1人当たりGDPから見えるもの

8割の「中小企業経済」が日本経済発展のカギ

 かつて、日本経済が外需に依存する好景気と国内不況が同時に存在する「1国2経済」に陥っていると分析したことがあります。2007年の中同協総会議案では、「大企業経済と中小・零細企業経済に分断され、いわば『1国2経済』、好景気と不況が同時に存在する経済に陥っています」と問題提起しました。

 この提起を受けてその後、「2008年からの世界同時・大不況の中で、…弱体化した国内市場は、大停滞に陥った輸出に替わって日本経済を支える力強さはなく、その底の浅さを露呈しました。いびつな『1国2経済』を克服し、日本経済を内需拡大にスイッチを切り換えることが求められており、その中心軸に地域活性化・中小企業活性化を据える必要があります。中小企業の再生・発展なくして本当の景気回復はないのです」(『中同協40周年記念誌』2009年発行)と結論付けました。

 このような見地は、大震災からの復興でも重要な視点となっています。最近、このような見方を裏付ける次の論考に出会いました。

 「2011年の1人当たりGDP(自国通貨建て)を計算すると(1ドル=77円15銭で換算)、日本は4万8715ドルとなって米国のそれを上回り、G7では1位となる」、「問われなければならないのは、1人当たり4万ドル以上の所得がある日本で、なぜ豊かな暮らしができないかである」「1990年代半ば以降、日本では所得の二極化が進んだ結果、分配面で大きな歪みが生じた。仮に2010年の日本の1人当たりGDPを4万4000ドル(1ドル=85円で換算)として、2割の人が8割の人の1・8倍の所得を得ているとしても、8割の人の1人当たりGDPはおよそ3万8000ドルとなる。8割の人の平均値が3万8000ドルというのは2010年のドイツに近い水準であり、英国やイタリアを上回っている。それでもなお貧困問題やワーキングプア問題が存在するのだから、分配面に問題があるのは明らかだろう」という指摘(水野和夫『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』日本経済新聞出版社、2011年)。

 ここでの「2割の人が8割の人の1・8倍の所得を得ている」というのは、2割の大企業と8割の中小企業の勤労者の1人当たりGDPを推計し、比較したものです。すなわち、「日本の雇用者のうち大企業(資本金10億円以上)で働く人の割合は17・1%、中堅・中小企業で働く人は82・9%(財務省『法人企業統計年報』2007年度版)である。一方、大企業の1人当たり給与額は593・2万円で、中堅・中小企業のそれは312万円である」。ここから、日本の1人当たりGDPが平均4万4000ドルとして、「大企業で働く人の1人当たりGDPは7万2500ドル、それに対して、中堅・中小企業で働く人のそれは3万8100ドルとなる」(前掲書)という計算だそうです。

 興味深い分析です。日本は、8割の「中小企業経済」であっても、他の先進国と同水準の所得にあります。分配面での歪みを是正するなど改革を進めることで、より豊かな暮らしと日本経済の発展を展望できるのではないでしょうか。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2011年 11月 15日号より