけ、同友会の自主・民主・連帯の理念を体感できることに力をいれ、そのことを通じて千葉同友会を担える役員を多数輩出することをめざしてきました。

 このような取り組みの結果、修了生は150名を超え、困難な状況を社員と共に突破しつつある企業が着実に増え、活動の質を変えてきました。

 その特徴と実例を以下に紹介します。

売り上げ激減を社員と共に乗り越えた大成ブリキ印刷(株)

 第1に、経営情報をオープンにし、社員の意見を尊重し、その力を引き出すことに傾注する企業が増えてきたことです。

 第10期修了の金属印刷業を営む大成ブリキ印刷(株)(中田正和社長)では、売上全体の4割を占める一番の取引先会社の内製化に伴い、売上大幅ダウンの恐れも出てきました。そこで、従業員に思い切って実状を公開し、動揺を抑え、冷静に親会社とも交渉したところ、何とか当初予定の半分程度のダウンで済むことができました。

 セミナーに参加して、“社員を大切に”、“情報公開の大事さ”ということが頭に染みついていたために対応できたのです。

 同じ立場の同業他社が身内の経営陣の保全と社員のリストラに走り、かえって危機を深化させてしまったのと対照的な結果となりました。

逆風のもとで自社の存在意義を明確にし、業態転換はかる(有)和喜多

 第2に、自社の地域の中での存在意義を明確にし、地域との共存、共栄の視点で経営戦略を考える企業も増えてきました。

 第4期修了の食肉卸売業を営む(有)和喜多(小原修社長)では、大手メーカーから仕入れているために仕入れ価格を下げられず、一方、販売先の飲食店等も競争激化で厳しい状況に置かれているため、販売価格は上げられない。しかもBSE問題、鳥インフルエンザ問題など、外部環境の激変に加えて、大手メーカーが末端の飲食店等に直販する“中抜き”現象や、大手商社が外国資本と手を組み、量販店を通じて、同社の仕入れ価格並みの値段で販売するといった逆風にもさらされています。

 そういう中にあって、「食肉文化を守る」という理念のもとに、直接末端の消費者につながる販路を開拓すべく、“バーベキューセット”と称して、青果業者とも手を組み、肉から野菜まであらゆる食材と道具を用意し、準備と撤収を自社で行うことにより、顧客から喜ばれています。

 卸業から、直接消費者に食肉プラスサービスを販売する業態転換を模索中です。

経営問題で迫る役員が増加

 第3に、経営指針を確立し、リーダーシップを発揮できる役員が増え、支部内で経営理念をつくるためのセミナーを実施したり、経営者と経営幹部が交流して、お互いの壁を取り払う研修や交流会を行う支部が出始めています。

経営理念の深化と事業コンセプトの明確化が課題

 このように、確かな歩みを進めてはいるものの、幾つかの課題も明らかになっています。

 1つは、4~5カ月かけてセミナーを行ってはいるものの、自社の事業コンセプトを明確に作り上げ、他社との違いがどこにあるのかをしっかり認識して、自社の今後の方向性、戦略を確立できる企業は決して多くないことです。

 その原因として考えられることは、経営理念をどれだけ深め切れているかということが挙げられます。

 経営理念が経営者としての生き様、人生観にまで高めきれないため、結果として経営理念が会社を運営するための、また社員を動かすための道具にしかなっていないのではないか。

 また、経営理念の内容を具体的に豊かなイメージを持って語るためには、経営者自身の日ごろの幅広い勉強、あるいは教養を広げる場が欠かせません。

 2つ目には、情勢認識、現状認識をもっと深めることも課題として挙げられます。世界や国内の政治・経済・社会の動きに目を配り、その中での業界の動向と自社の位置付けを明らかにし、今後の自社の活路の方向性を見出すことが求められます。

 3つ目には、社員との関係づくりでも、小手先での対応では簡単に見抜かれてしまいます。人間の存在自体を尊厳あるものとしてとらえ、経営者と立場や役割が違ってはいても、対等・平等な人間として、互いを慈しみ、より良き人生に向かって、果敢に時代や不合理に立ち向かっていく、そんな人間観をどう育(はぐく)むのか、課題は深くて広いものがあります。

 このような状況を踏まえて、経営指針委員会では、現在までの経営指針づくり運動のあり方を根本から見直し、セミナーの運営の仕方、指針委員会のあり方なども含めて検討するプロジェクトを立ち上げ、問題点・課題の整理を始めています。

千葉同友会事務局長 川西洋史

「中小企業家しんぶん」 2006年 10月 5日号より