自前データ元にした発信と実践に期待 日本大学教授・永山利和氏

自前データ元にした発信と実践に期待

日本大学教授  永山 利和氏

 「外から見た同友会」第4弾は、長年にわたり中同協「企業環境研究センター」座長を務め、全国の運動に問題提起する永山利和日本大学教授にインタビューしました。

―同友会との出合いはいつごろですか。

永山 1960年代後半から、私は国民経済研究協会の研究員として東京を中心に中小企業の調査を行っていました。なかでも公害発生源としての中小企業を首都から移転させるという政策が強まる中、移転処理ではなく、公害を出さない企業にする政策を基本とすべきではないか、という問題意識をもって調査にあたっていました。こうした調査活動の一環として中同協を訪問し、仲野事務局長(当時)にお会いしたのが70年代の前半でした。

―印象はいかがでしたか。

永山 仲野さんからレクチャーを受け、おもしろいなと思った反面、実のところ半信半疑でした。それは、中小企業家の中には芯の通った人がいそうだという印象をもったものの、中小企業家はさまざまな顔を持ち、時と場合で変わらざるを得ない面があるのではないかと思ったという意味です。

―79年に東京で開かれた第9回全国研究集会の分科会で報告されています。

永山 退職金問題がテーマでした。その前から、労働組合の全国金属の調査部にも出入りをしており、労組の側から経営をどう見たらよいかという研究課題をもっていました。だいぶ後になりますが、中同協の労働委員会や労使問題全国交流会でも交流をさせていただきました。

―そして89年産構研(中同協・景気産業構造動向調査研究会=現・企業環境研究センター)がスタートします。

永山 中同協の政策広報局長だった吉本洋一さんとお話した時、私がこんなことを申し上げたんです。

 中小企業研究は、中小企業問題を扱っている研究者だけでは進まない。幅広い研究者が集まって研究する必要がある。事務局には専任の職員がいないと長続きしない。同友会のような組織が自前の調査活動をしながら、研究の一端も担えるといい。こうした組織だと中小企業政策の人的ネットワークも発掘できる。

 そんなことを私は半ば夢物語として申し上げたんです。だが、吉本さんは本気で考えていただいて「産構研」の活動が始まったのです。

―その成果と課題は。

永山 中同協だけでなく、各同友会で自前の調査に基づいて外部発信できるようになったこと、研究者とのネットワークが広がったことは大きいですね。研究者も中小企業の現場を知る機会が増え、経営の実態が大変よくつかめるようになりました。

 今後、地方自治体の政策を作る活動を強化する必要があると思います。全体の経済政策は“集中と選択”を軸に、公共工事を縮め、効果が明確なものだけを対象に財政支出をするようになります。ですから現場、地域からの政策提案が不可欠です。宮崎県綾町のように、行政や金融機関などと知恵を出し合い、政策を作る必要があります。そこには、ネットワーク的結合以上の事業的結合が可能になります。同友会に則して言えば、業種別、課題別の研究などが大切になります。

―最後にこれからの同友会への期待を。

永山 第1に、従来進められている経営の発展事例から学ぶという活動をさらに充実すべきでしょう。その活動をベースに、たとえば「人が育つ100の事例」などをまとめて、また女性・高齢者・若者などの階層別、業種や職種別に5年分くらいをとりあげ、困った時はこれを見ればヒントになるデータベース、便覧があっても良いと思います。

 第2に、これまでの支部等の区分はいいとして、500社単位の組織での事業交流を進めるのが有効ではないかと思います。お互いの事業の領域を重ね合わせると何ができるか、お互いの足りないものは何か、などを考える場作りです。

 第3に、日本の教育システムに経営活動が効果的な役割を果たせると思います。専門性や合法性を身につけ、その上で、他人に自分の仕事の意味、品質や性能の重要性など、企業活動と市場機能の側から、社会で求められている公共性を学生に理解させる必要があります。

 たとえば、食文化の荒れについて、なぜ3食規則で取らなければならないのか、なぜカロリーメイトがはやりすぎてはいけないのか、などを考える力を培養しなければなりません。社会的コストが高くなることを企業側から教育の現場に発信していただきたい。

 同友会型経営の優秀性とともに、人間の成長を支援することをかかげる同友会ならではの教育機能の役割を実験して欲しいものだと願っています。

「中小企業家しんぶん」 2006年 11月 5日号から