地域全体で人育てを 大津支部(滋賀) 大津支部長 坂田 徳一氏((株)坂田工務店社長)

今号では滋賀同友会の大津支部長である坂田徳一氏に話をお聞きしました。

―大津市はどんな地域ですか。

坂田 比叡山などの山と琵琶湖にはさまれた平地の少ない地域です。とても古い町で、天智天皇が大津宮を造営し、延暦年間(782~806年)にそれまでの古津から大津に改称されたそうです。現在の大津市は、歴史と観光のまちであり、京都・大阪のべッドタウン的要素が強く、消費はJRでわずか2駅の京都へ出かけていく人が多く、核となる店舗や産業が育っていません。古いものと新しいものがうまくマッチングしていないのが大津の現状です。

―同友会で学ばれたことは。

坂田 私は大工の4代目です。学校を出て地元ゼネコンで13年働いて、親父の会社に入りました。親父は昔ながらの注文住宅を作っていましたが、私は建売に走りました。結局、クレームばかりで利益も出ず、「これは客が悪い」と考えるお粗末な経営者でした。そんな時同友会に入会しました。

 私にとって大きな学びは、住まいづくりのスタンスの親父との違いに気づき、地域で仕事をするとはどういうことなのかがわかったことです。経営指針セミナーで、何のために経営するかを問われた時に、2日間かけても1行も書けませんでした。わが社のルーツを探り、先代、先々代の仕事を知る中で、本当の住まいづくりが見えてきました。今は地元の木を使った家を建てることを基本戦略にすえ、建築関係者約70人による木材在来工法を考える「木考塾」という勉強会や、会員4社による「人と木の住まいづくりネットワーク」を運営しています。おかげさまで、木の家がなぜ良いのか、ハウスメーカーとのちがいなどについて、お客さまが納得するように説明できるようになりました。

―支部活動の特徴を。

坂田 3年目に入った中学生の職場体験学習の受け入れは支部に大きな財産を残しつつあります。今年は4校の生徒約100人を45社が引き受けます。「中学生になんか教えられない」と言っていた企業が実際に受け入れてみると、地域で仕事をすることの意味を問い直すことができたと、翌年は積極的になったり、あまり学校に行かなかった子が変わり、親から礼を言われたなど、会員が地域との新しい関係を感じています。

 支部総会や例会に出席した中学の先生たちも、「企業の苦労がわかった」「楽しい教え方に気がついた」など学ぶものが多いようです。今秋には先生や社員と共に教育とは何かを学ぶ例会を150名規模で予定しています。

 支部の役員会では、8時までに議題を終え、その後は役員による経営体験の報告と討論を行うようにしています。これは役員の役割を運営だけにしないために大切です。

―今後の抱負を。

坂田 大津市は縦に長く南北40キロメートルあるため、会員が1カ所に集まることが大変です。出席できない会員への呼びかけを役員が分担して行っていますが、今後は会員訪問もしなければと考えています。目立った産業がない地域ですが、やはり元気な中小企業が増えないと地域は元気になりません。会員を増やし、同友会の理念を地域に広げていきたいと思います。大手企業ではリストラという名の首切りが横行していますが、中小企業は地域を共に支えている人間の首など切ることはできません。そういうことをすれば地域で生きる道はなくなります。地域に根ざした企業のあり方をこれまで以上に支部の中で、また地域に対して問い直していきたいと思います。

▼大津支部の概要
支部設立 1980年8月
会員数  152名
役員数  24名
対象地域 大津市(人口29万2000人、企業約2500社)

「中小企業家しんぶん」2002年8月15日号より