価格と取引関係 第3回-経営圧迫が懸念される取引関係の変化

【同友会景況調査(DOR)2010年特別調査の結果から】

 中同協企業環境研究センターは、昨年11月に「価格と取引関係 特別調査」を実施しました。調査結果の概要を前号に続いて紹介します。

(全3回・完)

 前2回の記事では、リーマンショック以降、売上単価や仕入単価がどのように変化し、熾烈な競争が続くなかでどんな対応をしているのか、について特別調査の結果から見てきました。

 今回は取引関係の変化、支払遅延の増加、優越的地位の濫用、円高の影響などをみていきたいと思います。

一段とコスト増や納期短縮などの条件が厳しくなる取引関係の変化

 全業種では「品質・施工管理等の要件が厳しくなった」(28・7%)、「アフタケア等のサービス提供が増えた」(27・3%)、「納期が短縮化した」(25・8%)が3大変化項目となっています(図1)。しかし業種ごとにみると、その内容はだいぶ異なっています。

 建設業では「品質・施工管理…」(47・0%)が突出しているほか、「アフタケア…」(30・9%)、「決済条件の悪化」(20・6%)の比率が高くなっています。製造業では「納期の短縮化」(50・6%)が断然高い比率を示していて、次いで「品質・施工要件…」(37・8%)、「多頻度納入」(27・6%)の比率が高くなっています。流通・商業では突出した項目はありませんが、「アフタケア…」(31・2%)、「決済条件の悪化」(20・ 9%)の比率を高めています。サービス業では「アフタケア…」(35・6%)は他業種に比べ最も高く、「その他」(24・8%)も比率を高めています。

 比率の高かった項目はいずれもコスト増が求められるような経営圧迫要因が多く、取引先からの要求・要望にどのように応えるのか抜本的な対策が求められています。

規模の小さいところから支払い遅延が増える

 こうした取引関係の変化のもとで、さらに経営を悪化する変化が比率は少ないものの「主要な取引先からの支払い遅延」に現れています(図2)。全業種平均では13・0%が「増えている」と回答しています。比率ではそれほど多いようには思えませんが、件数では500件を超えています。決して少なくない企業が支払いの遅延を受けていることになります。

 とくに流通・商業(15・0%)、サービス業(14・5%)でその比率が高くなっています。またこの支払い遅延問題は規模間格差も出ているようです。5人未満(14・2%)、5~10人未満(15・6%)と小・零細規模層に対してその傾向が強く表れています。

 国民経済の健全な発達を期するためにも下請代金支払遅延等防止法の厳正な適用が望まれます。

増えつつある「優越的地位の濫用」

 また、主要取引先からの優越的地位の濫用が増えているかどうかを聞いています(図3)。全業種では13・6%が主要取引先による優越的地位の濫用が「増えている」と回答していますが、大半は「変わらない」(87・6%)としています。業種別にみると、建設業(15・1%)、製造業(14・9%)で取引先の優越的地位の濫用を訴える声が高くなっています。

 これを規模別でみると、100人以上(17・2%)、50~100人未満(14・3%)で比率が高く、支払遅延問題とは逆に比較的規模の大きな企業で取引先からの優越的地位の濫用を受けているようです。

追い打ちをかける円高の影響

 さらに最近の円高の影響について聞いています(図4)。大半は影響なしとしていますが、「受注減」(21・2%)、「値下げ要請」(17・4%)などでの影響が出ています。とくに製造業では「受注減」(34・9%)、「値下げ要請」(27・1%)で強くその影響が現れています。

 また地域経済圏別でみると、関東で前者(23・2%)、後者(18・4%)、北陸・中部(同26・9%、21・6%)、近畿(同24・3%、18・2%)と都市部において受注の減少とさらなる単価値下げ要請が出ています。

 調査時点では必ずしも円高の影響は大きいものではありませんでしたが、今後の円高の状況次第ではさまざまな形での経営圧迫要因になりかねません。

3月11日の東日本大震災と東京電力福島第1原子力発電所のトラブルが深刻化するなか、外国為替相場は3月17日、一時1ドル=76円台まで急騰し、阪神大震災のあとの1995年4月19日に記録した79円75銭の戦後最高値を16年ぶりに更新しました。震災後の経済停滞の恐れとともに、円高による受注減など、経営圧迫要因の頻出が懸念されます。

中同協調査室長 鈴木幸明

「中小企業家しんぶん」 2011年 3月 25日号より