【同友会景況調査(DOR)概要(2015年10~12月期)】経営努力著しいが景況の腰折れか?~積み重なる波乱要因

〈調査要項〉

調査時点 2015年12月1~10日
調査対象 2,423社
回答企業 967社(回答率39.9%)(建設176社、製造業331社、流通・商業294社、サービス業166社)
平均従業員数 (1)37.6人(役員含む・正規従業員)(2)29.0人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。好転、悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考え方で作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

今期は上向くも、次期は悪化見込み

 日銀の12月短観(全国企業短期経済観測調査)は、今期おおむね企業規模や産業に関係なく、横ばい・微増ですが、先行きは全ての規模・産業で悪化を見込んでいます。

 DORでも業況判断DI(「好転」-「悪化」割合)は△7→2→4→6と3期連続で改善しました(図1)。足元の業況を示す業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)も2→9と改善、業績水準を示す採算水準DI(「黒字」-「赤字」割合)は36→45と1990年の調査開始以来の最高数値となりました。

 今期は業況が上向きの結果となりましたが、次期(2016年1~3月期)は業況判断DIが6→1、業況水準DIは9→△1と悪化を見込んでいます。国内外の経済構造の変化、目の前の経営課題と両睨みの経営が求められます。

 業況判断DIを業種別でみると、建設業(△1→8)、サービス業(11→18)で改善、流通・商業(5→5)は横ばい、製造業(2→△1)は悪化しました。地域別では北海道・東北が6→△3と唯一悪化しましたが、他の全地域は改善と、対照的な動きを示しています(図2)。企業規模別では20人未満で0→4となり、すべての企業規模でプラス水準となりました。

原油安・原材料費安が採算にも好影響

 売上高DI(「増加」-「悪化」割合)は7→3で4ポイントの悪化、経常利益DI(「増加」-「悪化」割合)は4→6と2ポイント好転となりました。仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は今期も大きく緩和され(30→20)、売上・客単価DI(「上昇」-「下降」割合)は横ばい(5→5)と2つの指標の差が縮まりました(図3)。また、1人当たり付加価値DI(「増加」-「減少」割合)も0→2と上昇するなど、原油安・原材料費安が経営にプラスの影響を与えていると考えられます。

 1人当たり売上高DI、1人当たり付加価値DI(いずれも「増加」-「減少」割合)は2015年以降緩やかに改善傾向が続いています。正規従業員数DI、臨時パート・アルバイト数DI(いずれも「増加」-「減少」割合)も引き続き増加側を推移、所定外労働時間DI(「増加」-「減少」割合)も増加しました。

人手不足感は高止まり

 一方で、人手の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)の不足感の高止まり傾向は続いており(△33→△37)、なかでも建設業とサービス業の人手不足に対する危機感が強まっています。人手不足への対応と並行して社内の労働環境の改善、生産性向上への取り組みに力を入れる企業も多くなっています。

設備投資は改善基調、企業規模による差も拡大傾向

 2010年後半以降の設備の不足感が高まり、設備投資実施割合も2013年後半から改善基調が続いていることから、中小企業における設備の更新期を迎えているとみられます。設備投資の実施目的は「能力増強」が42.7%→46.3%と増えました(図4)。設備投資の実施割合は企業規模に比例して高くなるという傾向が続いています。

 経営上の問題点は「民間需要の停滞」の指摘が36%と最も高く、景況の腰折れ予測の理由の1つとして考えられます(図5)。一方で「従業員の不足」、「熟練技術者の確保難」や「人件費の増加」の指摘割合も増加傾向が続いており、人材確保難の深刻度が増しています。

「人材確保」と「社員教育」に力点

 経営上の力点の上位4項目は前期に引き続き「新規受注(顧客)の確保」、「付加価値の増大」、「社員教育」、「人材確保」でしたが、「社員教育」(40%→44%)と「人材確保」(33%→36%)への指摘割合の増加が目立ちました。

 売上高傾向別(増加企業・減少企業)で比較すると、売上高増加企業は人材確保と人材育成、財務体質強化の比重が高く、売上高減少企業は新規受注の確保やそのための情報力強化が重視されています(図6)。人材面の質的強化(人材確保と社員教育)に手が回らない状況だとしたら要注意現象といえます。

「まさか!」の局面に対応しうる企業体質強化を

 2015年は低迷する内需傾向のなか、同友会企業は経営努力を積み重ね今期の業況は改善しました。しかし、2016年は国際経済状況の先行き不透明感が高まっているだけでなく、景況の分岐点を迎えているといえます。「まさか!」の局面に備えて、経営環境の変化に対応しうる強じんな企業体質の強化が求められています。

<人手不足、労働環境整備に対する記述>

●就業規則の変更。昭和50年以来大きな変更をしていなかったが、法対応、労使トラブルの予防、1カ月単位労働時間制等を取り入れた規則に変更した。(北海道、電気工事業)
●無駄な間接経費を削減し、必要な時、必要な金額を投資できるようにしている。今後は地元以外の得意先への営業活動をしていく予定。(群馬、輸送機器部品の精密研削加工)
●(1)入社3年目までの若者6人と個人面談(フォローアップ)、(2)メンタルヘルスケアの取組みについて学習会実施。(長野、金属部品切削加工)
●人材不足を仕事の流れを見直し、今のスタッフで無理のないやり方にかえている。今後社員の意見を聞き入れての人材投入及び配置換えを考案、ムダをなく負担が偏らないよう留意したい。(愛知、介護用品レンタル・販売)
●社員数不足のままで入庫調整を行わず、台数、売上の確保を図っている(大阪、自動車の販売・整備)

「中小企業家しんぶん」 2016年 2月 5日号より