新事業創出に積極的に挑戦する会員

新事業創出に積極的に挑戦する会員
理念の共有、信頼関係、ネット構築、同友会は宝の山

 本紙では、会員企業の新連携事業の事例を中心にシリーズ「産学連携・新連携」を9回連載し、新連携政策の具体的な活用法と課題を考えてきました。今回は、シリーズのまとめとして、会員企業の取り組みの特徴と成果を整理し、今後の課題を探ります。

 新連携支援政策は、計画から事業化、販売までを個別に支援するこれまでにない施策として注目されています(仕組みは、本紙1月5日号参照)。今回の連載からは、会員企業が新事業創出に積極的に挑戦している様子が読み取れます。その取り組みの特徴は、次の5点にまとめられます。

理念共有し、人間的信頼関係の上に

 第1の特徴は、事業立ち上げの上でもっとも大切な連携企業同士の緊密な信頼関係を築いていること。特に、同友会の会員企業が中心に連携体を構成した場合では、同友会ですでに知り学び合っている信頼関係を生かしています。

 「『アドック神戸』のメンバーが理念を共有しながら、人間的な信頼関係をつくってきたこと。それによって、この人にならこれだけつぎ込んでもいい、という関係ができたから」(本紙3月5日号、北斗電子工業(株)中野社長)という発言が典型的です。

問われるコア企業の力量

 第2には、中心となるコア企業の経営者のリーダーシップと連携のマネジメント力が問われることです。新連携計画の認定取得に当たっては、詳細な事業計画の策定が求められるほか、経済産業局等への説明・交渉も数多くこなさなければなりません。また、連携体のマネジメントや産学官連携の運営は企業経営とは質の違うマネジメント力、人間力が必要になります。

社会性高いテーマ設定

 第3には、新事業のテーマ選びが大きな問題になりますが、テーマの社会性が高く、エンドユーザーに一番近い所で発想し、ニーズをしっかり把握して設定しているのが特徴。今回の連載でも、細菌の検査や殺菌、環境にやさしい製品など、高い社会性の訴求力がある新事業を紹介しました。

 また、女性企業家同士が意気投合して生まれた連携体(7月5日号、(株)コラボリンク奥村社長)や、働く女性の育児支援・家事支援などの生活支援サービスの事業化(9月5日号、(株)翠コーポレーション廣瀬社長)など、女性会員のリーダーシップも注目されます。

自社の経営革新・強化に結びつける

 第4には、新連携事業に取り組むことで、自社の企業体質の革新・強化に結びついていることです。

 北斗電子工業(株)は、特定1社の受注開発から「今では20%が自社ブランド」(3月5日号)。(株)東成エレクトロビームは、レーザー等による加工会社ですが、「新連携の段階に入り、自社ブランド製品の製造販売にいよいよ手が届きました」(5月5日号、上野社長)。

きわめて重要な理念の共有

 第5には、新連携や産学官連携などネットワーク活動でも、同友会理念など理念の共有がきわめて重要であることです。

 「このプランに多くの人が出入りしたが、最終的に残ったのは、『同友会3つの目的』を本当に実践している人だけ。理念に共鳴できる人しか継続できない」「すべての出発点は『人』。モノや情報に目が行きがちだったが、同友会で目を覚まさせられた」(9月25日号、(株)マツザワ瓦店松澤社長)。

 また、同友会自体がネットワークづくりの有効なチャンスを提供しています。「ネットワークを築く上で同友会は宝の山」(3月25日号、(株)中央電機計器製作所畑野社長)。

新連携挑戦の経験と教訓をどう生かしていくか

 今後の課題としては、第1には、連載で紹介した9事例をはじめ、新連携で取り組まれた事業でどのような成果が生み出されるかということ。販売実績を含めた総合的な成果が「市場の拡大」や地域活性化にどのようにつながるのか、政策効果が注目されます。

 第2には、行政が新連携政策をどのような規模で推進しようとしているのか不明確であることです。

 2005年度の認定件数は165件、今年の現時点でも253件。「総合的かつ抜本的な政策と位置づけ」たわりには数に勢いがついていません。また、地方経済産業局をベースとした新連携支援地域戦略会議が窓口になりますが、都道府県の商工行政とどう連動させるのか。「広域連携の名の下に都道府県行政を無視した取り組みになっている」という批判もあります。

 第3には、同友会企業の新連携の取り組みの経験や教訓を交流し、挑戦のポテンシャルのある会員企業がこの事業に挑戦しやすい環境を同友会の中につくっていく課題があります。

 

中同協政策局長 瓜田靖

「中小企業家しんぶん」 2006年 12月 5日号から