激変の酒業界を逆手に市場創造 (株)あさ開 社長 村井 良隆氏(岩手)

経営理念の実現で企業体質を変え、地域をつくる

 日本酒の消費量が激減する中で、経営理念を確立し、全社員と共に企業革新に取り組む(株)あさ開(村井良隆社長、岩手同友会代表理事)の実践を、愛媛同友会総会での記念講演から要約して紹介します。

 岩手県盛岡市で日本酒の造り酒屋を営んでいます。社員数50人、年商15億円の会社です。

 1871年(明治4年)、初代・村井源3が、新しい時代の幕開けとともに再出発する心意気を「あさ開」という名に込め、創業しました。

「よい会社」とは「潰れない会社」

 同友会では「良い会社、良い経営者、良い経営環境」づくりという3つの目的を掲げています。では、「良い会社」とはどのような会社でしょうか。

 私は、跡を継ぐことが宿命のように思っていましたから、それ以上考えたことがありませんでした。しかし同友会で問題提起され、考え続けるうちに、1つの答えに行き着きました。それは、「潰れない会社」ということです。

 私は5代目として130年続いた会社を引き継ぎました。ならば、「6代目にバトンを渡すのが私の役割」であり、「会社を潰さない、長生きさせる経営者が、よい経営者である」と考えています。

社長就任と同時に半減した日本酒市場

 日本酒の消費量は、1973年をピークに下降の一途をたどり、2006年にはピーク時の4割にまで落ちています。

 私が社長に就任したのは95年、まさに市場が半減する矢先でした。就任後1~2年は売上も若干伸びましたが、すぐ頭打ちになりました。年配者の中には「今までどおりまじめに仕事をしていれば、また日本酒の時代がくる」という方も多くいましたが、私は楽観視できず、何が起こっているのか知るため、市場調査に着手しました。

 聞き取りを重ねる中で、生活者から見て、日本酒がよく分からないアルコールになっていることに気づきました。規制緩和でさまざまな酒類が市場にあふれ、日本酒のどこがおいしいか分からないという声までありました。「和食には日本酒」を宣伝文句にしていたのですが、今や和・洋・中といった食のカテゴリーもなくなり、和食は高いというイメージも手伝って、日本酒は生活に不必要なものになっていました。

あなたの会社は必要ですか

 市場調査と平行して、日本経営品質賞の勉強をしていたころ、IBMの大久保寛司さんに出会いました。

 会社の窮状を話すと、大久保さんは「あなたの会社は岩手県盛岡に必要ですか」と言われました。私は「買ってくれる人がいるので、必要じゃないでしょうか」と答えると、「(この酒の)代わりになるものがあって、もう必要ないと思われた瞬間、会社はなくなります。それだけの話です」と言われ、目が覚めました。

 それまでは売上の数字ばかり見ていましたが、「岩手県盛岡にとって、なくてはならない会社づくりをしよう。そのためにも、既存のお客様に『あさ開』の魅力を聞き、そこを評価していこう」と考えるようになりました。

お客様はだれか―経営理念の誕生

 そこでまず「お客様」を明確にするため、全社員で「私たちのお客様はだれですか?」をテーマにグループ討論を行いました。

 当時は卸売比率が90%でしたから、問屋さんの倉庫に品物を入れたら仕事は終了。多くの社員は、その先にいるお客様が見えていませんでした。議論の突破口をつくったのは、瓶詰工場で働くパート社員でした。「私たちは、瓶を開ける人が気持ちよく開けられるよう、やさしく栓を締めています」。

 この発言がヒントになり、20時間にわたるグループ討論の結果、「すべてのお客様の食の場における『喜び』『楽しみ』『くつろぎ』に貢献いたします」という経営理念が誕生しました。

企業30年説をくつがえせ!

 一般的に企業の寿命は30年と言われています。奇しくも同じ30年で激減した日本酒市場にあてはめてみると、「環境は劇的に変化しているのに同じことを繰り返し、またあの時と同じ結果を期待していないか」ということに思い当たります。成功体験や実績があるほど、その技術、やり方への固執、過信がおこり、環境変化に対応できなくなるのではないでしょうか。

 社会の変化を健全かつ当然のことと見て、変化しない自社の状況を否定する。さらに、旧来ものに代わる新しいものづくり―「創造的破壊」が必要になります。これが社長の責務であり、企業内の新陳代謝を高めることで、企業は長生きすると考えています。

社員のやる気を引き出す

 わが社では新陳代謝をよくするため、週間PDCAを回しています。月曜の朝、1週間分のクレームや計画の進捗状況を集約し、本部長会議にかけ、解決策、課題を抽出、夕方の業務連絡会議で各部門に戻します。

 また、「世界が100人の村だったら」を応用し、顧客シェアについて「あさ開のお客様が100人だったら、岩手県内のお客様が62人で、そのうち43人は盛岡にいます。30人は首都圏にいて、7人はそれ以外の日本国内にいます」、といった具合に、思いつく限りのカテゴリーで列挙していきます。イメージ化できたところで、5年後にどういう構成にしようかという戦略の話をします。たとえば、「この100人を120人にしよう」と言う。すると、「売上を120%にしよう」と言うより、何をどうすればいいのか見えてきます。

 要は、社員さんに「できるかも」と思ってもらうことがポイントなのです。できそうだと思ったことしかできない。できそうだと思うから、やろうとする意欲がわき、実現するための方法がいくらでも出てきます。このように、社員の意欲を引き出しながら、具体的な計画を立てています。

 もう1つ、社員を変えた活動に、「ECOクラブ」(空びん回収サービス)があります。最初は、営業の負担が増えるからと猛反対されましたが、サービスを始めたとたん、営業の社員が変わりました。回収にいくと、お客様に感謝されます。営業の仕事といえば、買いたくないお客様に押し付けて売ることだと思っていたのが、自分たちのお酒が喜ばれていることを実感したのでしょう、笑顔が増え、明るくなりました。

岩手の未来に貢献

 首都圏から大企業が進出し、地方は刈り取り場になっています。こうした事態を何とか食い止めようと、昨年3つめの経営理念「岩手の食を通じて、地域の未来に貢献します」ができました。

 わが社のお酒は97%が岩手県産米から作られています。このお酒を首都圏でも販売し、岩手から流出したお金を回収し、地域に還元する。これが、あさ開の地域貢献だと言っています。

 これからも岩手県になくてはならない、そして社員がプライドを持って働けるあさ開であり続けるため、精進していきます。

経営理念

・株式会社あさ開は、全社員の物心両面の幸せを追求いたします。
・株式会社あさ開は、すべてのお客様の食の場における「喜び」「楽しみ」「くつろぎ」に貢献いたします。
・株式会社あさ開は、岩手の食を通じて、地域の未来に貢献いたします。

会社概要

創業 1871年
資本金 1億4400万円
社員数 50名
年商 15億円
業種 清酒の製造・販売観光事業
所在地 盛岡市大慈寺町
TEL 019-652-3111
URL http://www.asabiraki-net.jp/

「中小企業家しんぶん」 2007年 6月 15日号より