【酒蔵9】伝統(ふるき)を守り、革新(あたらしき)を生む (株)あさ開(岩手)

伝統(ふるき)を守り、革新(あたらしき)を生む
(株)あさ開(岩手)

南部杜氏が磨き上げた技

 「南部杜氏」の名とともに広く知られる酒どころ岩手。この地に明治4年(1871年)に創業したのが(株)あさ開(びらき)(村井良隆社長、岩手同友会会員)です。その名は新しい時代に漕ぎ出す気概を込めて付けられました。以来130年、伝統をしっかりと受け継ぎながら、つねに時代の求める酒づくりに取り組んできました。

 豊かな自然が育(はぐく)んだ米と水。まじめな人柄が磨き上げた技。酒づくりのイーハトーブ岩手を舞台に育った「あさ開」は国税庁の全国新酒鑑評会で平成4年から12年連続で金賞受賞。全国で唯一連続受賞中で、優れた品質を誇ります。

新しい日本酒ファンを開拓

 同社の敷地に一歩足を踏み入れると、純和風の酒蔵と対照的な中世のヨーロッパを想(おも)わせるレストラン、物産館が現れます。日本酒の嗜好(しこう)調査では50歳以上が7割を占め、酒類全体の消費量も減少の一途。若い世代や女性ファンを増やさなければ日本酒そのものが廃れてしまうとの危機感が、7年前に「蔵元搾(しぼ)りたての日本酒が飲める多国籍料理レストラン」を開店させました。

 「酒づくりの現場で搾りたてを飲んでもらうことで、日本酒がさまざまな料理に合うことを知ってほしい。飲めば旨(うま)さも魅力もわかってもらえる」。村井社長の提案には日本酒のイメージが崩れると反対もありました。しかし老舗の挑戦はすぐに地元の2~30歳代の若者や女性客に好評を得ました。「ここに来なければ、ずっと日本酒を敬遠していた。結構どんな料理にもフィットする」。そんな声が多く寄せられています。さらに「Osakeスクール」の開講など、食と日本酒の融合、楽しみ方の提案が新たなファンを生んでいます。

コミュニケーション日本一の酒蔵を

 社員の自主性に頼らなければ老舗の変革はできない、と5代目社長の村井氏は5年前に経営理念を全面刷新、社内に11のチーム制を取り入れ、組織を横並び体制にしました。「自分たちのチームマネージャーは自分たちで決める。あなたの将来、あなたの夢を会社が積極的に応援します」。この姿勢が大きく意識を変えました。今では杜氏資格を5人が取得、20人以上の利き酒師が生まれ、社内の風通しが良くなったことで地域のエンドユーザーに接する機会が大幅に増えました。たとえば、空きビンを回収する会員制の「ECO(エコ)倶楽部」を組織。事前に登録した各家庭に社員が空きビン回収に向かい、直接消費者の声を聞くことで、反応を直接感じることができ、もっとも熱烈で確かな地元ファンづくりを進めています。

世界の酒、日本酒を夢見て

 今年5月、同社の先導で岩手県内27の蔵元の酒が飲める「地酒Bar」をオープン。77種類の地酒をグラスで気軽に飲める店です。1社でできないことを岩手全体の協同で。そうした呼びかけがようやく浸透し始め、日本酒が改めて見直され始めています。

 最近海外、特にアジアでは日本酒の市場が急激に拡大。同社でも最近輸出量が増えてきています。日本酒のアミノ酸は魚介類の生臭みを消し、野菜の風味と好相性を見せます。海外での評価は必然でもあります。「日本文化の粋である日本酒を世界の人々に蔵元の味わいをそのままに届けたい。それが日本の食文化を見つめ直すきっかけにもなる」。これからも世界の酒、日本酒を夢見て時代を拓き人の心を開き続けます。

【会社概要】
創業 1871年
資本金 1億4,400万円
年商 16億円
社員数 58名
業種 日本酒の製造販売、観光物産館など観光事業
所在地 盛岡市大慈寺町
TEL 019-652-3111
URL http://www.asabiraki-net.jp/

「中小企業家しんぶん」 2005年 9月 15日号より