突然の危機、会社を支えたのは社員たちだった!―オーアイ工業(株) 専務 大愛 康洋氏(富山)

人間尊重の経営“共に育つ”とは

 大手販売先が会社再生法を申請するという会社存続の危機を、社員と共に乗り切った大愛康洋氏(オーアイ工業(株)代表取締役専務、富山同友会副代表理事)の実践を、第23回社員教育活動全国研修・交流会での事例報告から要約して紹介します。

オーアイ工業と商品市場

 オーアイ工業は、婦人用パンティストッキング・カラータイツ・レギンス・レース付ストッキング、子供用タイツなどを企画・製造し、生産足数は年間1840万足 (国内生産シェア8.8%)となっています。1989年、当社で開発した「ゾッキパンスト」は消費者の支持を受け、1996年からは31色展開のカラータイツを生産し始め、現在爆発的に売れています。

 靴下類の国内の供給足数は16億足前後と、比較的安定した市場ですが、パンスト・タイツの国内供給足数は10年間で半分以下の水準にまで縮小しています。靴下の国内生産足数は、10年ほどで約3分の1の市場規模にまで激減しています。安定した国内販売市場と、縮小し続けている国内生産との差が、海外からの輸入です。

「独裁者的な経営」から「人間尊重の経営」へ

 私は1983年4月、 新卒として入社しました。当時の社風は、「経営者の顔色を伺いながら、言われたことのみをやってさえいれば良い」という感じでした。自分の意見を言うことなど、まず考えられない状態でした。それでも結果が出せた、古き良き時代でもありました。

 1996年3月、同友会の社長研修会に、何気なく参加しました。社員を主人公と考える赤石中同協幹事長(当時)が話される「人間尊重の経営」観が、社員を経営者の手足のように意のままに動かす私の「独裁者的な経営」観と、あまりにもかけ離れていて、強い衝撃を受けました。

 社長研修会でのショックから、社員の能力を十分に発揮できる会社への変革を決意しました。まず社員への接し方を改め、縦組織と横の関係を組み合わせた組織づくりに取り組み、消費者クレームを減らすために社内で「消費者クレーム対策会議」を立ち上げました。1997年以降、翌年の経営方針や活動方針などをじっくりと話し合う場としての「基本方針検討会」を開催するようにもなりました。

 社員も変わっていきました。同友会の中堅社員研修会に参加したある社員は、研修会が終了して会社に戻ると、自分の担当している機械の改造を行い、3カ月後にはロスを10%低減させました。その後も機械の改造に専念して、3年後にはロスを90%も減らせるような機械の改造方法を提案し、業績改善賞を全社員の前で受賞するまでになりました。

 その後、地元支部例会へ管理職と一緒に参加したり、経営幹部3名と経営者大学へ一緒に参加したりするようになります。幹部社員と一緒に会場まで行く道中、ゆっくりと話す時間が取れたことが印象的でした。このころから自分の仕事しかしなかった社員が、少しずつ、他工程のことも考えながら仕事を行う集団へと変化し始めていたのです。そして、それまでにまいていた種が今回の「突然の危機」をキッカケに芽を出したのです。

突然の危機

 2003年5月下旬、大手販売先から受注した商品の引き取りが急に悪くなりました。そして6月のある日、大手販売先が突如、会社更生法を申請します。受取手形や売掛金の回収不能などにより、10数億円の貸し倒れ損失が突如発生しました。しかし当社は、会社更生法の提出を断念し、地道に利益を積み上げて会社再建を行うという、一番大変な道を選びました。長年働いている社員、地元協力会社の従業員の職場確保、長年お世話になっている仕入業者に迷惑は掛けられない、という思いからでした。

 とはいえ、社員の気持ちも揺れ、再建案支持グループと退職金上積み闘争支持グループとの不協和音が目立ってきました。最終的には会社側の再建案に反対の方々を中心とした希望退職者を募集することにしました。

 だれが希望退職に応募するのか不安でなりません。眠れない1週間を過ごしました。結果的には、希望退職者は30人だけで、ほとんどの社員が残ってくれました。本当に涙が出るくらいうれしかったです。渦中に営業担当係長に聞くと、彼の顔は、疲労困憊(こんぱい)しているのが明らかであるにもかかわらず、「会社からかけられている期待の大きさや、自分自身の仕事に対する責任の重さをヒシヒシと感じています。だから、この会社を辞めるわけにはいきません」と話してくれたことを、今でも忘れられません。

 2004年9月に大阪同友会の(株)山田製作所を、当社の製造部長と一緒に訪問しました。整理整頓はもちろん、スーツで寝転んでも良いくらい工場の床がきれいなのに驚きました。

 それ以降、製造部長は工程改善・仕掛在庫減少などの改善活動に邁進(まいしん)するようになりました。不動在庫の整理・処分ということで原材料やパッケージを次々に捨て始めたのです。その結果、在庫は3分の1にまで減りました。結果的に、倉庫や工場内の見通しが良くなり生産性がアップして、利益の出やすい企業体質になりました。

経営者の仕事とは

 突然の危機が訪れる可能性は、どこの会社にもあります。今回、民事再生法を申請した大手販売先は、突然、銀行口座をロックされ、金融機関主導型で民事再生法の申請を行わざるをえない状況に追い込まれたのです。現在、金融機関は1種の融資合戦を繰り広げていますが、またいつ、前の状態に逆戻りするか分かりません。

 突然の危機が訪れるのを防ぐためにも、私たち中小企業の経営者は、しっかりとした経営理念に基づく経営をして、収益力を上げるための実施計画を立案し、それを実行に移す社員の能力を向上させなければなりません。そして、金融機関の勝手な判断に運命をゆだねなくてもよい、強い企業体質にしなければならないということを痛感しました。そのためには、まずは社員の成長が大事です。いくら経営者が立派な経営理念や実施計画を建てても、それを実際に実行するのは社員なのですから。

 社員教育に対して、よく「会社に人的余裕が無い」とか、「利益が出てから、そのうちに」と言われる方がおられますが、それでは企業の成長はおろか、存続さえも危ぶまれます。一人ひとりの「持ち味を引き出す」ことを助けるのが教育です。その「持ち味を引き出す」ための「学びの場」を保障することも当然必要です。

 会社に余裕があって初めて社員教育を行うのではなく、まず社員に対して「学ぶ場」を提供し、一人ひとりの持ち味を引き出すことで、社員も企業も成長し、その結果として利益が出るのです。

【会社概要】
創業 1887年
資本金 3310万円
社員数 255名
年商 32億5300万円
業種 高級レッグニット 製品の企画・製造
所在地 魚津市本江850
TEL 0765-24-1000

「中小企業家しんぶん」 2007年 12月 15日号より