第4回中小企業地球環境問題交流会【特集】

「死んだ地球からビジネスは生まれない」
地域のいのちと暮らしを守る中小企業家の歴史的使命の自覚を

 10月18~19日、「今こそ行動のとき! 地球とすべての生命(いのち)のために」をテーマに福岡・北九州で開かれた第4回地球環境問題交流会(本紙11月5日既報)。赤石中同協相談役幹事の基調講演概要や「地球環境宣言」を紹介します。なお、基調講演では冒頭、「全国地球温暖化防止活動推進センター」(JCCCA)提供の「地球温暖化防止のための環境学習DVD」の映像を一部抜粋して上映しました。(報告集は来年1月に発行予定)

【基調講演】ここまで危機的状況な地球環境問題

地域のオピニオンリーダーとなって新しい生活文化の創造を
中同協相談役幹事 赤石義博氏

 
政治的な立場で左右されてはならない

 この地球は、地球上のすべての命の母体であり、思想、信条など政治的な立場によって地球環境問題の解決が左右されてはなりません。ところが現実には、アメリカのブッシュ大統領が京都議定書から離脱していくなど、市場原理主義の圧力が政治に非常に強い影響を与えています。そういった風潮を排除して、なんとしても地球を守っていくことが必要だということをまず確認しておきたいと思います。

 次に、われわれ中小企業経営者は、世界市場で資源を獲得したり、利潤追求のために世界と激しく競争する立場にはないので、政治によって環境問題への対応が左右されるような状況に対して、調停者や審判者の立場に立つことができるということです。

 また、地域に根ざし、地域の中で看板を掲げて商売している中小企業経営者は、地域の利益や安全な暮らしを守るため、オピニオンリーダーの役割を果たしてほしいし、次の4つの課題をぜひ実現してほしいと、時代が悲痛な叫びをあげているように私には思えます。

時代が求める4つの課題

 ひとつは、戦後最長の景気の良さが続いていると言われますが、実際には9年連続して平均賃金が下がるなど、地域や産業によって非常にまちまちな状況です。景気が良くなったと言われながら物価が上がらないのは、庶民の命がけに近い生活防衛の結果だと私は考えています。

 そういった状況の中で、国民の70%以上の暮らしにかかわっている中小企業が元気になることで、人々の暮らしを良くしていってほしいと時代は要請しています。

 2つ目は、持続可能な社会の実現が課題といわれますが、実は、「エコロジカル・フットプリント」(人間活動により消費される資源を、人間1人が持続可能な生活を送るのに必要な生産可能な土地面積として表わすもの)という考え方によれば、すでに持続可能な状況を20%も超えているということです。

 こういった現状を頭に置いた上で、本当の意味で安定した持続可能な社会をどうつくっていくのか、という課題です。

 3つ目が、資本主義社会の原理からいえば、一定程度失業者がでるのはやむを得ないといわれますが、一人ひとりの失業者からすれば、100%命の問題なのです。そこで、単に失業手当を出すだけでなく、1人の人間や家族が生きていけるくらいの小さな新しい仕事を始めやすくするシステムを構築していくことも、私どもに課せられた課題です。これは中小企業憲章運動にもつながる課題です。

 そして食料問題が4つ目の課題です。これについては詳しくは触れませんが、大変な状況になってきているということだけは確認しておきたいと思います。

 中小企業の繁栄と国民の暮らしの繁栄が、表裏一体であることを、私たちは同友会50年の歴史の中で具体的に確かめてきました。それが「国民と地域と共に歩む」という理念としても確認されてきており、以上述べた4つの課題を、時代はわれわれに実現せよ、と要請してきているのです。

切れかかっている地球の生態系のリンク

 この課題にこたえていくためには、まず地球上で起きている事実を正確につかむことが重要です。

 たとえば、大気温暖化のため、北極で氷の平原がなくなってきていますが、そのことでホッキョクグマにどんなことが起きているのか。また、自分の庭でカエルがいつ鳴き出したかを200年近く代々記録し続けているなどといった市民の記録を世界中から集めて、分析した学者がいます。それによると、生物の生息域が10年ごとに約10キロ北に移動し、高度では6センチ上昇しています。春を感ずる日も、10年ごとに2~3日早まっているというのです。

 人類も含め、地球上の全ての生物は食物連鎖によってリンクされた存在ですが、温暖化によってこのリンクが切れてくると、これはものすごく大きな問題となります。

世界的な枠組みの中でしか解決できない

 いま世界中の自動車メーカーが中国やインドに進出していますが、自動車を作るためには、当然電気が必要です。中国では火力発電が中心ですが、石炭の中でも通常の無煙炭ではなく、それよりも安い褐炭も燃やして発電しています。褐炭のCO2排出量は石油の2.3倍くらいあります。

 今後、2009年までに完成の予定で建設中の火力発電所は世界で249基あり、このうち半分が中国です。2010年から2019年までの10年間に完成、もしくは建設が進むと予定されている数は、全世界で483基、2020年から2030年までの間では710基で、そのうち3分の1が中国です。

 先ほど、中国大陸からのスモッグの影響で北九州の小学校が運動会を延期したという話がありましたが、こういう具体的で深刻な問題が出てきています。これはやはり国を動かし、国連の世界的な枠組みの中で取り組んでいかなければ解決できない、という事態に入ってきています。

作られた消費を減らし新しい生活文化を

 では、われわれは何をしなければならないのか。もはや人のせいにはできません。まずはわれわれ自身が1人の人間として、いかに生活を見直し、つくられた消費を減らしていくか、考える必要があります。

 工業化の恩恵を享受してきた先進工業国の立場からは、中国やインドで「これ以上自動車に乗るのをやめろ」とはなかなか言えない。私ども自体が本当の意味で、今まで追い求めてきた文化生活をきっぱりやめて、新しい生活文化をどうつくり上げていくかという、実は大変な課題が与えられているのです。

 次に、先ほどもエコテクノの展示を見てきましたが、省エネ・省資源化を進めたり、温暖化を少しでも抑えるような仕事をつくり出していくのも中小企業の役割です。また、かつての中心商店街がシャッター街になってしまっていますが、街の電気屋さんの復活など、街の中心部で基本的な生活が成り立つような仕組みをもう1度つくり直していかなければなりません。これは、地域に仕事を作り出し、地域間格差をなくしていくような社会システムをつくるという中小企業憲章制定運動などを一緒にやっていこうという呼びかけにもなります。

 さらに、個人として、一企業としての取り組みだけでなく、地球環境を守り、地域を発展させていくために、同友会や地域で勉強会を呼びかけたり、一緒に事業化していくなど、ゆるやかなネットワークを組んでいくことも重要です。

自ら実践しつつ根本的解決に向け全力を

 そして最も決定的なのが、制度として変えていくことですが、それを実現させていくためには、今まで述べてきたような課題に取り組み、自分たち自身の足でしっかり立っていくことが求められています。

 たとえば「1人1日1キログラムのCO2削減をめざそう」というチャレンジ宣言を環境省が呼びかけていますが、そこに積極的に参加したり、企業として事業を起こしていくなど、まず自分から始めること。その上で、なんとしても地球を守っていくんだと、世界を地球環境問題の根本的な解決へと立ち向かわせていく政治姿勢に変えていくことにも、全力を挙げて取り組んでいきましょう。

【主催者あいさつ】理に根ざし自ら考え行動を

中同協地球環境部会長 平沼 辰雄氏

 中同協では現在、赤石相談役幹事が「人類生存憲章」とも呼ぶ「中小企業憲章」制定運動に取り組んでいますが、憲章の土台には、持続可能な社会を確かなものにしていくという、地球環境の取り組みがあります。

 われわれ自身が「自らが考え、行動し実践」しなければ、地球環境問題は解決しません。特に「地域と共に」という理念を持つ同友会では、やはり自らが地域のオピニオンリーダーとなって、環境問題に取り組んでいくことが大事です。

 赤石さんの著書『非情理の効率を上回る情理の効率』では、「同友会の理念が目指していることは、対処療法ではなく、人間尊重の経営、人類が永遠存続の繁栄、人間が人間らしく生き、暮らし、働ける社会の実現を目指しています」といい、「情理」とは、人間が長年求め続けた金で買えない豊かな心と、人類にとって望ましい社会の道理を意味していると書いています。

 真の中小企業の時代にしていくために、そのような考え方を理念として持っていることを確認したいと思います。

 本日は短い時間ですが、大いに学び、その学んだことを皆さんの地域に持ち帰り、「憲章」制定運動がめざす社会づくりの土台となる環境問題についての取り組みを強め、地域の中に広めていただくことをお願いしたいと思います。

【地球環境宣言】自然と人間が共生する未来へ

自然と人間が共生する未来へ
地域と共に生きる中小企業家運動のめざすもの

「今こそ行動のとき! 地球とすべての生命のために~中小企業と産学官民の連携で持続可能な社会を~」

 私たち中小企業家同友会では、全国から300名を超える参加者を得、「2007中小企業地球環境問題交流会」を福岡県北九州市で開催しました。「中小企業こそ地域における環境保全型社会の積極的な担い手であり、地域経済再生の担い手である」との気概と使命感を持って、2001年に第1回の環境問題交流会を琵琶湖のほとりで開催して以来、今回で4回目の交流会となります。

 以前、公害の街と言われた北九州市、灰色の空、濁り異臭のする川、市民、企業、行政が、一緒になって、「生きる」、「暮らしを守る」ことをめざし、改善に取り組み、克服してきた自然や地域環境、今では、世界から注目される環境先進都市として、変貌を遂げたこの地で、その叡智に触れ、学び、開催できることは、大変意義のあることでした。

 地元・福岡同友会も、1996年地球環境問題委員会を立ち上げ、地球環境の現状や、私たちに何ができるかを学び、いろいろな活動をし、全国にその輪を広げてきました。

 しかし、地球温暖化の急激な進行など、地球環境破壊は、私たちの想像を超えるスピードで進んでいます。こうした環境破壊は、われわれ人類の活動によって引き起こされたものであり、この危機的状況から地球の生態系を守り、持続可能な社会づくりに人類が取り組むことは、いまや待ったなしの危急の課題となっています。

 「死んだ地球からはビジネスは生まれない」(D・ブラウワー)。私たち中小企業家は、自ら地球規模の環境問題の解決に向け、北九州市の事例や交流会での事例報告などに学び、個人・企業・行政・地域レベルでの足元からの取り組みが重要であること、さらには持続可能な農業の発展に向けた地域連携の重要性を認識し、環境保全型企業づくり、市場づくり、地域づくりに向け、産学官民の連携で、環境改善・経営改善を図っていきます。

 私たち中小企業家同友会は、地域とともに発展し、地域社会の責任ある一員と認識し、自らの事業活動と環境保全との係わりの中から、地球温暖化の防止に努め、循環型社会の構築に貢献し、持続可能な社会をめざすことによって、自然と人間が共生する未来への道を切り開いていくことを宣言します。

2007年10月18日
第4回(2007)中小企業地球環境問題交流会

「中小企業家しんぶん」 2007年 11月 15日号から