【あっ!こんな会社あったんだ】高齢者雇用
生涯現役で働ける会社づくり
(株)美装管理 代表取締役 高野 浩子氏(大分)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「高齢者雇用」をテーマに、高野浩子氏((株)美装管理代表取締役、大分同友会会員)の実践を紹介します。

 (株)美装管理は1974年に大分県別府市で高野氏の父が創業。主な事業内容は、病院、オフィスビル、ホテルのほか、マンション・アパートや戸建て住宅、温泉施設などの建物の管理業務や建築物の飲料水貯水槽の清掃管理業務、ホームメンテナンス、病院給食業務など総合ビルメンテナンス業として多岐にわたります。このほかに創業当初より特殊技術である「木部灰汁(あく)洗い」工事を手掛けており、神社・仏閣をはじめ古民家や木造住宅の清掃業務も行っています。

定年引き上げ

 高野氏は地元の大学を卒業後、父が経営する(株)美装管理に入社。中学生のころから父の仕事場に行って手伝いをしていたこともあり、入社するのは自然な流れでした。2007年に代表取締役に就任し、2009年に同友会に入会しました。2013年には別府支部長、2015年副代表理事、2017年より代表理事を務めています。

 同社の社員構成は、社員数48名のうち60歳以上の社員が13名、70歳以上は13名と半数以上が高齢社員となっています。人生100年時代と言われる昨今、「身体が動く限り働きたい」「あてにされる、頼りにされる存在でいたい」という思いを実現させるために定年制と継続雇用制度を改定しました。従来、定年66歳、70歳までの継続雇用でしたが2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法による70歳までの就業確保措置に照らし合わせ、社員の高齢化の現状と向き合う中で定年年齢を70歳、継続雇用の上限年齢を75歳に改定しました。

 高齢者を継続雇用する上で心配なことは、体調不良や家の中での転倒によるケガなど急に休みが必要になるケースです。このような場合に対応するために代行で業務を行える人員を常に用意し、安心して休みが取れる環境をつくっています。また、フレックス勤務制も導入し、勤務時間を固定するのではなく、空いている時間に業務を行えばよい現場(マンションの玄関ホールやごみ置き場の清掃など)が多々あり、本人の希望に合わせて業務を行えるようにしています。

若手社員への技術継承

 高齢社員による伝統手法の継承にも取り組んでいます。(株)美装管理は九州内で唯一の伝統手法である「木部灰汁洗い」の技術を保持しています。木を削ることなく建てた当初の風合いや木の香りまでよみがえらせる木部洗いの技術は後世に残しておくべき技術です。技術の伝承には経験値も必要であり、マニュアルにできない部分も多くあるため高齢の先輩社員から若手社員への技術の継承が必要不可欠です。そのため、現場では高齢社員と若手社員がペアになって就労するスタイルを取り、OJTによる技術の継承を行っています。現場で直接指導することで若手の技術も向上していると言います。

 ペア就労は「木部灰汁洗い」の現場だけではありません。技術や経験を持つ高齢社員はメンテナンス現場をはじめさまざまな現場で活躍しています。ペア就労では、身体に負担のかかる高所での作業や重い機器の準備などは若手社員が担当し、作業内容の指示や指導は高齢社員が重点的に担当する仕組みにしています。

雇用継続できる職場環境を整備

 定年を引き上げ、雇用継続できる職場環境のためにはまず、作業環境の改善が必要です。さまざまな現場があるため、重労働を伴うこともあります。少しでも作業負担を軽減するために自動汚水回収機、防音高圧洗浄機などを購入、機器も最新のものに変更し、高齢社員でも効率よく作業ができるための設備整備も行いました。

 また、働き続けるためには健康であることが第1です。年1回の健康診断のほかに予防検診として骨粗しょう症検査も行っています。転倒事故などによる骨折リスクが高くなるのを回避するためです。ほかにも希望者には産業医のカウンセリングを行ったり、メンタルヘルス関連の資格を取得した総務部の社員が対応できる体制も整備しました。

 現場での作業は直行直帰が多く、会社との関係が薄くなりがちです。(株)美装管理では、社長・部長による定期的な現場巡回を行っており、社員からの意見や要望を聞き取り改善に生かすなど積極的にコミュニケーションを図っています。

これから

 (株)美装管理は、令和3年度高年齢者活躍企業コンテストで厚生労働大臣表彰特別賞を受賞しています。そんな同社は高齢者を大切な働き手と考え、将来的には定年制の廃止を検討しています。そして今後は、ますます高齢化社会が進む中で高齢者だけでなく、誰もが働きやすく、それぞれの特性を生かしていきいき働ける会社づくりをめざしています。

会社概要

設立:1974年7月
社員数:48名
事業内容:総合ビルメンテナンス業(建築物の総合管理業務、建築物の飲料水貯水槽の清掃管理業務、建築物の空気、水質等の環境測定、神社仏閣の木部灰汁洗いなど)
URL:https://www.biso-kanri.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2023年 8月 5日号より