【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】
「こまむぐ」~小さな企業の大きな志~(前編)
(株)こまむぐ 代表取締役 小松 和人氏(埼玉)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)こまむぐ(小松和人代表取締役、埼玉同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

高付加価値経営

 「こまむぐ」の中心事業は木製玩具の製造・販売で、ほかに保育遊具・保育家具の製造・販売、展示イベント・工作教室なども実施しています。玩具は3歳くらいまでの子どもを対象にした、あたたかな肌触りの木工おもちゃです。中に仕込んだビー玉でカタカタと独特の動きで板の坂を下りてくる「どんぐりころころ」は、業界では知らない人はいないヒット商品となり、現在まで50万個売れています。製品のオリジナル性が同社の生命線であり、商品力に関しては競合企業はないと自負しています。玩具の単価は2000円~1万円と3歳児の遊び道具としては決して安くないですが、常に製造能力以上の受注を得、78%という高付加価値率を実現していることが、自負を裏付けています。

 製造工程はすべて手作りで、小さい子どもが安全に遊べるよう、ささくれが出ている部分がないよう、磨きの工程に製造時間の半分を充てています。塗料は舐めてもよいように、ひまわり油などの植物油由来の自然塗料を使っています。子どもの安全のための丁寧な手作りも商品力を高めています。

 社屋には製造スペースのみでなく、ダイレクトショップ、ショップ・カフェ、子どもたちがおもちゃで遊べるスペースも備え、定期的なイベントも開催するなど、地域の人々が、木のおもちゃと木質空間で楽しく過ごせる場にもなっています。インタビュー中も子どもの元気な声や跳ね回る音が聞こえていました。地域に寄り添い、愛される会社になることも同社の経営目的です。

 年商は2019年度3200万円、20年度2500万円、21年度4200万円、22年度5200万円で、22年度は19年度の6割増以上の売り上げです。20年度の売上減は小売店が新型コロナ禍のために休業したためです。

創業の経緯

 小松和人氏は父親が経営する鋳物用木型を製作する企業に、三代目社長候補として2001年に入社しました。しかし、鋳物産地の埼玉県川口市の鋳物生産は減り続け、仕事を獲得できず、父親から自分1人で何か仕事をしろと言われました。21歳の時でした。新しい仕事としておもちゃ作りを選んだ理由は、不安に陥っていた自分が、いつもわが子の笑顔に元気づけられたことでした。子どものために木の三輪車を作ったら妻や友だちがすごいと驚いてくれ、自信も得ました。木型を作っても最終製品が何に使われるかわからず、ユーザーの顔が見える製品を作りたい思いもありました。木のおもちゃを作る作家的な人たちを訪ね、勉強をするなどして、2003年に開業しました。

飛び込み営業、テレビ出演

 木型の機械を使わせてもらい、軽のワンボックスカーに乗せられるだけの製品を作り、車内泊をしながら全国の雑貨店、おもちゃ店に飛び込み営業をしました。300軒回って門前払いは1軒もなく、2軒目か3軒目かで立ち寄った京都の店が最初に買ってくれました。1カ月で10個だった注文が20個、50個になるというように、手作りのおもちゃが1人1人の手に渡り、徐々に広まりました。最初の1年で50軒の取引先ができ、仕事は楽しく、生活もできました。

 04年、テレビ東京系列の番組『TVチャンピオン』から声がかかり出演、優勝して「輪ゴムクラフト王」になりました。輪ゴムを動力とするジェットコースター、観覧車など木の遊園地を作りました。番組プロデューサーはほかの木のおもちゃ作家から出演を断られたため小松氏に出演依頼しました。プロデューサーには予想外の優勝でした。

 これがきっかけでデザインやワークショップの依頼が増え、数年後にはNHKでおもちゃ作りの講師をしました。保育園からも講師を依頼されるようになり、仕事の半分以上は製作以外が占めることになりました。名も知られていない中小企業経営者が世間で信用を得るきっかけになるのが「有力関係者」を味方につけることですが、小松氏の場合はマスコミを味方につけました。

 これとともにおもちゃ作家やデザイナー志望の人たちが入社するようになりましたが、小松氏が言うには自分のパワハラで半年もたつと辞めていきました。しかし、また入社希望者が来るので危機感はまったくなく、「根性なしが!」と思っていました。創業期の経営者はひたすら前に向かって突進し、周囲に対する配慮はありません。小松氏も「創業期経営者の罠」に陥っていました。

突然の事故、法人化

転機になったのは、小松氏が製作中に指を切り、皮一枚でつながる重傷を負ったことです。指をつなげる手術を受け、退院まで1カ月以上、その後も通院を続けました。仕事は小松氏に来ていたので、従業員は何をしてよいかわからず、3カ月は仕事ができませんでした。客には迷惑をかけ、従業員には指を切断するようなリスクを負わせていたのに大事にしていなかったことに気づきました。おもちゃを使った子どもが成人し、当社で働きたいと言ってきたときに受け入れられるかと反省しました。そこで、作家業的な仕事スタイルはやめ、企業を法人化(2016年5月)、マネジメントに力を入れることにしました。(後編につづく)

会社概要

設立:2016年5月6日
資本金:300万円
事業内容:木製玩具・木製遊具・家具・雑貨などの製造・販売、イベント・工作教室などの実施
URL:https://comomg.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2023年 7月 5日号より