「衰退」の危機をブランド力で打開する

中小企業憲章を基に「新成長戦略」の書き換えを!

中同協第42回総会の議案(採択文)第2章では、「鳩山内閣は昨年末、『新成長戦略(基本方針)~輝きのある日本へ』を発表しました。…中小企業が全く位置付けられておらず、このままでは『中小企業憲章』が制定されたとしても、国家戦略やその政策体系と連動しないおそれがあります」と指摘しました。

その後、「中小企業憲章」と同日(6月18日)に菅内閣が閣議決定した「新成長戦略~『元気な日本』復活のシナリオ」には、残念ながら中小企業はほとんど記載されませんでした。「新成長戦略」に「中小企業憲章」、中小企業を位置づけることは喫緊の課題です。

では、どのように日本経済の発展に中小企業を位置づけるか。その基本的な考え方は、同第2章で「日本の勤労者の7割が働く中小企業は、国民の多様な需要ニーズに効率的に対応し、市場の独占・寡占による硬直化に対抗して資源の効果的な配分の達成に貢献し、魅力的で個性ある地域づくりの核となってきました。中小企業重視政策に転換すれば、国民の安定した暮らしを実現し、日本の経済社会の健全な発展に貢献するでしょう。これこそ、中小企業憲章のめざす政策の方向です」と示唆しています。

藻谷浩介氏の近著『デフレの正体』に興味深い考察があります。日本は米国はじめ、世界各国との貿易で黒字を稼いでおり、アジアの中国(香港を含む)や韓国、台湾とでさえ、それぞれ数兆円規模の黒字です。欧州を見ても、EU全体に対しても黒字であり、イギリスやドイツは向こうが大幅な赤字になっています。

ところが、フランスとイタリア、スイスは、近年一貫して対日貿易黒字なのです。藻谷氏は、「フランス、イタリア、スイスには、日本製品がブランド力で及ばない高級品がわんさかあります。ハイテク製品ではありませんよ。食品、繊維、皮革工芸品、家具という『軽工業』製品が日本で売れているわけです」と指摘。

「でも幸いなことに、日本はもともと軽工業製品の分野にも極めて強い国です。伝統工芸にも素晴らしいものが多い。本来の力を発揮すれば、何も困ることはありません。

ということで、我々が目指すべきなのは、フランスやイタリアやスイスの製品、それも食品、繊維、皮革工芸品、家具という『軽工業』製品に『ブランド力』で勝つことなのです。

…(アジアに)今の日本人並みに豊かな階層が大量に出現してきたときに、彼らがフランス、イタリア、スイスの製品を買うのか、日本製品を買うのか、日本の置かれている国際競争はそういう競争なのです。フランス、イタリア、スイスの製品に勝てるクオリティーとデザインとブランド力を獲得できるか、ここに日本経済の将来がかかっています」と結論づけます。

軽工業製品はまさに中小企業の得意分野。個々には元気な企業がありますが、衰退の危機に直面している業界もあります。

問題は、どのようにして「本来の力を発揮」してブランド力を獲得できるか。これこそ、「新成長戦略」の戦略的課題と位置づけるべきです。

「元気な日本」復活のためには中小企業憲章の視点から「新成長戦略」を抜本的に書き換えることが求められています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2010年 10月 15日号より