【新春てい談】企業、地域、国の未来をデザインしよう~日本中小企業家同友会創立50周年を迎えて

会社は公器、中小企業が担っている社会的役割を鮮明に

 日本中小企業家同友会(現東京同友会)が創立50周年を迎える2007年。新年号では、赤石中同協会長、鋤柄中同協幹事長と湯本東京同友会代表理事の新春てい談を行いました。

【出席者】
 赤石 義博氏:中同協会長/(株)森山塗工会長(東京)
 鋤柄修氏:中同協幹事長/(株)エステム会長(愛知)
 湯本 良一氏:東京同友会代表理事/(株)湯建工務店社長(東京)
【司会】
 国吉 昌晴氏:中同協副会長・専務幹事

[1] 2007年をどう見るか不安材料を正しく認識

司会(国吉) 新年おめでとうございます。

 今回のてい談の柱は、(1)今年の経済の動きをどうみるか、(2)今年の経営課題と同友会活動、(3)日本中小企業家同友会50周年を迎え、どう新たな前進をめざすか、を中心に発言していただきます。

 中同協景況調査(DOR)にも明確に表れていますが、業況判断は横ばいで推移、「景気回復」とはいえ、地域間の格差がはっきりしてきています。では、2007年をどうとらえるとよいでしょうか。

深刻な人材不足

鋤柄 当社が属する水処理業界は、2002年からの小泉内閣による公共投資削減により、下水道建設部門は年々売上減少が続いています。一方、自治体では上下水道メンテの民営化が進行し、この分野では世界の1位、2位企業を持つフランスからの日本上陸が始まっています。業界大手企業の中には部門の切り離し、別会社化、さらには撤退も見られ、業界再編成が始まっています。

 当社の本拠地・東海地方は、自動車、機械産業が集積しており、数値的には景気が良いようにみえますが、今最大の課題は若者の採用ができない、深刻な人材不足に陥っていることです。さらには、原材料の値上がりで、電気工事現場から電線が盗まれるという異常事態も発生しています。

原材料の高騰つづく

湯本 建設業界は耐震偽装設計問題が引き金となり、住宅メーカーの寡占化が進み、地場の業者が新しい仕事をとれないという事態になっています。顧客のニーズも、かつては他人と違う家を求めたが、今は性能さえ良ければ安定品質で規格量産型の家を求める、いわばクルマを買うのと似てきたのではないかと思います。一定の基準を満たし、ブランドがあれば、中古で再販しやすいという面もあり、積水ハウスなど大手はどこも最高の売上となっています。

 それに対して、地場でどう対抗するのか。やはり日常の誠実な業務を通じての顧客の満足感を地域ブランドとし、口コミの世界で信用度を高める以外にありません。地域の職方と連携し、元請け、下請け関係ではなく、住宅を作る仲間としてのネットワークを大切にし、こまめに仕事を取ることだと思います。

 原材料価格の高騰はあらゆる製品価格に影響し、2割くらいアップするのではないでしょうか。東京は職人不足で特に技術力、年季の必要な分野(大工、左官、鉄筋工等)が困っています。また、ものづくりの分野では、経済のグローバル化で絶えずアジア価格との競争に迫られ、働く人の人件費に回ってこないのが実態です。富の分配がうまく機能していないのが問題ではないでしょうか。

増えていない可処分所得

赤石 アメリカ経済は、消費需要はまずまずの推移ですが、政治環境の変化がどう影響するか、慎重に見るべきでしょう。世界的には、アジアを中心にインフラ整備が進み、建設機械業界は空前の好景気といわれています。

 情報とお金の集中する首都圏、次いで東海、近畿、少し遅れて北九州の活況、この状況はしばらくは変わらない。しかし、すでに指摘されたように、非鉄金属類の高値がまちがいなく続くこと、輸出関連業界、地域の好況がかつてのように水平に広がり、仕事が増えるのではなく、垂直統合型で土台部分も狭い、つまり波及効果の薄いことを見ておかねばなりません。

 さらに、勤労者所得が8年連続低下していること、高齢者の税負担やさまざまな控除の廃止、介護保険の負担増等で可処分所得のダウンが続いています。つまり、かつてのように、消費購買力を回復するための減税や所得格差の是正が、政策的に行われる見通しはないということです。そこでどうするかを考えていかねばなりません。

[2] 2007年の経営課題基本を忠実に、同友会で経営力培う

司会 このような情勢のもとで、私たちはどのような企業づくりを進めていくのか。同友会の活動の重点ともあわせて提起していただきます。

企業づくりの原点 経営指針作成で自らを磨く

湯本 当社はビル、住宅、リフォームと何でも手がけています。社内でいつも強調していることは、「お客様と一緒に家をつくるプロセスを大切にしよう」、お客様が「思っていた以上に良くできた」と満足度を高めてもらうことです。専門的知識、技能を生かすことはもちろん、コミュニケーションを良くする。そうすると10年経っても担当した現場監督に名指しで電話が掛かってきます。基本を忠実にやっていく以外に妙手はありません。

 売上を伸ばす成長路線が難しい今日、社員の生活をどう守るのかとても難しい。みんな悩んでいます。東京同友会の企業づくりの原点としては、経営指針づくりをしっかりやることです。何のために経営をしているのか、各企業の社会的意義を明確にする、そういう論議を繰り返し行い、自分たち自身を磨き上げていくことです。

 東京同友会は現在第6次ビジョンを検討中です。中小企業憲章のめざす方向とも一致しますが、国の政策の根幹に中小企業をしっかりと位置づける社会に変えていく。私たち自身もそういう社会を担うにふさわしい企業に成長していこうということです。何といっても、人(経営者)づくりが最優先課題です。

問われる人間尊重経営の実践

鋤柄 人材確保が難しくなってきたと話しましたが、当社の場合も05、06年と、応募数や応募学生の質的側面から見ても、かつての就職冬の時代に比べて様相が一変しました。「欲しい」と思う若い人がなかなか採れません。幸いにもこうなることを予測して、その前の3年間で約100人採用しておきましたので助かっています。やはり同友会の共同求人活動に早めに参加して、人数のいかんにかかわらず定期的に採用を続けることが大切です。

 当社の特徴の1つは、女性の管理職が次々と生まれていることで、部課長の半数はそのうち女性になるのではないかと予想しています。また、現在の社長は3代目ですが、社長の任期は10年と設定、社長の身内は入れず、社内にチャンスに挑戦する社風の定着をはかっています。業界ではユニークな会社として知られていますが、これも「労使見解」(「中小企業における労使関係の見解」中同協『人を生かす経営』所収)を繰り返し学び、人間尊重の経営をめざしてきたお蔭かなと思っています。

地域社会に立脚した経営理念を

赤石 注意すべきことは、今の時代は変化が早く複雑になった、だから手っ取り早く儲かることはないかと右往左往してはならないことです。変化のスピードが早い、複雑化したといわれるが、一皮むけば80年代の後半から経済政策の基本の流れは残念ながら変わっていません。

 そこをふまえて地域を見る。今、私たちは地域とそこに立脚する企業との相互関係を正確にとらえ、地域づくりを中小企業の使命として取り組んでいます。1つの統計ですが、1995年~2004年の10年間に、人口30万人以上の都市(自治体数では9%、人口数では43%)は、人口も増え、1人当たり所得も増加している。その1つ1つの都市は工業が中心なのか、商業が中心なのか、どういう強みがあるのかを正確に分析し、そこにあった仕事づくり、企業づくり、地域づくりをデザインすることが大切であると思います。

戦略的発想を養う

赤石 地域社会に連動した経営理念を確立し、経営方針、経営計画は理念の具体化のためにあることを再度確認したい。かつてバブル期に経営指針づくりが「どう儲けるか」と数字に片寄りはじめた時、中同協は「何のための経営か」をキーワードに経営理念重視を強調しました。経営指針づくり活動が広範に広がった現在、さらに進めて戦略的発想を強めること、地域、業界、市場を科学的な裏付けを持って捉え直す。それに沿って、財務戦略もきちんと持つということです。

鋤柄 戦略の策定は、まさしく社長の仕事ですね。

湯本 市場構造が変わっていくので、戦略は立てづらい。ですから経営者は先見力を養わなければなりません。先見力、判断力をきたえる道場が同友会です。

[3] 日本中小企業家同友会創立50周年を迎えて、歴史に学び新たな前進めざす

司会 今年は日本中小企業家同友会(現東京同友会)が誕生して50周年を迎えます。東京同友会なくして現在の47同友会は存在しないことになりますので、私たちもこの歴史的意義をしっかりふまえていかねばと考えます。意義ある年を迎えての抱負をお願いします。

温故知新の精神で次代へつなぐ

湯本 一口で言うと、温故知新です。半世紀の間、情勢変化にどう対応してきたのか、それをしっかり学び、次の時代へつなげていくことです。特に3つの目的の3番目「よい経営環境づくり」、これは大勢の経営者が力を合わせなければ実現できません。

 金融アセスメント法制定運動で、私たちは国の政策を変えることができるという貴重な経験を積んできました。「中小企業が良くなれば世の中が良くなる」ことを鮮明に打ち出す、その旗印としての中小企業憲章ということになるでしょうが、「中小企業大臣をつくろう」といった分かりやすい社会へのアピールも必要ではないでしょうか。

 もう1つは、中小企業経営者に対する社会一般のマイナス評価(公私混同等)への対応です。会社は公器である、株主だけのものではない、雇用に対する責任、仕事づくり、地域文化の担い手であることなどを、もっと教育の分野やさまざまなチャンネルで伝え、中小企業のイメージアップをはかることが必要です。

憲章の実現は3つの目的の総合実践であること

鋤柄 東京同友会に学ぶ点はたくさんあります。2005年の経営研究集会は立教大学との連携で行い、東京ならではの成果をあげています。

 最近の各同友会での研究集会、フォーラムの特徴は、行政マンが一緒に学んでいることです。来賓ではありません。分科会で真剣に学びあうことで、「こんなにまじめに勉強する中小企業家がいるのだ」と驚き、同友会への信頼も高まります。

 中小企業憲章学習運動の中で分かってきたことは、憲章の中身である中小企業を主軸とした地域づくり、国づくりは、よい会社、よい経営者、よい経営環境づくりをめざして個々の経営者が自覚的に取り組むこと、つまり3つの目的の総合実践であることです。これを入会時のオリエンテーションの時から訴える、共同求人、社員研修等あらゆる場に織り込んでいく。言葉だけで理解するのではなく、私たちの実践そのものが憲章の実現につながることを広めていきましょう。

 そのためにも、企業体質がしっかりした経営者集団としての同友会の輪をもっと広げること、500名の同友会は1000名に、1000名の同友会は2000名に、目標を明確に掲げ、中同協全体として5万名会員の実現を確かにしたいものです。

未来をデザインする力を構築しよう

赤石 中小企業憲章の実現は同友会だけでできるものではありません。学習運動から制定運動に入る前の段階で他団体と交流し、憲章の論議を広げる努力が必要です。一緒に制定していこうというスタンスです。

 憲章、振興条例制定運動でいよいよ必要となるのは、先ほども触れましたが、地域の未来をどうデザインしていくかです。たとえば、95~04年の10年間に、東京都民1人当たり名目賃金所得は沖縄の1・6倍(物価差を入れた実質賃金で1・4倍)になり、この格差は広がる傾向にあります(詳細は松田久一編著『これからどうなる47都道府県の経済天気図』洋泉社発行参照)。強い地域はますます強くなる、この問題をどう解決するのか。

 マクロな視点に立ち、地球環境保全を見据えて経済の持続的発展をはかる、つまり、ゼロ成長での繁栄を確かにすることは可能なのかということです。たとえば、街の電器屋さんを復活させてリサイクル社会をめざすとか。

 IT技術の急速な発展に象徴されるように、資本主義の究極の成長は一方で大量の失業者を生みます。アメリカ社会が2000万を超える中小・自営業を生み出しているように、日本においても中小企業に働く人が勤労者の8割であることを考えると小さな仕事を無数につくり、すべての労働者が自立できる力を持つことも展望すべきではないかと思います。

 中小企業(地域)振興条例、その根本法である憲章制定のため、企業、地域、国のありようをデザインすること、その力をつけることが私たちに求められているのではないでしょうか。

司会 大きな課題が提起されましたが、足元をしっかりと見つめ直し、着実な前進の中で大きな未来をつかむ年としたいものです。ありがとうございました。

「中小企業家しんぶん」 2007年 1月 5日号から