【酒蔵3】春に魁(さきがけ)、雪中に開く 寒梅酒造(株)(埼玉)

春に魁(さきがけ)、雪中に開く
寒梅酒造(株)(埼玉)

 埼玉県久喜市にある寒梅酒造(株)では、2004年第75回関東信越国税局酒類鑑評会において、245の製造場の中から、最優秀賞に選ばれました。また、優秀賞では、5年連続受賞という偉業も達成しています。

 そんな蔵元を訪ね、社長の鈴木逸郎氏(埼玉同友会会員)に話を伺いました。

蔵は関東平野の真ん中で

 酒の銘柄は「寒梅」。創業は文政4年(1821年)といいますから、184年も続く酒蔵です。「寒梅」は漢詩「魁春開雪中」(はるにさきがけせっちゅうにひらく)から取っており、創業以来ずっと、この名で酒をつくっているとのことです。その意味は、雪中に咲く寒梅は、万花の魁をなすもので、先取り、先駆者であるとのことです。ちなみに、地酒ブームに先鞭をつけた「越乃寒梅」は新潟県の酒で、明治以降創業という全く違う銘柄だそうです。

 184年前に、近江の蒲生郡日野町あたりから出てきて、関東平野の真ん中で酒づくりをはじめたそうです。この埼玉県久喜市のあたりは、その昔、常陸、下総、上州と大消費地である江戸を結ぶ交通の要衝でもあり、米も集まりやすく、水にも恵まれていました。

 かつて、埼玉の造り酒屋の酒は、すべて越後杜氏でつくられていました。しかし、現在は、半分以上が南部杜氏です。越後杜氏で酒づくりをしているのは、わずか5~6軒になったそうです。

 「寒梅」をつくる杜氏は越後杜氏です。その杜氏自身が新潟でつくった酒造好適米の「500万石」を使い、自らつくる酒もあります。

常に魁の心で

 寒梅酒造では、いろんなタイプの酒をつくっています。米も麹も違うものを使って、それぞれ味わいの違う酒をつくっています。いろいろな種類があるように、いろいろな作り方があります。

 「彩の国」は、埼玉県が10年かけてつくった酒造好適米「むさしの酒6号」を「埼玉c」という酵母を使い、利根川の伏流水で仕込むという、埼玉のこだわりがぎっしり詰まった純米吟醸酒です。魁をなす、寒梅酒造ならではという酒で、埼玉県のふるさと認証食品にも指定されています。

 寒梅酒造の基本方針は、「おいしく、楽しい時間の提案」というもの。「おいしさはもちろん、当社の酒を通じて楽しい時間を演出できればうれしい」と鈴木社長は語ります。そんなことから、オリジナルラベルの扱いも行っています。父の日にプレゼントする、たった1本のためのラベルにもこたえています。

 最近では、焼酎に押され気味の日本酒。「一番気持ちよく酔えるのが日本酒ですが、その『酔う』ことに抵抗があるようです。いまは、飲みやすいアルコール度数で、日本酒の良さを残し、それでいて、そんなに酔わない酒」づくりをめざしているとのことですが、これはなかなか難しい課題のようです。

川魚にも寒梅

 埼玉の中でもこのあたりは、海も山も少し遠い位置にあります。そんなところから、「寒梅」に合う肴(さかな)にはどんなものがあるのかと尋ねてみると、さすが利根川の伏流水を使った地酒をつくっていることもあり、「鰻(うなぎ)の蒲焼き、鯰(なまず)の天ぷら、鯉(こい)のあらい」という答えが返ってきました。川魚も「寒梅」にはよく合うとのこと。

 その土地その土地の肴があるものです。

【会社概要】
創業
 1821(文政4)年
資本金 2000万円
年商 10億円
社員数 30名
業種 酒造および酒卸業
所在地 埼玉県久喜市中央2-9-27
TEL 0480-21-2301
URL http://www.kanbai.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2004年 12月 15日号より