中同協・中小機構トップ対談【第2回】
中小企業の発展を目指し、連携した取り組みが重要
独立行政法人 中小企業基盤整備機構 理事長 豊永 厚志氏
中小企業家同友会全国協議会 会長 広浜 泰久氏

 中小企業基盤整備機構の豊永理事長と中小企業家同友会全国協議会の広浜会長のトップ対談が行われ、同機構が運営する中小企業向けのポータルサイト「J-Net21」に掲載されました。中小機構の了解のもと3回にわたって転載します。

業界・地域の課題を自社の課題ととらえる

―厳しい経営環境を乗り切るためにDXや事業再構築などの変革が求められています。

広浜 業界や地域の課題を自社の課題に置き換えている会社は成功しています。私の会社でもこんなことがありました。缶の需要がピークから半減し、得意先の金型を作っていた人が廃業することとなった。大変困っているので、私どもで金型を作ることにし、同じように困っていた多くの会社に販売しました。このように困りごとを解決すると新しい市場が生まれてきます。

豊永 キーワードは「社会的課題」。社会が何を求めているのか。そこにチャンスがあります。コロナ禍で中小機構は事業再構築補助金を開始しましたが、もっと改革に踏み込んだ中小企業に絞って支援すべきでは、という声もありました。DXについても、米国では新事業や新規顧客獲得を目的にDXを進めているが、日本では業務効率化にシフトしている。コロナ禍で価値観などが変わっているなか、日本の中小企業も補助金やDXなどを活用し、社会的課題に対応した新商品・サービスを生みだしてほしい。DXについて中小企業の経営者からは「人材がいない」「DXを進めても良くなる保証がない」という声が必ず聞かれます。これはいわば食わず嫌い。思い切って若い人に任せてみれば、きっといい方法を考えてくれるでしょう。

EC活用し海外に販路を求める事業者も

―急激な円安の進行は原材料価格の高騰の一因にもなり、大きな逆風になっていますが、輸出企業にとってはメリットもあります。会員企業の海外展開の動向はいかがですか。

広浜 以前から輸出に取り組んでいる会員企業は調子がいい。コロナ禍による変化に対応して工夫しているケースもあります。ある企業の営業マンが緊急事態宣言などで時間に余裕ができた際に中国語をマスターし、中国国内の取引先とのリモート会議で交渉がスピーディーになったそうです。また、ある自動車リサイクル業者は、海外のバイヤーが来日しなくなったため、オークションサイトを開設してビジネスを進めています。

豊永 かつて海外展開といえば事業所などを海外につくることがメインだったが、今は円安なので輸出への関心が高い。そうした状況を受け、経済産業省、中小企業庁、ジェトロ、そして中小機構が一体となって、中小企業の輸出に向け一貫した支援を行う「新規輸出1万者支援プログラム」を昨年12月から始めています。輸出は、商社を通じて行うほか、電子商取引(EC)で海外に販売する手段もある。こんな事例があります。若い夫婦が東京から長崎県の五島列島に移り住み、奥さんが地元の食材で作ったレトルトカレーをECサイトで販売し、中国にも売り出しました。離島からでも海外の市場に販売できる。これがECの強みでしょう。

SDGsには3ついいことがある

―カーボーンニュートラル(脱炭素)やSDGs(持続可能な開発目標)も中小企業経営の避けられないテーマになってきました。会員企業の動向はどうですか。

広浜 SDGsは同友会の活動と親和性があり、ずいぶん前から項目に沿った運動をやっています。二酸化炭素(CO2)削減など環境経営に取り組む優秀な会員を毎年表彰し、2016年に「中小企業家エネルギー宣言」を発表しました。SDGsには環境ばかりでなく、貧困などいろいろなテーマがあります。特に中同協は人間尊重の経営を大切にしているので、8番目の目標「働きがいも経済成長も」は、われわれこそ先頭に立たなくてはいけないと取り組んでいます。

豊永 中小企業経営者は、どうしても環境への関心が高くなりますが、広浜さんが言われた「働き方」「地域」といった部分は中小企業が大切にしてきた分野です。もし、これが希薄化しているとしたら、SDGsは「地域で生きる」「従業員・お客様と共に生きる」ということを改めて考える良い機会になると思います。

広浜 「SDGsに取り組むと何かいいことがあるのか」とよく聞かれることがあります。先日、私の会社は「くるみんマーク」(子育てサポート企業)認定を取得したのですが、大学の先生によると、求人で学生が中小企業を選ぶとき、こうした認定を取得していると、学生が検索するそうです。検索の1つの切り口になっている。「くるみんマークを取得している製造業は少ないからアピールできる」と言われ、「なるほど」と思いました。

豊永 私は、SDGsには3ついいことがあると言っています。1つが人手不足の中でも選ばれる会社になる。もう1つは、従業員が「自分の会社は環境や地域、貧困対策のために良いことをしている」という自負や働きがいを持てる。3つ目は、取引先がSDGsで下請けやサプライチェーンを選んでいるということです。脱炭素では、大手企業がサプライチェーン全体に目を向けていますが、さらにSDGsに取り組んでいる企業は「信頼できる企業」とセレクションしています。

(5月15日号に続く)

中小企業基盤整備機構中小企業向けのポータルサイト「J-Net21」

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「中小企業家しんぶん」 2023年 5月 5日号より