【酒蔵2】地元で愛される酒をめざして (株)名手(なて)酒造店(和歌山)

地元で愛される酒をめざして
(株)名手(なて)酒造店(和歌山)

 「黒牛」を作る名手酒造店は、和歌山県海南市黒江にあり、古代の熊野街道沿いにあります。

 2002年は1500石程度の出荷石数ですが、純米酒と純米吟醸酒が9割を占めます。出荷先も6割は和歌山県内。地元清酒に理解ある販売店と共に生きる関係を大切に、評価の高い大吟醸などでも増産は控えつつ、高品質でも家庭で飲める価格帯での提供に心を尽くしています。「菊御代」は全国新酒鑑評会で1988年、89年、91年と3度金賞を受賞しています。

 酒銘の「黒牛」は黒江の浜辺、現在の蔵付近に黒い牛の形をした岩が見られ、万葉集に「黒牛潟」と詠まれたことに起因します。万葉の時代を偲(しの)ぶまろやかな味わいを特徴としています。

 麹は山田錦の50%精米、掛米は500万の60%精米を使い、酵母は協会9号系で小規模ながら、丁寧な手作りを心がけています。名手酒造では最高の品質の酒を造るため、蔵の中のパイプにはすべてグラスウールが巻かれ、温度管理を万全にして作られています。

蔵は生活・文化・歴史の伝承者

 この蔵の名物ともいえるものに、「温故伝承館」があります。生活文化としての酒造りの姿と心を伝えようと、84年、木と竹と布でできた道具で酒造りをしていたころの器具、道具を収集、整備したものです。装置産業化してしまった現在の酒造業に対して、本当の酒造りの姿や精神を伝えたいとの思いが感じられます。名手孝和専務(和歌山同友会会員)も「杜氏が小さく、手作りで仕込んだ酒の方が、芳醇な仕上がりのように思う」といいます。伝承館の中にある黒牛茶屋では、名手酒造の銘酒の利き酒のほか、甘酒やコーヒーも飲むことができます。

早なれずし、金山寺味噌、黒牛

 「黒牛」に合う郷土料理はないかと尋ねると、紀州名産のサバの押し寿司「早なれずし」です。サバ寿司を、アセ・笹葉・葉欄等で巻き、押し寿司にします。発酵させない、いわゆる一夜寿司ですので、クセがなく、ほどよく馴染んだネタと酢飯のハーモニーが美味です。金山寺味噌は中国のお寺で作られていたものが、日本に伝わったとされ、紀州が伝承の地と言われています。もちろん現在でも紀州の名産です。金山寺味噌は、それだけでも酒の肴になります。

 そんな名手酒造の銘酒が東京でも飲める場所がありました。名手酒造の直営店「熊野道」が、JR新橋地下改札前にあります。蕎麦(そば)と築地直送の魚で紀州の酒が飲めるのは、至福を感じさせてくれます。

【会社概要】
創業 1866(慶応2)年
資本金 1000万円
年商 4億5000万円
社員数 26名
製造銘柄 黒牛、菊御代
所在地 和歌山県海南市黒江
TEL 073-482-0005
URL http://www.kuroushi.com/

「中小企業家しんぶん」 2004年 12月 15日号より