【酒蔵6】歴史継承し、地元料理に合う酒を飲む人の近くで 吉乃友酒造(有)(富山)

歴史継承し、地元料理に合う酒を飲む人の近くで
吉乃友酒造(有)(富山)

高度差4000メートルの恩恵

 高さ3000メートル級の北アルプスと水深1000メートルの富山湾に囲まれた富山平野。万年雪をいただく立山連峰の清冽な雪解け水は、急流河川にのって平野をめぐり、日本海へと流れ落ちます。

 吉乃友酒造(有)(吉田満社長、富山同友会会員)は富山平野の中央部、富山市婦中町下井沢にあり、1877年(明治10年)創業以来、豊かな水に育まれた米と伏流水を使って酒造りを行っています。1965年ころより他社に先がけて純米酒の製造を開始。85年ころには純米酒の製造比率が50%を超え、今では全体の95%を占めています。

田舎酒のこだわり

 5代目である吉田社長が着るハッピには、「越中(えっちゅう)田舎酒・よしのとも」の文字が染め抜かれています。富山の酒米(500万石)と自家酵母を使い、「晩酌で気軽に楽しんでもらえるお酒、家庭料理と相性の良い酒」が目標です。自家酵母は同社で分離し、文字通り継代培養。お燗(かん)してうまい濃醇辛口のお酒です。

 現在は、ワインや焼酎ブームにみられるように、口あたりのよさや飲みやすさを求める風潮があります。しかし、吉田社長は「日本酒の長所は、お燗(かん)ができ、飲みごたえがあるところ。製造方法は1000年前から基本的には変わらず、高度に完成された技術です。造り手としてその歴史を継承したい」と、昔からある味わい深い酒造りに取り組んでいます。

カギは販売力

 自らの酒造りに確信を持つ吉田社長ですが、課題は販売力の強化です。

 日本酒全体の消費量は、73年をピークに年々減少。町の酒屋さんが姿を消し、スーパーやコンビニエンスストアでお酒を買う時代です。そこには、日本酒のよさを説明する人も、売り場もありません。

 同社では、65年ころから問屋に頼らず、自ら東京周辺の酒屋さんを訪ねて直接販売したり、試飲即売会を積極的に開いてきました。どんな小さな場もPRの機会ととらえ、出張先では前述のハッピを着て電車に乗り込みます。飲み方・楽しみ方を伝えつつ「うまいと感じてくれる人をいかに増やすか」が、いつも頭から離れません。

飲む人の近くで

 今年4月、最終ユーザーと直接かかわる人々の理解を深めたいと、流通関係者(問屋、小売店、飲食店)限定の利き酒会を富山市で開催しました。吉田社長が「業界全体で取り組まなければ、日本酒の将来は危うい」と酒造組合に提案して実現したものです。県内の25ある造り酒屋のうち、13蔵が参加。100名を超える流通関係者の前で日本酒のよさをアピールしました。また、10月1日の日本酒の日にちなみ、地元デパート全階を使った日本酒フェア(仮称)も提案中とのこと。

 「理想は、富山にこだわり、地元の料理に合う酒を、飲む人の近くで造って売ること。ゆくゆくは富山市の中心市街地全域を巻き込んで何かやれたら」と、吉田社長の構想はふくらみます。

山海の幸を引き立てて

 「吉乃友」の吉は蔵元の吉田から、友は酒を酌み交わす友を意味しています。12種類ある商品のうち、主力の「よしのとも純」は、そのバランスのとれた味わいとすっきりした後味で、富山県地産呼称委員会が、「平成16(2004)年度・富山のお酒」と認定。価格は1.8リットル入り、1848円。フクラギ(天然ハマチ)やアオリイカの刺身によく合います。ぬる燗でも、熱燗でもよし、ぜひ1度ご賞味ください。

【会社概要】
創業 1877年
製造石数 700石
社員数 8名
業種 清酒の製造販売
所在地 富山市婦中町下井沢
TEL 076-466-2308
URL http://www.toyama-smenet.or.jp/~jun/

「中小企業家しんぶん」 2005年 6月 15日号より