“蓄積された経営の英知”をいまこそ生かそう<全研特別報告>

時代が求める経営者のあり方と同友会理念に基づく経営実践

2月11~12日、「原点回帰―同友会理念の生命力で時代の変化を乗り越えよう」をメインテーマに京都で開かれた第40回中小企業問題全国研究集会(以下、「全研」)で行なわれた、対談をご紹介します。

【対談】
宮崎 由至氏 (株)宮崎本店代表取締役(中同協人を生かす経営推進協議会代表)
大野 栄一氏 (株)大栄電機工業代表取締役(中同協経営労働委員長)

社員が自由にものを言える会社でなければ、新たなビジネスモデルもつくれない

大野 厳しい状況が続いていますが、われわれは、この時代を新たなビジネスチャンスと前向きにとらえていくことが大事です。今日のテーマは、同友会で蓄積された経営の英知をどう生かすか、ということですが、同友会には1975年に発表された「労使見解」と、93年の中同協第25回定時総会で発表された「21世紀型中小企業づくり」があります。

 「労使見解」では、まず「経営者である以上、いかに環境が厳しくとも、時代の変化に対応して、経営を維持し発展させる責任があります」と、経営者の責任について強調しています。

宮崎 リーマンショック後、バタバタ企業が倒れ、政府はさまざまな対策をとりましたが、それはいわば「点滴」です。点滴とは、いつか元気になってベットから出て行くために打つものですから、どういうふうに元気になっていくのか、つまり新たなビジネスモデルをどうつくっていくのかが重要になります。

 新たなビジネスモデルを作っていくためには、新商品、新市場、新連携の3つがキーワードだと思います。実際に戦略を立て、戦術を立てていくためには、「労使見解」でいう「対等な労使関係」があること、社員と理念や戦略など情報が共有化され、社員が自由にものをいえる会社であることが不可欠です。なぜかといえば、社長は戦略を立てるのが仕事ですが、戦術では、フィールド、現場をよく知っている社員が自由にものをいえる会社でなければ、間違った戦術を立てることになってしまうからです。

 当社は、酒造メーカーですが、例の事故米問題が起きたときも、私が会社に戻ったときには、当社は一切そのようなものは原料に使っていない旨、すでに社員が顧客やマスコミに対する声明文をまとめ上げていました。これも、「社長、お言葉ですが」と言ってくれる社員をありがたい存在だと思える会社になってきたからだと思っています。

 最近、決算書を社員に公開する会社が増えていると思いませんか?「こんなに儲かっていないのだから、ボーナスが出せないんだ」と。しかし、これは情報公開とはいいません。単なる労務対策です。経営状態が良いときも公開し続けるのでなければ、かえって社員の不信を招くだけです。いま、情報公開を始めた方は、これからもずっと続けていってほしいと思います。

企業変革支援プログラムで実践の検証を

大野 バブル崩壊後、会社の状況が厳しいから同友会どころではない、と同友会の会員が減ってきた時期がありました。しかし、同友会で学んだことが自社で本当に実践できていれば、危機的状況があっても、立ち向かっていくことができたのではないか。いったいどれだけ実践できていたのか、ということが大いに議論になりました。

 そういった議論の中から、一体どれだけ実践できているのかを確認できるようなプログラムを作ろうではないかと、愛媛同友会では愛媛大学、松山市と連携して、企業変革プログラムを作成しました。そのことがきっかけとなって、昨年、経営労働委員会では、同友会の「3つの目的」、「労使見解」、「21世紀型中小企業」といった同友会に蓄積された英知を生かした企業とはどのような会社なのか、その企業像を明らかにしよう、そして自社の成長発展を図るものさしとして使えるようにと、「企業変革支援プログラムステップ1」をまとめました。

 11月には、それを使った「自社の健康診断」を呼びかけたところ、40同友会から1062社の回答が集まりました。その結果を見ると、経営理念はあっても、それがなかなか実践できてないことが如実に表れていました。また、実践の検証が弱いという、これまで同友会が進めてきた経営指針成文化運動の弱点も浮き彫りになっています。

宮崎 同友会の中で話していていつも思うのは、「労使見解」は読んでいても、それを実行していますか、ということです。ぜひ、この企業変革支援プログラムを、社長だけでなく、社員の皆さんにもやってもらってください。社長がいかに「やってるつもり」になっていただけか、ということがよくわかります。

 また、この診断を通して、自社の強み、弱みを知り、社員と共有化することで、強みをさらにのばし、弱みを強みに変え、新しい仕事づくりにつなげていくことができます。

 11月の診断結果から全体の平均値を見ると、「戦術」だけで「戦略」が弱いですね。理念や数値には強くても、顧客満足度や市場の理解が弱い。理念の社内での共有はできていても、社外への発信はあまりしていない。これからの課題が少し見えてきたのではないでしょうか。

大野 同友会で学ぶと企業がよくなる、よい経営者になれる、よい経営環境も作れるはずですが、入っただけでそうなれるわけではありません。どのような学びと実践をしているか、検証する仕組みが同友会にあるかどうかが大切ですね。

中小企業の実像の外部発信で経営環境を変えていく力に

大野 さて、同友会では中小企業憲章、振興条例の制定運動を進めています。しかし、この金融危機の時も、マスコミ報道や行政の対応などを見ていますと、中小企業の現実の姿を果たしてつかんでいるのか、救うべき弱い存在としか見ていないのではないかと情けなくなりました。

 中小企業がどれだけ地域の雇用や活力をはぐくむ存在であるのか、全国の会員4万社がこの企業変革支援プログラムに基づいて自己診断したら、これはすごいデータになります。そのデータに基づき、中小企業の実像を外部発信していくことが経営環境を変えていく大きな力にもなっていくのではないでしょうか。

宮崎 われわれ自身も国も、中小企業の弱みだけしかこれまでつかんでこなかった。しかし、強みを自らつかむことで、新たなビジネスチャンスが見えてくるし、国の施策のあり方もそこに向けて変えていくことができると思います。

日本のロマネコンティ社に

宮崎 最後に、ぜひ皆さんに紹介したい会社があります。それは、世界一、顧客満足、社員満足、社会貢献を見事に実践している会社です。フランス・ブルゴーニュ地方にあるワインの会社、ロマネコンティ社。そのワイン「ロマネ・コンティ」は、1本40万円から100万円もします。ワインの愛好家なら、「これを飲んだら、もう死んでもいい」と言うほどです。私も実は1度飲んだことがあるのですが、どんな味かと聞かれても、それは「筆舌に尽くしがたい」。まさに、顧客満足度が世界一です。

 その会社を社員と一緒に訪ねたことがあるのですが、その畑の狭さに驚きました。その畑で作ったブドウを使ったものしかロマネ・コンティとは呼びません。9月に行ったのですが、ちょうど収穫が終わったころでした。ブドウを摘んでいるパートのおばさんも、「私はロマネ・コンティのブドウを摘んでいる」と誇りに思っています。ましてや、ワインを製造する醸造職人は、世界でナンバーワンの社員満足を持っているはずです。もし、ブルゴーニュ地方から同社がなくなれば、観光客も半減するはずです。地域にとっても、同社が誇りであり、地域貢献度も非常に高いのです。

 このワインはヴィンテージものですから、多い年でもわずか6000本しか製造しない。仮に1本平均60万円だとすると、年商は30億円。私の会社より売上の少ない会社が、世界ナンバーワンの顧客満足、社員満足、そして地域貢献をしているのです。

 このような会社に私たちはなれると思います。ぜひ皆で日本のロマネコンティ社になりましょう。

大野 厳しい時代だからこそ、社員はわれわれ経営者の姿勢を見ています。しっかり頑張って、この時代を乗り切っていきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2010年 3月 5日号より