「就業調整」と「収入の壁」―「収入の崖」ではないのか

野村総合研究所(NRI)では、2022年9月、全国の20~69歳の有配偶パートタイム就業女性3,090人を対象に、インターネットアンケート調査を実施し、「就業調整」の現状とそれを行う有配偶パート女性の就労意向などを把握しました。以下記事の内容を紹介し、データを見てみます。

 正規雇用者と非正規雇用者の人数を、1991年と2021年の30年で変化を見てみます(図1)。

正規雇用者は1991年3,639万人から2021年3,565万人と74万人減少し、0.98倍となっています。非正規労働者は1991年897万人から2021年2,064万人と1,167万人増加し、2.3倍です。全体の雇用者数の増加は、非正規労働者が増加した結果だということがわかります。

 次にパートタイム労働者の時給、年収、1人あたり月間総労働時間の推移のデータを見てみます(図2)。

2000年=100とした場合、パートタイム労働者の時給は、2000年以降緩やかに上昇し、2021年は約130で、時給は3割アップしました。しかし、年収を見てみると105程度であり、年収は増加していません。1人あたり月間総労働時間は逆に就業調整され、81程度となっています。労働時間は約2割も抑制されています。

 また、記事の中では「有配偶パートタイム女性の年収は、45%が100万円未満、130万円未満で全体74%を占める」とあります。有配偶パート労働者の6割以上が、年収額を一定以下に抑える「就業調整」をしているとのデータもあり、87.2%が働き手側の意向で調整を実施しています。まさしく「収入の壁」は「収入の崖」となっており、一定の収入を超えないよう就業調整している実態がわかるデータです。

 国内最大の覆面調査モニターサイト「ミステリーショッピングリサーチ」を運営する(株)MS&Consultingでは、当モニターサイトの配偶者がいるパートタイムで働く女性1,267人を対象に、「年収の壁や就業意向に関する調査」を実施しました。その調査によると7割の女性が「年収の壁がなければ、勤務時間を増やしたい」と回答したとあります。同社は「制度見直しにより、380万人分に相当する雇用確保の可能性」があると提言しています。人材不足の中、「収入の壁」の問題は政府に要望していく必要があります。

「中小企業家しんぶん」 2023年 6月 25日号より