連載「わが社のSDGs」
地域と共に持続可能な社会の実現を
(株)日本海開発 代表取締役 南 純代氏(石川)

SDGs(持続可能な開発目標)は、「誰一人取り残さない」持続可能な社会の実現をめざす世界共通の目標です。2015年の国連サミットにおいてすべての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられました。2030年を達成年限とし、17の目標と169のターゲットから構成されています。
新連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第4回目は、(株)日本海開発(南純代代表取締役、石川同友会会員)の取り組みです。

 (株)日本海開発は、石川県能美市で一般廃棄物の収集運搬、プラスチックや空き缶のリサイクル業を営んでいます。創業は父親で、南氏は2019年に社長に就任しました。南氏は短大卒業後、別の会社に入社しましたが、父親が倒れたことをきっかけに(株)日本海開発の関連会社に入社。「人が嫌がる仕事を家業としていることが子どものころからコンプレックスでしたが、同社に入社したことで父親の創業の思いがわかり、会社を残したいと思うようになりました」と南氏は語ります。

 その後、後継者として経営の勉強をするために同友会に入会し、現在は副代表理事を務めています。また地域政策委員として大学との課題解決型共創インターンシップに力を入れ、その実績から同友会と同学の連携協定締結に至りました。

理念の見直しから環境活動へ

 南氏が社長に就任したとき、社員が存在意義や誇りを持てる会社にしたいと考え、社員とのワークショップで経営理念の見直しを行いました。それまで社内会議などはなかったため議題に沿って進めるということさえ難しく、理念の浸透には苦労しました。委員会の設置やその他の部門を3つ作るなど組織作りを重視しました。各部門の中にSDGsの課題を紐づけしていき、これを毎年経営計画発表会で発表して社内に浸透させていきました。このような組織づくりを通じて事業領域が広がっていきました。

 また、経営理念の見直しをきっかけに海岸清掃に取り組んでいます。現在では地域の企業や小学校、中学校、高校からも声がかかり、年間で約1000名が参加しています。地元の小学生との海岸清掃では、昔の能美は地引網で魚が取れて海水浴もできていたことや、塩田だったことなど地域の歴史の学習と合わせて行い、これからの地域を考えるきっかけになっています。また、コロナ禍によるオンラインの普及から地元の高校と沖縄の高校が連携して海岸清掃を行い、集まったゴミの種類や地元の海の状況、これから取り組むべきことなどについて交流も行いました。

 さらに、地元の学校から出前授業の依頼があり、活動の幅が広がっています。現在は、能美市にあるすべての小学校で出前授業を行っており、6年生500名ほどに2030年の能美のありたい姿を「環境食育絵日記」として書いてもらい、この目標を達成するために地域の残したい資源を使って解決策を考える子どもサミットを行っています。地域には九谷焼や動物園があるため、「九谷焼を販売したときにリサイクルポイントを付与する」、「動物の形をしたリサイクルボックスを置く」など、子どもたちは自分たちの発想で楽しみながら地域の将来を発表します。

地域とのつながり

 国際貢献として、ペットボトルキャップの回収で得た収益をワクチンに変えて寄付しています。ほとんどのキャップが市民や地域企業、経済団体などからの持ち込みです。この活動を通して、地域の方には廃棄物処理業ではなく「エコキャップの企業」と認知されるようになりました。

 また、環境教育・食育の一環として、自社で製造販売している有機肥料「ひかり太陽」を使用して地元の小学生たちと大根を育てたり、共食を行ったりしています。「ひかり太陽」は地域の給食残渣(ざんさ)と地域で出た剪定(せんてい)チップから作られ、農家と一緒に「ひかり太陽」を使用して育てられた米のブランディングも行っており、能美市のふるさと納税の商品にも認定されています。大根づくりでは「ひかり太陽」を使用することで、「食資源のリサイクル」を学んでもらいます。また、教室だけでは分からない自社の事業や農家の担い手不足などの課題も知ってもらい、将来の就職先として地域の企業も考えてもらえるよう取り組んでいます。

 さらに、地域のお寺を拠点に食育活動を始め、「食育拠点は能美の寺!」と地元新聞に掲載されました。子どもたちは活動を通じて地域の人と楽しく食事や調理を共にし、郷土料理や家庭料理、地産地消について理解を深めることができます。また、大人数で食べることで、1人で食事をする「孤食」を防ぎ、地域のつながりを見直すきっかけにしてもらい、食を通じたコミュニケーションを行うという目的もあります。最初は、おにぎりを握った経験がない子どもたちに握り方を教えるところから始めました。子どもたちが自分で握ったおにぎりをおいしいから家族にも分けたいと持って帰る姿を見て、家でできないのであれば自社が地域のプラットフォームになろうと取り組んでいます。

 同社のリサイクルステーションは地域の中心部にもあり、ここは地域の方が自主的に管理しています。地域の方同士で整理整頓や分別の指導を行っており、自然と地域のコミュニティの場になっています。「地域の方の理解があるからこそ続けることができており、自社だけではリサイクル事業は成り立たないと思っています」と語る南氏。ほかにも支援学校の実習生受け入れや高齢者雇用、車椅子の寄付なども行っており、「能美から世界を変える」というテーマのもと地域と共に持続可能な社会をめざしています。

会社概要

設立:1996年
事業内容:一般廃棄物・産業廃棄物・医療廃棄物収集運搬、一般廃棄物・産業廃棄物 中間処理粗大ゴミ回収、金属再生処理、機密書類溶解処理、有機肥料「ひかり太陽」の製造・販売
URL:https://nihonkaikaihatsu.com/

「中小企業家しんぶん」 2023年 7月 25日号より