【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】人への思いを込めた経営 (前編)(株)佐藤製作所 常務取締役 佐藤 修哉氏(東京)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)佐藤製作所(佐藤修哉常務取締役、東京同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

技術と市場

 (株)佐藤製作所は手作業の銀ロウ付け、はんだ付けによる接合技術を軸とした真鍮・銅・アルミ・ステンレス・チタンなどの金属の加工を行っています。以前は、売上の80~90%を占める大口顧客向けに、アンテナなど無線通信関係の製品に関する加工が主でしたが、近年では、新規顧客を開拓し、医療機器やオーディオ部品など、特定の業種・業界にとらわれない幅広いジャンルの部品・製品の加工を行うようになりました。試作品など、一品ものが30~50%を占める多品種少量生産で、図面支給による加工が大部分ですが、付加価値の高い設計提案による仕事も行っています。

 同社の競争力は、第1に、さまざまな高難度の銀ロウ付け加工によって蓄えた技術やノウハウです。これを生かし、熟練者でも難しいアルミ、タングステンのロウ付け、大物のロウ付け、超精密ロウ付け、セラミックのロウ付けなど、他社で敬遠されがちな依頼に挑戦しています。

 第2が多様な加工能力で、ロウ付け以外にも板金加工、機械加工、金属パイプ曲げ、棒曲げ、3次元曲げ、先端つぶし加工など多様な金属加工を行っています。このため、完成品までの一貫加工が可能です。

 受注窓口としてホームページが大きな役割を果たしており、他社が断った仕事の相談がホームページに入ってきます。既成の仕事に安住することなく、新しい仕事へのトライを心掛けています。

創業からの経緯

 佐藤製作所は、佐藤修哉常務(1986年生まれ、37歳)の祖母の父が自宅の1室で「けとばし」(フットプレス)と呼ばれるプレス器を用いて創業、祖母が手伝う家内工業でした。婿養子の祖父が引き継ぎ、1958年に法人化し、後に父の隆之氏が社長を受け継ぎます。修哉氏は現在常務取締役ですが、21年4月より「プレ社長」としてすべての意思決定のトップに立っています。佐藤製作所は高度成長による大口顧客の成長とともに売上を伸ばしましたが、2004年ごろから大口顧客の業績低下とともに業績は悪化。IT企業で金融システムのエンジニアを務めていた佐藤修哉氏(以下佐藤氏)が、2014年に28歳で平社員として入社した時、10年赤字が続いていました。

経営の立て直しへ

 平社員で入社したものの、10年赤字が続く企業を立て直す人材は佐藤氏しかいませんでした。まずは大口顧客依存からの脱出・新規顧客開拓のため、入社した年、企業紹介の域を出ていなかったホームページを抜本的に作り直しました。技術に焦点を合わせ、自社の強みを打ち出すものに変え、問い合わせ窓口も設けました。現在のホームページには「佐藤製作所最大の強みは『ロウ付けの技術力』です。他社でお断りされてしまった案件、加工難度が高い案件、品質要求が高い案件など」というアピールが載り、ロウ付けに関する詳しい技術解説も行われています。大口顧客への売上比率は年々低下し、現在20%になりましたが、これにはホームページ改革が大きく寄与しています。

 佐藤氏は、既存顧客への売上も増やすため、地道に訪問を重ね、顧客ニーズの把握に努めました。発注先として知り合いの紹介もお願いしました。顧客との対話から、従来認識していた強み・弱みは顧客の認識と違うことが分かり、営業戦略の構築に役立ちました。企業としての強みの把握は、インターンシップ・新卒者募集の際のアピールポイントの明確化にもつながりました。利益率改善のため、既存の仕事1件ごとにコストを見直し、価格の改訂もお願いしました。

 以上の結果、2年目の2015年に収支トントンとなり、3年目に黒字転換しました。売上は16年から毎年10%上昇し、現在の年商は約2億円です。

高齢化、劣悪な人間関係

 赤字だけが佐藤氏が直面した問題ではありません。平均年齢は60歳近くで、若手は自分ひとりという社員の高齢化が進んでいました。毎日がつらくなるような劣悪な人間関係もありました。社内では休憩中に雑談が交わされることもなく、会話というものが不在の企業でした。佐藤氏が社員とランチを共にすることもなく、佐藤氏の話し相手といえば客や協力会社。社員との会話があっても出てくるのは社員相互間の不平不満、責任のなすりつけ合い、社長や専務(叔父)への悪口でした。社員は一番言いやすい佐藤氏にはけ口を求めたのです。人の士気を下げるような高圧的な発言、客の前での社内の悪口などもあり、居るだけで気分が悪くなりました。なんでこんなことになるのか、今では業績の悪化で昇給も賞与もなく、社員による提案も受け入れない経営体制が人間関係を悪化させたと考えていますが、当時はさっぱりわからず、社長や専務への激しい悪口に反論する材料もなく、黙って聞くしかありませんでした。佐藤氏には人生をこのような場で送ることは考えられないことでした。

(後編につづく)

会社概要

設立:1958年12月17日
社員数:18名
事業内容:銀ロウ付け、はんだ付けによる接合技術を軸とした真鍮・銅・アルミ・ステンレス・チタンなどの金属の加工
URL:https://sato-ss.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2023年 4月 5日号より