【地域産業を視察2】ドアミラー製造の(株)本杉製作所を見学して

中同協・企業環境研究センター
静岡・牧之原市で地域産業を視察(1)

かんばん方式の徹底に秘密が
ドアミラー製造の(株)本杉製作所を見学して

多種多様なドアミラー

 牧之原台地の茶畑に囲まれて、(株)本杉製作所(本杉芳郎社長)はありました。天井の高い広々とした建物の中に整然とラインが組まれ、明るく効率的な印象を受けます。ラインごとに4~5人の従業員が持ち場に着き、前工程から流れてきた製品にそれぞれの加工を施し、後工程へ送ります。

 製造しているのは、乗用車用のドアミラーやそのサブアッシー(若干の加工を施すことで完成品となる未完成部品)。製造現場を見てまず驚くのは、その種類の多さです。たとえば1つの車種が10色あれば、それだけで10種類(10色)。しかもグレードごとに、電動で動くもの、曇り止めの付いたもの、ウィンカーやカメラの付いたものなどと多様です。さらに右用と左用があり、その結果、1つの車種について500~700種類のドアミラーを作り分ける必要があります。

 複数メーカーの複数車種のドアミラーを同時に製造するだけでなく、元請けからは1日に4~12回にも及ぶ受注依頼が届きます。受注から納品までの時間は、早い場合はおよそ一時間、遅くとも翌日中。いったいどんな生産管理がなされているのか。これがまさに本杉製作所を今日の成功に導いた秘密です。

ローテクの工夫に満ちた生産管理

 どんなハイテク管理が行われているのかと工場を見回しても、生産管理用の大型コンピュータも見当たりません。実は、本杉製作所では、たいへんローテクな生産管理システムを採用しているのです。

 たとえば、ラインの右側と左側では工程の異なる製品を作れるようにラインが組まれていますが、ラインの入り口には、ウェスタン映画に出てくる酒場の扉のように、蝶つがいでブラブラしている腰までの高さの木製のばね扉が1つ備え付けられているだけ。右側のラインに沿って組み立てられるべき製品の受注が入った時には、扉を左側に閉めてラインの左側をふさぎ、左側のラインに沿って組み立てられるべき製品の受注が入った時には、逆に扉を右側に閉めてラインの右側をふさぐ。こうしたローテクな工夫が、工場の随所に盛り込まれているのです。

「かんばん方式」が一目でみえる

 生産管理の心臓部もやはりローテク。本棚ほどの大きさの白い木箱が、本杉製作所の生産管理の心臓部です。木箱はたて20段×横10列程度に仕切られ、それぞれの仕切りに何百もの伝票が差し込まれています。

 受注すると、発注先から届いた伝票がまず左端の枠の中に差し込まれます。第1工程を終わると、伝票もひとつ右隣の枠に移され、第2工程が終わると、さらにひとつ右隣へ。このようにして伝票が木箱のどこにあるかで、その製品が現在どの工程にあるのかが一目瞭然になる仕組みです。

 専務の本杉一雄氏は、「ローテクな工夫のほうが、コンピュータ管理よりも間違いが少ないし、早い。また、トラブルが発生したときの原因解明や、復旧も短時間で済む。あまりコンピュータに頼らないほうが良い」と話します。

 もうお分かりだと思いますが、これはトヨタ生産方式の中核をなす「かんばん方式」そのものです。かんばん方式とは、製品(部品)を必要とする日時と数量を書いた「かんばん」と呼ばれる伝票を用いて、後工程が前工程に対して、必要な時に必要な分量だけの製品をジャスト・イン・タイムに製造、納品させるという生産管理の仕組みです。

 本杉製作所では、在庫は0.25~1.5日分程度しか持たないとのこと。在庫をほとんど持たず、受注から数時間で直ちに納品することで、不良在庫によるリスクや保管費用を極力抑えるといった方法も、まさにかんばん方式そのもの。本杉製作所は、かんばん方式を一目で見ることのできる貴重な企業といえるでしょう。大手自動車メーカーからの見学希望が後を絶たないのはこのためです。

前工程企業の血のにじむ努力こそ

 本杉製作所もこの10年、大変厳しい経営状況にありました。製品の値下げ要請が続き、同業他社が廃業に追い込まれていく中、同社では度重なる値下げ要請にこたえ続け、現在は同業他社の廃業の影響で受注は増えているといいます。それができたのは、このかんばん方式を忠実に守り続けた結果といえるでしょう。

 日本型生産管理方式では、トヨタ自動車などの経営効率が話題の中心になることが多いですが、本杉製作所のような前工程企業の血のにじむような努力を忘れてはいけません。日本経済を支えているのはまさにこのような企業なのです。

「中小企業家しんぶん」 2007年 4月 5日号から