地域からあてにされる企業であってこそ 立命館大学名誉教授・二場邦彦氏

地域からあてにされる企業であってこそ

立命館大学名誉教授  二場 邦彦氏

 「外から見た同友会」第3弾は、中小企業の発展と地域活性化に向け同友会に尽力を惜しまない二場邦彦・立命館大学名誉教授にインタビューしました。

―先生は同友会とのかかわりは長いですね。

二場 私は1967年に立命館大学に奉職しました。ほどなくして、京都同友会の労使問題の会合に講師として招かれたことが最初の出合いだったと思います。その後、長い間、京都同友会の皆さんと労使問題を中心に研究したり、各種のパンフレット作成に参画などしてきました。全国的には、兵庫で開かれた全国研究集会(72年)の分科会で、労使問題のテーマで助言者を務めたのが始まりでした。

―当時の同友会の印象は。

二場 まじめでよく勉強している経営者団体というイメージがあり、生半可な話をすると恥をかきかねないという緊張感を持って臨みました。ただ労使問題が中心ということもあり、参加する経営者の層が限られていた印象はあります。それに加え、独占企業に対立的な見方をする方も多かったですね。今は、市場経済という共通の土俵で社会的責任の下にそれぞれの役割を果たすという意識になってきたようですが。

―変化してきているわけですね。

二場 変化という点では、以前は私的存在としての「私の会社」という意識が強かったのが、社会的存在としての自覚が高まってきたと思います。

 70年代は、経理公開している企業は少なく、全財産をつぎ込んでいるのだから、会社のものはすべて自分のものという意識で、「社会性を重視している」という経営者でも、社内的には家父長的温情主義で君臨しているという状況でした。社員も、この会社に人生をかけるという気にはなりにくかったでしょうね。

 それが最近は、社会的責任の根底には、経営者の人間としてのあり方の問題があることが自覚されてきていると思います。また、対社員との関係にとどまらず、お客様、地域、地球環境などを考慮した企業づくりが進んできています。

 ある同友会で、経営者は神様ではないが、(企業の社会性を考えると)それに近くなる努力をしなければと話したところ、どうしたら神に近い存在になれるかと質問されました(笑い)。自らの欠陥を自覚し、それを直そうと自己修正し続けることが大切なのではと答ましたが。それほど経営者が企業の社会性について考えているということですね。

―同友会の変化はいかがですか。

二場 「良い経営者になろう」という目的を掲げているわりには、以前は、全体として経営の勉強は弱かったように思います。道徳的な意味で“良い経営者になろう”ということは語られていましたが、経営者としての実力をつけるという点では弱かった。

 いつごろから変わってきたか、時期は断定できませんが、全国研究集会の分科会や「中小企業家しんぶん」の紙面から感じていました。優れた経営事例が数多く登場するようになり、そこから学ぼうとする意気込みが伝わってくるようになりました。昨今の経営指針をつくる活動の充実ぶりにも現れていると思います。

―今後の同友会運動への期待をお聞かせください。

二場 第1に、農業経営者の入会を促進していただきたいですね。将来の日本経済を左右する問題です。第2に、事業系のNPOが経営的に安定するよう同友会に組織していただきたい。これからの日本経済を考えた時、中小企業の値打ちとNPOの値打ちは同じように重要です。第3に、ますます重くなる社会的責任を担っていくために優れた経営者を育てること、そのために自己革新し続ける場としての同友会の充実です。

 最後に、地域や政策とのかかわりについてです。今後、地域はさらに危機的状況になると予想されます。それだけに、現実的に地域を動かす地域政策を持つことが必要になります。そのために研究者や行政を上手に生かしていただきたい。たとえば研究者はスポット的に呼ぶだけでなく、1つのテーマで継続的に協力しあう関係をつくっていただくと、若手は力をつけていくことができます。

 政策全般について言えば、今は中小企業に対して特別の補助をつけるという時代ではなく、中小企業が活躍できるステージ、条件をどうつくるかが重要な課題です。そういう意味で中小企業憲章の運動も同じです。中小企業が何らかの条件を勝ち取って得をするという性格ではなく、社会の中で中小企業がいかに役立つかを宣する「責任宣言」ともいえるものです。それは成立したからといって、即効のあるものではない。各地域で、人々から頼られ、あてにされる企業をつくるという裏づけがあって、効力を発揮するのです。

ふたば くにひこ/1962年京都大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。関西生産性本部を経て67年立命館経営学部で中小企業論・協同組合論などを担当。2000年4月から2006年3月まで京都創成大学学長。日本中小企業学会、日本地域経済学会に所属。

「中小企業家しんぶん」 2006年 9月 15日号から