【特集】今年の景況とわが社の経営戦略~厳しい景況下でこそ、地域力経営を

同友会会員がみる今年の景況~DOR2007年10~12月期より

 中同協景況調査(DOR)2007年10~12月期(本紙2月5日付既報)は、景気後退懸念を指摘しています。今特集では、同調査の「経営上の力点」・「来年の抱負」の記述回答から、会員が今の景況をどのように把握し、経営の舵取りを考えているかを紹介します。また、その中で地域力経営をいかに進めていくかについて、第38回中小企業問題全国研究集会(3月6~7日・宮城)14分科会「地域力経営とは何か―わが社の実践」の報告者、新井氏と守氏の経営戦略から考えます。

1.「官製不況」が加速―目立つ景気後退懸念の声

 今期はいつにも増して、景気後退を懸念する記述回答が目立ちます。特に、物価上昇の中での不況懸念があります。

▼「景気の節目、インフレでありながら個人消費不振、唯一外貨稼ぎ輸出産業頼み。道内は恩恵少なし。ゆえにスタグフレーションがすすみ、当社業界はかなり淘汰があると思う」(北海道、建築・土木)。

▼「年末に向けて一層業況が悪化している。ここ数年、毎年1~2軒得意先が廃業している上に、残った得意先からの受注金額、数量共減少ペースが止まらない」(大阪、金属材料販売)。

建築確認遅延による混乱の影響

 また、準備不十分のまま「見切り発車」した改正建築基準法施行に伴う大幅な建築確認遅れによる混乱と、それによる「官製不況」の広がりを指摘する声が今回17件もありました。

▼「確認申請業務が大幅な遅れとなり、(中略)お客様の苦情に対して状況を詳しく説明し、了解を頂いているが、(中略)売上、および利益計画を大きく見直すため、頭を痛めているのが現状」(和歌山、総合建設業)。

▼「自分の努力ではどのようにも変えられない外部環境に負けない内部体質の強化を図ることが第1であるが、(中略)確認遅延問題など、国民の足を引っ張る行政を何とかしてほしい」(福岡、管工事業)。

原材料価格高騰が経営を直撃

 さらに、原材料価格高騰問題が中小企業経営を直撃しています。

▼「今年は、10月からの大幅材料値上げで1000万円/(月)を超える影響が出る。ナショナル大手ユーザーは、時期、額、ルール等がなかなか決まらない」(三重、段ボール加工販売)。

▼「仕入価格の大幅上昇を受けて客先への転嫁を図ったが、業界の過当競争の体質は更に悪化。主力商品は累計で13%も下落した」(東京、洋紙卸販売)。

価格転嫁の努力が死活問題に

 もちろん、価格転嫁の努力が死活問題となります。

▼「原材料の値上げに対し、客先への価格改訂を行い、適正価格での販売に努力している」(千葉、印刷紙器製造販売)。

▼「輸入コストアップ(中国)により1年間をかけて約10%の上代値上げを実施。昨今の他業種の値上げにより多くの顧客に同意を頂き、受注数量を落とすことなく増加している」(香川、高齢者シューズ製造)。

2.不況の嵐に備え、どういう手を打つか

 
人材確保・育成と次世代へのバトンタッチ

 人材の確保と育成は、計画的で時間がかかる取り組みですが、次世代にタイミングよく継承するためには、スピードも要請される難しい経営課題です。

▼「社員教育につきる。分社化して採算を部門ごとに追求し、決算できる状況を整え、将来社内から後継者を出せるような人材を育成中である。真剣に取り組めば取り組むほど、教育の難しさを痛感している所である」(山形、段ボール)。

▼「これからの3年間で10数名の社員の定年退職者が出る。人材の切れ目がないよう若手の採用、教育に力を入れてはいるが、思うような人材が取れないのが現状で、来年は本腰を入れて取り組まなくてはと思っている」(富山、精密機器販売)。

▼「若手社員の教育投資を強化して、熟練化する年数を短縮させる」(和歌山、清酒製造)。

▼「事業継承―(1)次世代に指揮権の分譲をしている。(2)個人資産から会社資産への転換をしている(中略)事業継承をスピードアップ」(神奈川、機械器具製造業)。

事業の軸の確立と新事業分野とのバランス

 事業の軸をしっかりさせつつ、新しい事業分野への挑戦を進める、そのバランスが難しくなっています。

▼「受注に甘えていないで、仕事を創(つく)り出すことを主にした方針への転換」(山形、印刷・同関連産業)。

▼「自然食品通販事業が社員数が増えたこともあって、扱う商品の分野を広げているが、そのことが事業の軸を見えにくくしている。力を集中することがうまく機能していないので、(中略)それぞれの事業の軸を明確にした」(大分、情報処理・自然食品通販)。

▼「事業の柱以外の収入が見込める状況だが、会社を永続的に維持発展させるために、事業の柱を見失わないで計画を立てて行きたい」(鹿児島、パッケージ・ソフト開発)。

需要開拓と東京圏への進出

 消費不況の様相が深刻になるにつれ、需要の開拓・拡大は容易な課題ではありません。

▼「営業開発部門を新設して開拓に努めているが、民需が少ない地域のため、新規開拓には苦戦しています」(岩手、配電盤、制御盤の製造)。

▼「業界が全体的に不振。営業努力はしているが競争が激しい。内部体制をもう1度見直し、新規開拓をベテランが中心になってやるようにしている」(東京、ユニフォーム及び繊維製品卸小売)。

 場合によっては、大消費地・東京圏から仕事を呼び込むことも必要となるでしょう。

▼「関東での新規販売先での受注が下期から取れ出し、来期受注増が見込める。東京支店開設予定」(大阪、婦人服企画生産販売)。

▼「県のブラッシュアップ事業の認定企業に選ばれ、首都圏への進出を模索中」(山形、鶏卵卸)。

付加価値の増大と収益改善

 今後予想される不況の嵐に立ち向かうためには、強靭(きょうじん)な企業体質でなければなりません。

▼「走り過ぎて資金が非常に窮屈な状態になった。これからは、会社の体力の増強を第1に考え、1人当たりの付加価値を高めることを第2と考え、しっかりと両足で歩んで行きたい」(鹿児島、総合・福祉用具レンタル販売)。

▼「長年のお取り引きで、赤字品番が増えてきた。そこで、(中略)赤字品番からの撤退を行った。これにより、年間2000万円程度の収益が好転する予定」(富山、繊維製品製造)。

 単に数値の改善を追求するだけでなく、その意味を社員と共に考え、しっかりと共有するのが同友会の企業らしいと言えましょう。

▼「付加価値=粗利益を増加させることの意味を社員と共に考える。(中略)営業一人ひとりが自分の人生を創(つく)り上げていくための付加価値であるとの認識を高めた」(静岡、日用品・雑貨等卸販売)。

希望の持てる職場とオンリーワン企業へ

 社員やユーザー、取引先から支持される中小企業は強い企業と言えます。

▼「社員が本腰を入れ仕事をするために、将来の希望の持てる職場作りを目指したい。たとえば、厚生年金のみでは生活不安を感じるので、退職後にプラス企業年金を受け取れる環境を作る等」(和歌山、農業・管工資材、福祉用具販売等)。

▼「『量から質へ』の転換を組織面、製品面で推進し、小さくても強い企業体質を実現しつつある。独自性こそ中小企業の生き残る道であると思う」(大阪、線香製造)。

▼「中小企業の長所を再確認し、オンリーワン企業へ。自己資本100%を目標へキャッシュフローのバランスシートを!」(兵庫、繊維製品等製造業)。

3.厳しい時こそ、変化を起こす側に

 2008年は、景気後退の様相を濃くしながら年が明けました。経営者の責任はますます重くなりますが、発想と姿勢をより主体的に、前向きにすることで乗り切りたいところです。

▼「不況の時こそ(業界は確認申請等の遅れにより、最悪の状況)ビジネスチャンスと思って、思い切った事業展開をしたい」(愛知、住宅資材卸小売業)。

▼「変化が激しい時代。どんな大変化が起きようとも諦めず、変化を起こす方に回らねばならないと思います。来年も十分に勝算ありです!」(福岡、情報処理・ネットワーク・システム構築・通信機器保守)。

地域力経営―わが社の実践

「中小企業家しんぶん」 2008年 2月 15日号から