後期高齢者医療制度とメタボ健診

「長寿」を喜びあえる社会か「うば捨て山」か

 4月1日から、「後期高齢者医療制度」と「メタボ健診」(新健診制度)が始まりました。いずれも、高齢社会を迎え、増え続ける医療費をいかに削減できるかが目的です。

 75歳以上を対象とした「後期高齢者医療制度」では、3月になって突然送られてきた「保険証」にとまどい、制度の実態が分かってくるにつれ、「なぜ、75歳以上だけ差別するのか」「まるでうば捨て山だ」との批判の声が高まっています。あまりの批判の強さに政府は、制度開始日の4月1日、「通称を長寿医療制度とする」ことを急きょ決定したほどです。

 国民健康保険に加入していた人も、会社に勤め、健康保険の被保険者本人や扶養家族だった人も、75歳以上であれば、すべて「後期高齢者医療制度」に移行。扶養家族だった人は、健康保険の扶養家族から外され、自分の保険料を負担しなければなりません。

 これによって健康保険は75歳未満の人だけが対象となり、代わりに、後期高齢者支援金を負担します。これまで75歳以上の被保険者と扶養家族の医療費を負担したほかに、老人保健制度にも拠出していたので、企業負担の軽減が見込まれています。

 保険料は年金からの天引きが基本。年金が18万円未満(年額)の場合などは、自分で納付手続きをします。所得に応じて保険料の軽減措置がありますが、それでも未納の場合、保険証は取り上げられ、医療費をまず全額自己負担しなければならない「資格証明書」に切り替えられます。お金がなければ病院にも行けず、最悪の事態となります。

 保険料は都道府県ごとに決められ、医療費がかさめば自動的に保険料も上がる仕組みです。高齢者が多い地域では、医療費抑制に向けた必死の努力をしても、保険料引き上げか医療の低下かの二者択一を迫られ、ますます地方格差の広がることが懸念されます。

 医療内容も、「後期高齢者」は治療の長期化、複数の病気(慢性疾患)にかかる、いずれ死を迎える、ことに特性があるとし、(1)外来診療で複数の検査や投薬があっても診療報酬は定額とすることで「過剰診療」を抑制(患者にとっては必要な医療が受けられない懸念)、(2)早期退院を促し(早期退院させた病院には診療報酬を加算)、在宅医療中心などに変更されます。

 入院費を払わない長期入院患者を公園に置き去りにした病院がありましたが、早期退院の奨励は、このような事件をさらに引き起こしかねません。「施設から在宅へ」と始まった介護保険ですが、在宅介護の状況は厳しく、特別養護老人ホームの入居待機者も全国に30万人以上。早期退院奨励はこの状況に拍車をかけることが危惧され、医療と福祉の連携強化など、総合的な高齢者施策が急務です。

 一方、現役世代が対象の「メタボ健診」は、生活習慣病を予防することで、将来の高齢者医療費を抑制しようというもの。「メタボ」社員の状況がどれだけ改善したかで、後期高齢者支援金の額も増減します。

 団塊世代が引退し、いよいよ本格的な高齢社会に突入する日本。「長寿」を喜びあえる社会になるのか、「うば捨て山」の時代に戻るのか。高齢社会をどう設計し、社会保障を充実させていくのか、企業も含め、いま真剣に考えなければならない問題です。

(O)

「中小企業家しんぶん」 2008年 4月 15日号より