経営者が変わり、幹部が変わる―(株)翼 社長 麻生 雅憲氏(大分)

「経営者と幹部の共育塾」にかける熱い願い

社員教育に特効薬なし経営者が変わること

 別府と湯布院で旅館、ホテル、割烹を営む(株)翼の麻生雅憲社長(大分同友会会員)にとって、最大の悩みは人の問題。特に、幹部社員をいかに育てるか、幹部に社員を育てられる力量をどう付けてもらうかが長年の課題でした。友人の勧めで同友会に入会(1994年)したのも、社員教育の手段、方法を探し出すためでした。

 以来、地元同友会が開く新入社員研修、フォローアップ研修に社員を参加させることはもちろん、自分自身も中同協主催の「社員教育活動全国研修・交流会」に何度も足を運びました。そこで得た結論は、「社員教育に特効薬はない。社員が変わるには、まず社長が変わること」でした。

 同友会では、教育を「共育」と置き換え、労使が共に学び、育つ関係づくりを提唱、実践しています。大分同友会では、沖縄同友会の「社長・社員共育塾」を参考に、3年前から「経営者と幹部の共育塾」を立ち上げました。この「共育塾」の特色は、経営者(会員)と幹部が一緒に学びあうことが参加の条件なのです。7講座が月1回のペースで進み、毎回、講座終了後には会社ごとに反省会(学んだことの確認と実践課題を出し合う)を開きます。講師は主に会員経営者。第3期を迎えた今年度は、18社61名の参加があり盛況でした。

他社の社長、幹部の真剣さに学ぶ

 「共育塾」担当副代表理事でもある麻生氏は、3年間で延べ12名の幹部を受講させました。

 第1期生である藤田幸宏氏(ホテルエール支配人)は、「入社して8年になりますが、人前で話をするのが苦痛でした。共育塾ではグループ長をやらされますから、人の話を聞き、まとめ、発表する訓練ができました。他社の社長の真剣さから学ぶことができましたし、私が夜、勉強に通えたのも現場の人たちが頑張ってくれたお蔭であると感謝の気持ちが湧き上がってきました」と語ります。

 第3期には、社長夫人である同社取締役麻生早苗氏(湯布院旅館はな村経営)も参加しました。早苗氏は「井の中の蛙であってはいけないと思い受講しました。ナンバー2の人たちと話ができたことが成果でした。社長には直接言えない若い人たちの考えをどう取り入れていくのか、社長との間のクッション役について学ばされました。当社でも板前さんの言い分、フロントの要求など部門ごとの要望が絶えず出てきます。お互いが双方の仕事の理解を深め、全体としてお客様に感動を与えることが使命なのですが、その自信を得ることができました」と語りました。

「共育」の理念をさらに広めたい

 この3年間、「共育塾」に幹部を出し続けることによって「会社が確実に変わりつつある」との実感が麻生氏にはあります。それは、定例の責任者会議などの雰囲気が、旧弊を脱皮しようとの意気込みとして表れてきているそうです。

 何よりも、社長が変わった。人の意見を聞くようになった、社員を信頼して任せる、何事に対してもイライラせず忍耐強くガマンするようになった、これが周囲の評価であり、社長の自己診断でもあります。

 中小の旅館業界は家業から企業への脱皮が迫られ、経営の体質改善はエンドレスに続きます。旅の形態も大きく変化してきました。団体の宴会型から、親子、夫婦、仲良し小グループ、シングルと、お客様が目的に合わせて泊まる所を選ぶ時代。この流れを見誤ると転落です。しかもこの業界は他人資本(銀行借り入れ)への依存度が高く、金融機関との共生関係が大切です。「そのためには企業情報を公開し、金融機関に安心感を与える経営に徹する。地域からあてにされる企業づくり、これは中小企業憲章の精神にも合致します」と麻生氏は強調します。

 企業の命綱となる人材育成。大分同友会の「共育塾」で「経営者と幹部の双方が先生であり生徒となる。経営者が謙虚に自らを変え、成長することで社風を変えていく。この理念を会内にもっと広めていきたい」と決意を語る麻生氏です。

経営理念

私達は、お客様が幸せになり、社員が幸せになり会社が幸せになる経営を目指します。

行動指針

私達は、共に考え、悩み、育ち、幸せになります。
私達は、「利他の心」と「和」を大切にし、地域社会の一員として日々努力します。
私達は、常に失敗を恐れず挑戦 します。
私達は、お客様に対してはまず、イエス(はい)からはいります。

会社概要

創業 1958年
設立 1968年
資本金 1000万円
年商 7億7000万円
社員数 82名(男31名、女49名、パート2名)
業種 旅館、ホテル、割烹、土産品店
所在地 別府市餅ヶ浜5-31 松亀ビル105
TEL 0977-21-5588
http://www.tsubasa-r.jp/japanese/shikitei/

「中小企業家しんぶん」 2006年 3月 5日号より