【第23回社員教育活動全国研修・交流会】社員に学び、社員の力引き出そう

 11月15~16日、「共育・共学・共動」をメインテーマに第23回社員教育活動全国研修・交流会が新潟で開かれ、28同友会から250名が参加しました。1日目は会員企業の事例報告から、2日目は教育学者の講演から学びました。また交流会に先立ち、新潟同友会は創立25周年記念式典を開催、これまでの最高会勢525名となりました。

 冒頭、中同協社員教育委員長の本郷利武氏が「社員とともに地域を創(つく)る」と題して、社員ともども生活者としての視点から地域を考える重要性を問題提起。

 事例報告は、大愛康洋・オーアイ工業(株)専務(富山同友会副代表理事)が、同友会で学ぶことで、社員を自分の意のままに動かそうとする人間観が変化、社員が自分で考える集団へと脱皮したことで、取引先の倒産による最大の危機を乗り越えた経験を語りました。

 2日目は、「若者の可能性と中小企業への期待」と題して、法政大学教授の児美川孝一郎氏が講演。児美川氏は、若者の進路をめぐる急激な変化や意識と心理の特徴に触れながら、キャリア教育のあるべき姿と若者の成長に果たす中小企業への期待を述べました。

 参加者は「経営者の価値観を押し付けずに社員からも学び、社員の力を引き出したい」「若者バッシングではなく、まず受け入れるよう努めたい」など、社員教育への新たな意欲を燃やし、課題を持ち帰りました。

 交流会には、地元の行政、教育、金融機関などからも11名が参加し、神保和男・新潟県副知事、大滝祐幸・新潟県教育委員会教育次長、篠田昭新潟市長から、来賓のあいさつがありました。

【問題提起】 中同協社員教育担当常任幹事 本郷 利武氏
社員とともに地域を創る~中小企業憲章制定は社員や地域とともに

【基調講演】 法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川 孝一郎氏
若者の可能性と中小企業への期待~地元に根ざしたきちんとした働き場とキャリアモデルの提供を


【問題提起】社員とともに地域を創る~中小企業憲章制定は社員や地域とともに―中同協社員教育担当常任幹事 本郷 利武氏

 
社員と共に中小企業憲章を議論

 中小企業憲章の運動が始まった時、まず最初にヨーロッパの小企業憲章を自社で読み合わせをしました。

 社員の反応はとてもよく、特に前文で「小企業はヨーロッパ経済の背骨である。小企業は雇用の主要な源泉であり、ビジネス・アイデアを生み育てる大地である。小企業が最優先の政策課題に据えられてはじめて、“新しい経済”の到来を告げようとするヨーロッパの努力は実を結ぶだろう」と謳(うた)っている、この基本理念が受け入れられました。「日本にも、北海道にも、こういうものがあればいいのに」という話で盛り上がりました。

見えにくい地域とのかかわり

 いま、札幌では中小企業振興基本条例を政令都市第1号として制定することをめざしています。

 そこで札幌支部を中心に近郊の方にも集まってもらって議論してきました。その中で「郷土愛がなければ地域は考えられない。しかし郷土愛というのを共通の基盤として考えていいのか」という議論が出されました。自社で社員に聞いてみると、仕事の場と生活の場は離れており、通うのに何十分とかけてきている中で、地域というのはなかなかとらえにくいという話になりました。

 夜、寝に帰るようなもので、地域の活動にも加わりにくい。子どもが幼稚園・小学校に上がると地域は意識されるが、高校生になるとあまり意識しなくなる。定年になって家に戻ると、再び地域を意識するようになる。仕事の場と生活の場が離れてしまったことによって、地域とのかかわりが見えにくくなっているのです。

教育・医療・福祉を担う地域を育てる

 しかし、地域に住む人は地域に根ざすしかありません。郷土愛が育ちにくい中で、どうやったら地域のことを考えられるのでしょうか。

 経営者も社員もビジネスで職場に来ているのと同時に、地域の生活者でもあるわけです。経営者も社員も経済活動の場で働いて収入を得て、その中から生活の場で必要なものを買っています。

 しかし、買えないものもあります。それは、教育・医療・福祉です。これらは、いくら稼いでも満足のいくものは自分のお金だけではなかなか受けられません。それは、地域の自治体の行政サービスも加味しながら考えていく必要があります。しっかりとした行政サービス・教育・医療・福祉をうけるためには、地域がしっかりしなければなりません。

 人は幸せになるために生まれてきたのであり、教育・医療・福祉という人間の命にかかわるものを、生活の場である地域で育てていかなければなりません。そこに社員とともに地域を考え、中小企業憲章運動を進めていけるポイントがあるのではないでしょうか。


【基調講演】若者の可能性と中小企業への期待~地元に根ざしたきちんとした働き場とキャリアモデルの提供を―法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川 孝一郎氏

 この10年間で若者を取り巻く進路状況は大きく変化してきました。大人が「こうすればいい」「こういうものだ」と思っていることと大きく変わってきています。

いまどきの若者と進路

 教育制度内における競争の「二極化」が進んでおり、有名高校・大学をめぐる激しい受験競争をしつつ「いい学校」「いい会社」をめざす少数の子どもと、小学生の段階から自分の将来をあきらめてしまう多数の子どもに二分され、全体的には受験競争が弛緩(しかん)しています。「勝ち組・負け組」「格差社会」「自己責任」、そうした社会の縮図として学校の世界があります。格差というのは社会に出てから分かれるのではなく、小学校高学年でもすでに、学力の面などで大きな差ができているのです。

 92年と07年のグラフ(図1)を見比べてみると、高卒者の就職が大幅に減り、減った分を進学が吸収し、増えているのがわかります。今は、学校を選ばず親に経済力さえあれば大学には入れる状況です。推薦入試やAO入試なども拡大してきましたので、6~7割の学生は勉強せずに大学に入っているということもあります。

 他方で、大卒者の「その他」が大幅に増えており、これはニートなど「無業者」の増大を意味しています。高卒求人の激減、大卒の大企業求人の減少のなか、教育制度の出口における状況は厳しいのです。

若者たちの意識と心理

 そうした中で、「いま努力することが、将来につながるわけではない」という感覚が広がっています。日本教育学会の研究グループによる2003年の調査によれば、「将来のために我慢して努力するより、いまを楽しく過ごす方がいい」に、「そう思う」と答えたのは63.8%にも上ります(図2)。しかし、これは子どもを責めてもしようがないことで、大人がそういう生き方をしていることを反映しているのです。

 また、将来展望が個人化してきています。「どんな暮らしをしたいか」という質問に対し、「しっかりと計画を立てて豊かな生活を築く」は15%、「みんなと力を合わせて社会を良くする」は7%にすぎず、「その日その日を自由に楽しく過ごす」「身近な人たちとなごやかな毎日を送る」は、足すと4分の3を超えています。

 将来への見通しや展望が持ちにくい中で、少数派は不透明だからこそ「勝ち組に」と思って競争しており、多数派は今を犠牲にする必要はないという「現在享楽志向」ともいえる状況になっています。

 生活感覚は大変狭く、親しくしている友だち以外は、同じクラスの中であっても互いの名前も知らないということがあります。非常に狭い親密圏を持っていて、社会など外への意識は低いが、内には過剰反応とさえ言える気遣いをして生活しているのです。 ただし、こうした若者の現実をネガティブにだけ評価する必要はありません。親密な、身の回りに愛着をもつ傾向は地元志向にもつながっています。また、本人がやりたいと思ったことは、ものすごい集中力で向かう面も持っています。今の若者には、表現力や集中力、自立性など、かつての若者にはなかったよさもあるのではないかと思います。

学校におけるキャリア教育の展開

 キャリア教育は、2000年前後から文科省の政策になり、2003年以降本格化してきました。「勤労観・職業観の育成」、職場体験・インターンシップへ傾斜しており、危惧(きぐ)される点もあります。たとえば、フリーターは推計で400万人とも言われますが、ニートの4割は就労経験があると言われており、5割は就職を希望しています。

 若年雇用問題を「働く意欲がないから」などと若者たちの意識の問題に還元する議論がありますが、若い人に機会を与えて育てていくという社会の責任はどうなっているのかも考える必要があります。

 学校教育におけるキャリア教育とは、働くことを軸にしつつ、子どもたちが卒業後どう生きていくかを見通して、そこで必要な力を身につけさせる教育です。社会人になれる力を学校のカリキュラム全体を通じてつけるものであり、学校関係者だけでなく家庭・地域・職場と提携してつくっていく必要があります。働く大人に接して、自らのキャリアモデルとしての大人に触れて成長するのが若者であり、職場体験で中高生が何にインパクトを受けるかと言えば、真剣に働いている大人の姿なのです。

中小企業への期待

 若者の就労支援、社会的自立の支援を目的としたスウェーデンの若者政策法(1994年施行)は、「若者は社会にとっての貴重な資源」と謳(うた)っています。若者を大人にするための支援は、社会全体の責務であるという立場です。

 高校生が一番困るのは、地元志向で頑張っていても、地域に就職先が見つからないことです。中小企業には、人間の中でもまれて育つことができる条件があり、若者が育つ上で果たす役割は大きいと思います。仕事の全体像が見えやすく、自分が何のためにその仕事をしているかが分かりやすく、顔の見えやすい人間関係があるためです。地元に根ざしたきちんとした働く場があるということが見えれば、若者はもっと中小企業を選ぶと思います。

 学力競争にしがみつく道に疑問を感じはじめている若者たちがいます。疑問を持ちながらも競争からなぜ降りられないかというと、それとは違うコースが見えないからで、「こういう働き方、暮らし方、人間としての生き方がある」ということをもっと伝えてほしいと思います。また、学力競争から降りてしまって、自分に自信が持てないでいる多くの若者もいます。自分を律するいろいろな習慣が身についてなかったりしますが、それは劇的に変わる可能性を秘めています。そうした若者たちに丁寧に働きかけることができるのが、「人が資源」である中小企業ではないでしょうか。

 中小企業が元気になることは、小・中・高校生にキャリアモデルを与え、希望を与えることにつながり、学校教育の行き詰まりを打開することにもつながると思います。ぜひとも力を貸していただければと願っています。

「中小企業家しんぶん」 2007年 11月 25日号より