環境保全型土木工事で活路を開く~戸沼建設(株) 社長 戸沼 平八氏(北海道)

第38回中小企業問題全国研究集会での報告より

 激減淘汰の時代が続く建設業の中、北海道同友会函館支部の戸沼建設(株)では、「同友会を漢方薬として愛用」し、20数年間黒字を続け、現在は環境保全型土木工事で活路を開いています。3月に宮城で開催された第38回中小企業問題全国研究集会第3分科会で戸沼平八社長が行った報告の一部を紹介します。詳細は、『中同協』第80号をご覧ください。

「21世紀型企業」と学ぶ社風

 当社では、ISO9001、ISO14001、OHSAS18001の認証を取得し、品質、環境、労働安全の3つを統合した統合マネジメントシステムとし、社内に浸透を図るために経営方針書を作成しています。経営方針書はすべて同友会で学んだことがベースになっており、同友会の学びを自社の経営に具現化したものです。

 当社では、「誠実と努力を合言葉に、21世紀型企業をめざす」とうたっています。「21世紀型企業」とは、「第1に、自社の存在意義を改めて問い直すと共に、社会的使命感に燃えて事業活動を行い、国民と地域社会からの信頼や期待に高い水準で応えられる企業。第2に、社員の創意や自主性が十分発揮できる社風と理念が確立され、労使が育ち合い高まり合いの意欲に燃え、活力に満ちた豊かな人間集団としての企業」(1993年、中同協第25回定時総会の総会宣言、札幌)です。私はこの宣言を読んで大変感動し、当社も「21世紀型企業」づくりに挑戦したいと考えました。

 経営指針は一朝一夕にできたわけではなく、長年にわたる社内での学びあいや情報共有がベースになりました。たとえば、全社員の1泊研修会は40年続いています。「哲学と文化とスポーツをする会社」を合言葉に、研修の前に美術館で学芸員に案内をしてもらいながら芸術鑑賞をするというのも特徴です。決算書も単に公開するだけでなく、経理の担当者が社員に読み方も教えていきます。ISOもてこにしながら、学ぶ社風ができてきたのかなと思います。

建設業を核とした仕事づくり

 今年度の基本方針は、(1)単年度黒字を確保し、経営の健全化を図る、(2)共育・共学・共生をめざし、一人ひとりが自立した社会人になるための教育計画の具体化、(3)公共事業費の激減に対するために1人3役4役で、(4)建設業を核とした事業の展開、の4点です。

 この(4)にかかわって当社では、「本業を核とした仕事づくり」を進めており、キーワードは、(1)「環境・地域」、(2)「維持管理の仕事」です。コンセプトは、自社のコア(核)となる事業を崩さず、コア事業からの広がりを考える、としています。具体的な事例を4点紹介します。

(1)ノンフレーム工法
 自然環境を損なうことなく斜面を安定させる工法です。斜面の押さえ方は金網をかけたり、コンクリートで覆うなどさまざまな工法がありますが、これは法面に鉄筋を刺してワイヤロープで結ぶというもの。最大の特徴は木を切ったり、森林土壌を除去しなくても良いという点です。

(2)ターフ事業
 「グランドを緑にしましょう」という校庭緑化の取り組みです。校庭周辺の防塵、ヒートアイランドとCO2の抑制、校庭でのけがの防止と情操効果などが狙いです。当社では、張り芝ではなく、ターフプロセッサーという特殊車両を使い、グランドを掘り起こしながら種をまき、整地・転圧も1度に行うという工法です。コストは半分近く削減でき、北海道でも2カ月半ほどで、子どもたちが裸足で校庭を走り回れるくらいになります。

(3)HACCP(ハサップ)対応建築事業
 函館は水産加工場など食品関連の企業や工場が多い地域であることから、この分野での建築ノウハウを蓄積し、HACCPに対応する施設改善のコンサルティングと、実績をもとにしたコスト低減、工期短縮の提案を行っています。

(4)魚道研究会
 魚道とは、河川の横断構造物によって遡上できなくなった魚のためにつくられた道です。魚道を設置しても、土砂や流木で詰まっていたり、水が流れていない魚道もあります。当社の経営理念のトップにある「顧客満足」の顧客とは、発注者ばかりでなく、国民や魚でもある。そんなふうに考える会社です。魚はしゃべれません。そこで、魚の心がわかる魚道づくりをテーマに、研究・啓蒙・ボランティアによる維持管理を行うため、同業者や研究者らと共にNPO法人「北海道魚道研究会」をつくり、活動しています。北海道の魚道では、特にサクラマスの遡上が妨げられている実態があり、漁業関係者からも注目されています。

地域資源活用や環境を守る仕事づくりで連携

 同友会函館支部では、21年前から「イカノポリス計画」というイカをテーマにした商品開発などに取り組み、10年後には「函館昆布研究会」を発足させました。地域の資源であるイカやコンブを徹底的に研究した中小企業らしい商品づくりの取り組みに業界や行政も注目し、函館市は「国際水産・海洋都市構想」を推進しています。

 昨年札幌で開催した魚道研究会のシンポジウムには500名が参加し、うち200名は官公庁の方々でした。魚道研究会は、建設業者や釣りの愛好者、行政マンも含めた住民ボランティアが魚道の清掃に汗を流します。親子が森や川辺で、緑と水と生き物に触れて観察する場でもあります。

 地域や環境を守り、維持していくための新しい協働が生まれており、そういう社会になりつつあることも示唆されていると思います。異業種を含め、いろいろな知恵を集め、汗をかいて地域の中に新しい仕事をつくっていきましょう。

会社概要

創業 1934年
設立 1954年
資本金 3200万円
社員数 29名
業種 土木工事、建設工事、造園工事
所在地 函館市湯川町2丁目
TEL 0138-57-1535
http://www.tonuma.com/

「中小企業家しんぶん」 2008年 6月 25日号より