「“未来のくりはら”元気産業プロジェクト」~宮城同友会栗原登米支部長 平野勝洋氏((有)ひらの社長)

設立までとこれから~経営指針を創る会からはじまった企業づくり、地域づくり

 6月10~11日、北海道・東北ブロック支部長地区会長交流会が仙台で開かれ、66名が参加しました。そこで行われた宮城同友会栗原登米支部長・平野勝洋氏((有)ひらの社長)の報告概要を紹介します。

平野社長

 私は1943年4月1日生まれで、67歳です。父親が理容店を1949年に開業して、その後1988年に法人化し、22期目を迎えます。現在は、理容室が3店舗、美容室が8店舗で、社員数は78名です。

 私が住む「栗原市」は、先般発生した「岩手宮城内陸地震」で大きな被害のあった栗駒山を擁し、そこから流れ出る水を利用した「農業」を基盤とした地域です。9町1村の広域合併によって生まれた「栗原市」は、本来は人口10万人を想定していましたが、減少して現在は人口約7万7000人です。

 栗原登米支部は、2004年に「栗原登米地区」として会員数34名で設立し、今では82名で活動しています。

 私は13年前、「『経営指針を創る会』の受講を希望されるなら会員になっていただきます」と言われ、同友会に入会しました。私が「創る会」で学んだことは、(1)「家業から企業へ」ということです。「食うため」だけでなく、成文化した「経営指針」に基づいた経営を行っていくこと、(2)は「社員の育成」です。それまで自分がやってきたのは「恐育」でした(笑)。「共に育つ“共育”」の大切さです。そして(3)「組織の構築」、(4)「財務の透明化」、(5)「お客様の存在」ということです。

 特に最も大切なのが「社員」だと思います。「入っては辞めを繰り返すのはやる気がないからだ。その人のせいだ」と思っていた自分を反省しました。

 また、隣にいた助言者が、「どうなりたいの?」と聞いてきたので、思わず「10年で10店舗にします!」と言ってしまいました。そして、「社員を育成するにあたり、研修所をつくります!ヨーロッパに海外研修に出します!」と宣言しました。「本当にできるのか?」と助言者から言われましたが、「やってみせる!」という反骨精神で取り組んできたように思います。

 同友会大学で立教大学の山口義行先生から学んだ「金融アセスメント法」も、「まさにこれは『地域活性化法』だ!」と感じて、いち早く1000名の署名活動に取り組みました。2001年には、「金融アセスメント法」制定に向け、国道4号線沿いの当社に大看板を設置しました。

「創る会」から「栗原登米地区」設立へ

 その後、「創る会」の打ち合わせの中で、「栗原に地区会を立ち上げてはどうか?」という話があり、まず「同友会を知る会」(以下「知る会」)をスタート。2004年に会員数34名で「栗原登米地区」を設立しました。

 地区運営では、中同協と県理事会で出される方針に基づきながらも、「栗原」地域の良さを活かそうと考えながら進めてきました。

 「経営指針を創る会」には現在の運営委員の多くが参加し、地区活動を支えてくれています。

 現在、「農商工連携」も、「創る会」修了生でもある運営委員の方2名が認定を受けています。また、地区会員数社が集まって、「くりはら産直市場『よさこい』」という民間の「道の駅」も設立しました。これらの取り組みは、やはりベースは「創る会」で学んだ「経営理念」だと思います。

地域への想いを「語る会」

 毎月の運営委員会では、「わが社の近況報告」を大切にしてきました。今まで同じ地域にいて、お互いのことを知っているつもりでしたが、もっと深く知り合えるようになりました。時には鋭い指摘もし合いながら、時間を忘れて語り合い、「また一緒に頑張ろう」という雰囲気ができるようになりました。例会でも終了後の懇親会で夜12時過ぎまで語り合っているのを見て、「これだけ時間を忘れて熱く語り合えるのだから、別の場を設けてみてはどうだろうか」と考えるようになりました。

 そこで、運営委員会と例会のほかに、自社と地域のことについて語り合う勉強会を始めることにしました。それが、「栗原地域の未来を語る会」(以下「語る会」)です。

 これも「創る会」の中で学んだ「わが社の10年ビジョン」を、そのまま「地域」に置き換えて、「栗原地域の未来をどうイメージするか? どんなビジョンを描くのか?」、いわゆる「グランドデザイン」―「点から線へ、色を施して絵を描こう」という趣旨で活動を続けていました。

 やがて、中同協から「中小企業憲章」「中小企業振興基本条例」制定に向けた大学習運動が提起されるようになり、「語る会」も自然にそれをテーマにした勉強会に変わっていきました。

「語る会」が地域と結びつくきっかけに

 その後、改めて「金融アセスメント法」についてある信用組合に説明に伺うと、「まさにその考え方で私たちは信用組合を運営している」ということで、理事長に報告してもらえるようになりました。「同友会はすごい。きちんと経営計画を立てて経営しているから、融資の際にも安心だ」と感心され、同友会向けの優遇金利の提携ローンもつくっていただきました。それによって、他の金融機関の対応も変わっていきました。

 「中小企業振興基本条例」の学習では、運営委員に(有)もちっ小屋でんの狩野千萬男社長という元役場職員だった方がいて、「行政のことをきちんと学ぼう」ということで、「栗原市総合計画」の勉強などを行いました。

 さらに、地方振興事務所の部長さんにも活動に参加してもらえるようになり、その方からさまざまな地域の条例について学ぶようになりました。そして、「この栗原地域で制定を目指す条例は『理念条例』だ」「総合計画は市長さんが交代すれば変わってしまうが、『条例』であれば変わらない」と気づきました。

“未来のくりはら”元気産業プロジェクト

 勉強を進めていくうちに、「同友会の会員だけがこの地域の事業所ではない。同友会だけで『条例』をつくろうと思っても難しいだろう」と思うようになりました。商工会や農協に「みなさんの組織でも『地域活性化』を目指していますね? ぜひこの『語る会』に参加して報告してください」と案内するようになりました。

 ここは「会員増強」の点でも重要でした。ゲスト1社に対して複数の同友会会員から声がけをすると、入会してくれるようになってきました。さらに弾みをつけようと講演会を企画したら、担当事務局の佐藤さんが1000名規模の会場を予約してきました。

 そこで、「『語る会』で知り合った多くの方々を巻き込んで、同友会でない新たな組織を立ち上げてこの講演会を開催しよう」と思いつき、「語る会」を発展的に解消する形で、「“未来のくりはら”元気産業プロジェクト(通称「プロジェクトK」)」を地域の主要22経済団体と行政・金融機関のご協力をいただいて設立することにしました。1カ月で1300枚のチケットが売れ、2010年3月24日、当日は600名強の参加者が集いました。

 ここからが本当のスタートです。窓口は1つになりました。この「プロジェクトK」に集った方々と、地域の未来を語り合い、「中小企業振興基本条例」を制定し、共に地域を構築していきたいと考えています。

 この運動は私の代だけのことではありません。これから地域が将来にわたって輝けるように、「日本の背骨になるのは栗原登米だ!」という意気込みで学び、実践していきたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2010年 8月 15日号より