【中小企業魅力発信月間】キックオフ行事実践報告(宮城)
産官学が連携して生きた条例に~条例を活用し地域のにぎわいを創出~
南三陸町商工観光課 課長 宮川 舞氏(株)高野コンクリート 代表取締役会長 高野 剛氏

 中小企業振興基本条例の制定が全国の自治体で進んでいます。6月2日に開催された中小企業魅力発信月間キックオフ行事「憲章・条例活用シンポジウム」では、振興条例の活用が進んでいる事例として宮城同友会が実践報告を行いました。報告要旨を紹介します。

経営者と行政が一体となる円卓会議

高野:条例制定にあたり、北海道(別海町)に視察に行きました。一番印象に残ったのは、地域のリーダーが、条例制定後に円卓会議をけん引しているということです。南三陸町も地域のまとめ役が必要だと感じて帰ってきました。また、慶応義塾大学の植田浩史教授(中同協企業環境研究センター座長)より、条例が機能するポイントは、(1)全事業所調査、(2)条例文(地域理念)、(3)円卓会議の3点だと聞いていたので、東日本大震災後に同友会が中心となり、南三陸町全事業調査を行いました。調査後の発表会では「未来の子どもたちが誇りを持てる町づくりをしたい」「地域の中小企業が立ちあがらなければ復興はない」という議論になり、条例制定をめざすことになりました。

 条例制定に伴って設置された円卓会議は同友会のメンバーを中心とし、教育機関・行政・地域住民・地元企業・同友会事務局で構成されています。円卓会議では、参加者が地域の問題を出し合い、解決策を出し合う、具体的な取り組みへと変化しています。

宮川:円卓会議で地域住民や事業者の生の声を聞けるということは私たちにとって非常に有意義です。「声」を聞いた以上は具体的な取り組みにしなければなりません。条例は掲げて終わりというわけではなく、魂を吹き込み、未来へつなげ行動することが私たちの責任であり役割だと捉えています。

行政と連携した取り組み

宮川:まず1つ目の事例は、南三陸町スポーツフェスティバルです。震災前、南三陸町では町民運動会を地区ごとに開催していましたが、震災後、コミュニティの活性・再生が課題となりました。地域の若者たちは、ふるさとの記憶として町民運動会をよみがえらせたいという思いを持っていましたが、ノウハウも地域ネットワークもないという現状でした。そこで、円卓会議の事業者が立ち上がり、人集めから地元事業社協賛による豪華景品の用意にいたるまで、多くの地域の事業者が連携してスポーツフェスティバルを作り上げました。2019年に第1回目が開催され、翌年からコロナ禍となり開催することができませんでしたが、今年、第2回目が開催される予定です。

 2つ目の事例は外国人研修生のコミュニティ参画です。南三陸町には水産加工会社が数多くあり、アジア圏から外国人研修生の受け入れを行っています。これから先、外国人研修生が大きな労働力となります。そこで、町で開催する大きなイベントなどで外国人研修生自らブースを作り、母国の料理を提供したり文化の紹介をしたりしてもらいました。

 3つ目の事例は「南三陸おらほの高校を応援する会」です。2023年4月から南三陸高校では学生の全国募集を行っています。全国の子どもたちを地域全体で受け入れるという気運が必要だということで、「おらほの学校を応援する会」が発足しました。コロナ禍で人が集まらないのではないかという不安をよそに、円卓会議のメンバーの声かけで、定員を超える200名ほどの地域住民が集まりました。現在は、南三陸高校に来た子どもたちと地域との交流会などを円卓会議も協力しながら実施しようという話も出ています。

 4つ目の事例は、コロナ禍での販路・消費拡大です。コロナ禍において、今地域でどのような支援が必要なのかといった声は、行政にとって非常に重要な情報源でした。当時、毎月顔を合わせて情報を交換していた円卓会議では、地域の状況や意見をスムーズに伝えることができました。2020年は、地域事業者の販路・消費拡大のために、お歳暮商戦に対応したギフトカタログの作成を行いました。円卓会議では、地元の観光協会がこれらの商品の受け渡しや発送を担うことで観光事業も生き延びていかなくてはという意見が出ており、初年度から2年継続して行いました。

今後の展望

高野:行政と私たち民間企業が南三陸町をよりよい町にしていこうと考え、円卓会議を実施しています。円卓会議は役場で開催しており、これを町長に容認していただいているというのが一番の成功の鍵だと考えます。次の世代のメンバーを集めて私たちの考えを継承していくことがやはり大切だと思います。

 震災から 12年が経過しましたが、追い打ちをかけるようにコロナ問題にも直面しました。大変厳しい環境下ではありますが、間違いなくこの10年間で積み上げてきたものがあります。南三陸町のリーダーの姿を次世代へ伝えていくことが、何よりも大切だと思います。

「中小企業家しんぶん」 2023年 8月 5日号より