黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(有)スタプランニング(赤嶺剛代表取締役社長、沖縄同友会会員)の取り組み(後編)を紹介します。
大量退職、第二創業へ
スタプランニングは創業以来10年間、仕事は拡大し、忙しかったがみんな楽しく働き、経営の狙いだった独立開業者も生み出しました。ただ一方で、月平均の残業時間は80時間を超え、疲れて辞める人も多く、2006から07年にかけては、1年で半分の社員が辞めてしまいました。しかし、残った社員との面談で、「スタプランニングで一生働きたい! この会社が好きです!」と言った社員がいました。独立開業ではなく、企業と共に成長することを望む人のことを考えていなかった!うれしくも申し訳なく思いました。これがきっかけで、経営目的を「社員が長く働きたいと思う企業」へ切り替え、社長はマネジメントに専念することにしました。スタプランニング第2の創業です。
選別受注
まずは、週休2日制を提案しました。社員からは「形だけやっても意味はない、日曜も出勤しているのに社長、何を言っているのですか」と反対されましたが、実施したところ、3カ月経ったころには、休めるようになりました。
次に、夜中まで仕事をするようなことをやめるため、選別受注を始めました。繁忙期の受注は時期をずらす交渉を行い、無理のない納期の公共JV(Joint Venture)工事を選びました。しかし、残業は思うほど減らなかったので、時間が来たら社員を帰らせるために、社屋の鍵を社長が握り、自分で開け閉めしました。残業が減らなかった理由として、当社ではサークルのノリでおしゃべりをしながら仕事をし、仕事をいつ終えるかという意識が希薄だったためです。強行的な労働時間短縮が社員の意識を変え、おしゃべりは減り、月平均残業時間は現在5時間に減りました。
社員主体の経営
スタプランニングのマネジメント強化は、社員主体の組織をつくり上げる方向に向かいました。同社では社員全員が「人生20年計画」を作成し、毎年改訂しています。各人の計画はみんなの前で発表されます。人生計画を勤務先という場でみんなと一緒に作成するのは、企業を社員の人生計画実現の場と位置づけているからです。
社員の成長を経営の大きな目標としています。年間で新入社員・一般社員・熟練社員・幹部社員の教育計画を立て、積極的にキャリア教育に取り組んでいます。国家資格などの受験に対しては、部署の社員同士で相談し、有給休暇を主に利用して、1~2カ月、試験休みを取れるようにしています。
子育て支援もしています。社員の7割近くが女性なので、何かあれば子どもを会社に連れてこられるようにしています。会社で宿題をするので、子どもが勉強しているそばで顧客との打ち合わせが行われています。子どもたちも夏休みには会社の朝礼に参加、今日の勉強予定を話したりします。そんな触れ合いの中で2018年、子どもが大工さんになりたいと話したので、赤嶺社長は「それじゃお母さんと一緒にスタプランニングで働いたら」と言いました。この年以降「社員の子どもたちも働きたいと思う企業に」という目標を持つようになりました。
スタプランニングの経営計画は、前年度に4回開く全社員による経営計画会議で決まります。財務的な計画のほか、人の採用計画もこの場で決められます。財務情報は個人の給料以外は完全に公開され、経営情報の保有に関しては社長も社員もまったく同等です。
高い労働分配率
労働分配率は極めて高く、2020年11月期77・5%、21年69・1%、22年73・1%です。赤嶺社長は、会社には粗利で1000万円残ればよく、ほかは社員で分け合えばよいと言います。「金は道具にすぎない。投資に金は必要だが、会社は身の丈に合った成長をすればよく、投資は少しずつでよい」。これは貨幣的価値のあくなき追求に導かれる資本主義的な経営の否定です。必要なものがあればよいという使用価値的価値観に基づく経営は、社会のあり方を考えさせる経営観です。
まちづくりに強い関心を持つ赤嶺社長は今、また新たな道、民間事業者のノウハウを行政サービスに活かすPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業への進出を始めました。「中小企業憲章」「沖縄県中小企業の振興に関する条例」の制定に力を入れ、「中小企業の日」制定も発案した赤嶺社長は、自分たちの手で社会を変えられると確信しています。
会社概要
設立:1996年1月23日
社員数:15名
事業内容:飲食店開業支援、PPP・PFI事業、建築設計・施工、インテリアデザイン業務、不動産事業部
URL:https://stta-p.com/
「中小企業家しんぶん」 2023年 3月 5日号より