地域のネットワークで保育園を守る~親で作ったNPOが区立保育園運営を受託

NPO法人未来こどもランド理事長 相澤愛氏(相澤法律事務所所長)に聞く

理事長と園長

相澤愛氏(左)と桂久美子氏(右)

 働きながら子育てをしていく上で、最初の大きな壁となるのが保育園の入所です。東京都練馬区の公設民営化された保育園を、親の立場で立ち上げた「特定非営利活動法人未来こどもランド(以下、MKL)」が受託。今回は、その相澤愛理事長(相澤法律事務所所長)に、保育園経営からみた地域の子育てについて話を聞きました。

人口流入で保育園待機児400人

つつじ保育園外観

 「練馬区立石神井町つつじ保育園」(園児114名)は、0歳児からの産休明け保育があり、園庭が広く、駅から徒歩5分の立地のため、1987年の開設当時から入所倍率の高い園です。

 06年に公設民営化された後も、MKLは利益を追求せず、父母会との連携を大切にし、設備を充実させ、男性の保育士も複数名配置。休日保育やスポットの延長保育なども実施しています。

 人口が70万を超えた練馬区では、60園ある区立保育園の待機児が毎年400名前後(無認可保育園等に預けながら区立を希望している世帯を含む)となっています。行政は、待機児解消など子育て支援策の拡大を図るため、区立保育園の運営経費を削減しようと、公設民営化を進めています。

保育園公設民営化の波

 そのような中、つつじ保育園の民間委託が発表されたのは、04年8月。3つの園が対象で、つつじ保育園に通う園児の親は父母会内に「民間委託化対策委員会」をつくり、「保育士全員が入れ替わり、子どもが不安定になる」「料金に応じたサービス内容になり、保育に格差が生まれる」などから、区に民間委託撤回を求め運動を展開。

 2人の子どもを同園に預けて働いてきた相澤氏も、署名活動や陳情などを行いました。

父母の力でつくったNPO

園児による緑化活動

 しかし、いよいよ民間委託の動きが本格的になってきた05年5月、保育園を何とか自分たちの手で守りたいとの思いから、父母の有志によりNPO設立に向けた勉強会がスタート。6月には「NPO未来こどもランド」が立ち上がり、相澤氏は請われて理事長に就任しました。

 父母のネットワークで経営コンサルタントや有識者などの協力を得ながら、MKLとして親向けに保育園運営受託のための説明会を開催。民間委託反対に取り組んでいた親を少しずつ説得しながら、理解を広げ、82%の世帯から賛同書を得ました。最終的に10事業者が委託事業者に応募するなか、MKLが選定されました。

 現在、MKL事務局長の関本明美氏も父母会役員の1人。「みんなでいい保育園をつくりたかった。そのために私たちができることは何かを必死で探し、NPOの立ち上げとなったのです」と言います。

親として欲しかった保育環境を実現

靴箱

 「最初は受託応募資格に『認可保育園運営実績のある法人』があり、まず応募資格の拡大を求めるところから、父母会の協力を得ることができました。また、民営化に伴って保育士がすべて入れ替わる移行期は3カ月とされていましたが、その延長も区に強く申し入れ、ほぼ半年間かけて引き継ぎすることができました」と相澤氏。

 委託前よりも職員を多く配置、出入り口のオートロック化、靴箱を長靴が入るものにし、門も引き戸に取り替えるなどのMKLの対応に、親も信頼を高め、父母会との共催企画なども成功させていきました。

保育園は地域の子育ての拠点

 現在の桂久美子園長は、委託移行期に区側が配置した園長でした。今では36年間務めた公務員という身分を捨て、同園の園長となって若手保育士を育成しています。

 「保育園は地域の子育ての拠点です。今日も、近隣に住む1歳児のお母さんが相談に来ました。区の仕様書に縛られて、柔軟な対応ができない部分もあります。現在の職員は若いですが、積極的に学び、努力しています。委託前の職員もこの園を愛していました。彼女らがいつでも立ち寄って話ができるように、このテーブルやいすを職員室にそろえました」と桂氏。

 同園卒園の親や子、旧職員や現職員でつくる「つつじ組」は、月1回20名ほどが集まり、荒馬や太鼓の練習に励むなど、保育園を拠点にしたネットワークを形成しています。

 MKLは、「子どものため、親のため、地域のために」の理念を掲げ、保育園運営事業のほか、区の子育て学習委託講座や駅フラワーポット管理事業も実施。

 「より多くの人に保育園など、子育てにかかわってもらいたい。子どもを守り育てるのは、地域の大人のネットワークですから」。

 今年1月に地元で法律事務所を独立開業した相澤氏は、「地域に根ざした事務所に」と、地域のネットワークを大事にする姿勢をさらに強くしています。

NPO組織概要

設立 2005年
所在地 東京都練馬区石神井7-2-2 石神井FCビル2F
URL http://www.mirai-kodomo.org/

【解説】地域の子育て環境づくり担う意識を

 厚生労働省が4月に発表した2007年度版「働く女性の実情」では、正社員の数は1985年の67・9%が、07年には46・5%。有配偶者では、30~34歳層は微増、35~39歳層は微減となっており、子育てをしながら働く女性の数は決して増えているとはいえません。

 このような中、中小企業家として、社員の子育て環境にも目を向けていくことが求められています。長期の育児休業制度を検討する、一定の育児時間を保障するなど、労働環境整備のほかに、経営環境の一環として、保育園や学童保育などのあり方を考え、地域の動きに注目していくことが大切です。

 子どもの成長を見守る大人のネットワークづくりを促進するためには、時間と心の余裕が必要です。各企業でのこれらを支援をするワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の取り組みなどにも期待が寄せられています。

 「国民と地域社会からの信頼や期待に高い水準でこたえられる企業」(21世紀型中小企業)のあり方、その一端が見えてくるようです。

中同協事務局次長 平田美穂

「中小企業家しんぶん」 2008年 5月 15日号より