【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】
「こまむぐ」~小さな企業の大きな志~(後編)
(株)こまむぐ 代表取締役 小松 和人氏(埼玉)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(株)こまむぐ(小松和人代表取締役、埼玉同友会会員)の取り組み(後編)を紹介します。

製造時間の制限

 「こまむぐ」のマネジメントの根幹に製造時間の制限があります。製造時間は週所定労働時間40時間のうち30時間程度としています。この経営スタイルにはモデルがありました。京都市の「佰食屋」は、肉料理のメニュー3種でランチ時間に100食売り切ったら営業終了。Web情報によると、労働時間が長くなりがちな飲食店で、残業なしでワーク・ライフ・バランスを実現。働きに無理がないので、従業員は笑顔を浮かべ、気配りができ、お客にも喜んでもらえる。仕入れた肉を明日に持ち越すこともなく、フードロスもゼロ。

 小松氏はこの経営スタイルに共感、欲しい人に、本当に欲しいものを小ロットで提供するシステムならば、働く時間も資源消費も抑えられると思いました。オリジナルな商品開発で、製造能力以上の受注があるため、製造量のコントロールによって利益額が決まります。目安としている製造時間の30時間は所定労働時間のうち75%ですが、70%を製造に充てれば利益を出せるので、30%はほかの活動に充てたい。「佰食屋」の100食に当たるのが所定労働時間の7割ということです。こうして、製造時間の制限で、「こまむぐ」では利益を出しながら残業ゼロを達成しています。なお、有給休暇消化率も70%と高率です。

仕事を時間で区切る

 製造時間の制限には次のような背景もあります。同社では事業部門を設けておらず、全員が製造とカフェなどその他の仕事を行います。したがって、この面からも全員に関し製造とその他の活動にどれだけ時間を充てるかを考えなくてはなりません。経営者としては経営環境が不安定な今日、もっと利益を出したいという気持ちがあるのも否めません。しかし、社員はおもちゃ作りが好きで入ってきた人たちばかりです。事業規模が大きくなっても社員が多様な仕事をして成長してほしいと思っており、仕事を時間で区切っています。

小さな企業の大きな志

 同社ホームページは以上のような働き方について次のように述べています。

 「こまむぐでは製造数の上限を定めています。(中略)売れたら売れただけ作るのではなく、環境にとっても働く人にとっても、無理のかからない適切な上限数を設定しています。(中略)商品のお届けにお時間いただくこともあるかもしれません。ご迷惑をおかけしますが、私たちはよりよい働き方のできる社会の実現を目指して取り組んでまいりますので、どうぞご理解ご協力のほどお願いいたします」。小さな企業の大きな志を感じます。

従業員による2030ビジョンの作成

 製造以外の時間を活用したものに従業員による「2030ビジョン」の作成があります。毎月1回の会議で1年かけて作成しました。一言一句、すべて従業員が書きました。小松氏が修正を要請したのは1カ所だけでした。

 ビジョンは13項目からなり、(1)~(5)は、木を大切にすることによる地球への貢献、地域の核になるような活動で地域との共生、おもちゃと遊びによる子どもへの貢献、世代にわたって受け継がれる製品づくり、流通(販売店)との連携、を謳(うた)っています。(6)~(10)は労働に関する事項が並びます。気持ちよく働ける環境、ワーク・ライフ・バランス、働く者のよき関係性、働きにふさわしい処遇、社員の主体性が発揮される企業、をめざすとしています。(11)~(13)は、次期経営者候補の決定と次のビジョンの作成、100年続く企業にするための収益目標、変化に対応できる財務基盤の構築、を挙げています。

 今、企業は多様な利害関係者への社会的責任をはたすべきという「ステークホルダー経営」が推奨されていますが、(1)~(5)は地球、地域、子ども、モノづくり、流通への貢献、(6)~(10)は従業員への貢献を意味しており、(11)~(13)はそのために必要な企業の発展目標と解釈できます。社会的責任を果たそうとする従業員の大きな志を感じます。

ビジョン作成の効果

 小松氏によると、社員は、小松氏作成の経営理念はなるほどと思っているが、ビジョンは自分たちの考えが形になったと言っています。ウクライナ戦争で、ビジョン中の「遊びが当たり前の社会を目指そう」が汚されたと感じました。社員の総意で子どもの遊ぶ権利を守るため売上の一部をウクライナに寄付するチャリティーグッズの販売を始め、売上の半分の150万円を国際非政府組織に寄付しました。ビジョンは「こまむぐ」を構成する人々の共通の解釈基盤になっています。

課題

 「こまむぐ」では社員中心の経営が行われているように見えますが、小松氏は、まだ社員は自分たちで問題を解決する力がないと言います。小松氏は自分もまだまだで、社員は信頼できるパートナーと位置付けるべきと思っているが、どこかに使用者意識が残っていると言います。新卒社員の定着、社員による商品開発の推進も課題です。法人化し、小松氏がマネジメントに注力するようになってからまだ7年、社長も社員も成長途上です。

会社概要

設立:2016年5月6日
資本金:300万円
事業内容:木製玩具・木製遊具・家具・雑貨などの製造・販売、イベント・工作教室などの実施
URL:https://comomg.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2023年 7月 15日号より