【あっ!こんな会社あったんだ】DX(デジタルトランスフォーメーション)
ITで地方創生の実現へ
(株)アプリップリ 代表取締役 有田 栄公氏(福岡)

 企画「あっ!こんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「DX(デジタルトランスフォーメーション)」をテーマに、有田栄公氏((株)アプリップリ代表取締役、福岡同友会会員)の実践を紹介します。

会社の創業、同友会との出合い

 (株)アプリップリは、モジュール設計・開発やアプリ開発を事業とするIT企業です。父親が創業した有田電器を継ぐことを考えていた有田氏でしたが、パソコンの登場により、これからはパソコンを駆使しなければと考え、IT企業を設立します。その後、有田電器と統合し、2020年に社名を(株)アプリップリとしました。

 有田氏が同友会に入会したのは2次創業後間もなくの2003年のことでした。有田氏は「会社のあらゆることに悩みがあった。何が正しいか分からなかったから、同友会で学んだことはすべて取り入れた。聞いて実践の繰り返しだった」と語ります。

地方創生に取り組んだきっかけ

 生まれ育った地域に恩返しをしようと子どものころから思っていた有田氏。ITを使った地方創生に具体的に取り組むきっかけとなったのは、2015年、財務省福岡財務支局主催の「九州の未来力2030」に参加したことです。そのプラットフォームでITの推進も盛り込んだ嘉麻(かま)市の地方創生のプランを発表しました。

 この嘉麻市の取り組みを今後、嘉麻市と同じような人口の少ない全国の地方に広めていくという決意を固め、地方創生を事業とする(株)かまの立ち上げに至りました。

ITで「漏れバケツ」をふさぐ

 有田氏は同友会で「漏れバケツ」理論を学びました。地域に流入するお金が、バケツに穴が開いているように地域外へ流出する「漏れバケツ」状態を止めるために、有田氏は自社のIT技術を活用しようと考えました。そこで、嘉麻市内でお金を使ってもらえるように開発したのが「かまししちゃんアプリ」です。このアプリは嘉麻市内でのキャッシュレス決済・電子決済の機能を持ち、取扱店で使用すると「かまししポイント」が付くという仕組みです。

 さらに、行政との連携も行われました。嘉麻市で使える電子ポイント「カマデポ」やプレミアム商品券を配布する事業に、行政が「かまししちゃんアプリ」を採用したのです。地元の企業である(株)アプリップリと商工会・行政の連携により、「漏れバケツ」状態の改善に貢献することができました。

農業×IT

 嘉麻市には「嘉麻ひすい大豆」という特産品があります。地元の老舗豆腐店の三代目と6代目が有田氏を訪ね、地元の大豆で豆腐を作りたい、希少種の大豆「キヨミドリ」を嘉麻市で作って販売したいという相談に来ました。有田氏は地元の農家と協力し、努力のかいあって栽培することができ、「嘉麻ひすい大豆」が誕生しました。有田氏は「かまチョク」というホームページを立ち上げて、「嘉麻ひすい大豆」の枝豆・豆腐・納豆のネット販売を行いました。

 さらに、「かまチョク」で嘉麻市の小規模農家がつくった野菜を販売できる仕組みもつくっています。集出荷場用アプリに「かまチョク」の受注データを取り込み、各農家へ収穫依頼を自動送信し、農家はそれを基に、集出荷場へ野菜を運ぶという仕組みです。有田氏は「地元の農家が潤わないと後継者が帰って来ず、地域の衰退が進んでしまう。この取り組みを始めて、1軒の農家の後継者が帰ってきてくれた。地方創生に貢献できたと実感してうれしかった」と語ります。農業との連携は実証段階ですが、農業とDXの融合で地域活性化を図っています。

今後の目標

 有田氏の今後の目標は地方創生のプラットフォームとなるアプリを世界中の人々が利用して日本の各地域を観光できるような仕組みをつくることです。「地方創生」という言葉すら日本からなくしたいという思いに基づいたこの構想は、まさに同友会の発信する経営理念に基づく計画の体現です。有田氏は「効率化がDXではない。会社内部だけではなく、会社と会社、市民、果ては日本全体や世界をつなぐことを考えるのがDXです」と語ります。同友会の学びをフル活用する有田氏の果てなき挑戦はまだ始まったばかりです。

会社概要

設立:2000年9月
社員数:27名(グループ計)
事業内容:モジュール設計・開発、アプリ開発、アプリレンタル、クラウドサービス、システムインテグレーター、基幹システム導入・保守
URL:https://applippli.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2023年 8月 15日号より