日本の中小企業の実像

典型的な小企業を意識した取り組みを

 同友会を紹介するとき、「従業員数平均で30名ぐらいの中小企業で構成されている」と説明してきました。しかし、この平均値は、実感からするとやや大きいのではないかという気がしていました。確かに、平均値を用いた場合、規模の大きな企業の影響が強く出て、実態より過大な結果となる傾向があると言われています。

 日本の中小企業(会社組織)数は約152万社ですが、85%は従業者数20人未満の小規模企業からなっています。特に、従業者数0~4人の零細企業が53・2%と全体の過半を占めている実態があります。

 最近、日本の中小企業の実像を経営財務状況から正確に把握しようという研究が出てくるようになりました(鹿野嘉昭『日本の中小企業』東洋経済新報社)。同書では、信用保証協会や金融機関から融資を受けている企業の経営財務データを蓄積している中小企業信用リスク情報データベース(CRD)から56万社の標本企業を分析し、その際に平均値ではなく、分布の歪(ゆが)みに影響されにくい中央値(データを小さい順に並べたとき中央に位置する値)を採用しています。

 中央値を基準とした場合、日本の典型的な中小企業は従業員数6人(平均値では19人)、年間売上高1億2500万円、総資産残高8500万円、資本金1000万円という姿を抽出し、通常考えられているよりはるかに規模が小さいと結論づけています。加えて、営業利益は100万円、当期利益は40万円を割り込むなど、収益も低水準にあります。

 一方で、売上高や総資産残高は意外に大きいという印象があります。その理由としては、事業を営むに際しては相応の設備や機械などが必要であり、それらが3000万円と総資産の3分の1程度を占めていることや、長短期借入金残高が総資産の6割、5100万円にのぼり、この借入金にかかわる元利金を約定どおり返済していくには、それなりの売上高を確保することが必須となっていることなどが挙げられます。このような借入金依存体質に陥ることが日本の開業率を低迷させる背景にあるかもしれません。

 興味深いのは、業種的なバラツキはあるにせよ、従業員数の規模とかかわりなく、1人当たりの売上高はおおむね2000万円であり、上場企業(同、5400万円)の4割前後の水準にあることです。1人当たり2000万円の壁を突破し、成長・発展のための投資が実行できる5000万円程度の売り上げを確保できる企業が次のステージに上ることができるとします。逆に、赤字企業の場合、1人当たり売上高は1500万円に落ち込んでおり、売上高を伸長できるか否かが中小企業経営の生命線となっていると強調します。

 アメリカの中小企業総数は2370万社もありますが、1社当たりの従業員数の中央値は4人程度と日本よりも小ぶりです。

 このような中小企業の実像に照らし、中小企業政策は従来より小さい企業に焦点を当てた施策が求められているのではないでしょうか。これは、中小企業憲章を考えるうえでも留意すべき視点です。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2008年 3月 25日号より