【中小企業魅力発信月間】キックオフ行事実践報告(香川)
地域で若者を育て、若者が自分らしく生きる希望を持てる企業・地域づくり~共育型インターンシップから条例制定へ~
香川県ケアマネジメントセンター(株) 代表取締役 林 哲也氏

 中小企業振興基本条例の制定が全国の自治体で進んでいます。6月2日に開催された中小企業魅力発信月間キックオフ行事「憲章・条例活用シンポジウム」では、振興条例の活用が進んでいる事例として香川同友会が実践報告を行いました。報告要旨を紹介します。

三木町の現状

 香川県では人口減少が進んでおり、県内の大学進学者の約8割が県外に進学しています。三木町も、今後40年で町の人口が2万8000人から1万6000人に減少する見通しです。三木町内に本社を有する大企業は存在せず、すべて中小企業であり、安心して子どもを産み、育て、さらに、育った子どもが地域に根付くような地域をつくることは、地域経済の活性や人材確保の点で中小企業にとっても急務です。

共育型インターンシップ

 2019年7~8月、三木町では、条例制定に先行して、三木高校と同友会会員企業との共育型インターンシップが始まりました。以降、毎年実施されています。

 「共育」とは、生徒と企業の双方が成長することを意味します。インターンシップでは高校1年生が会員企業を訪問し、職場で社員や社長の業務を観察し、能動的に質問をします。これはジョブシャドウイングという手法で、生徒はその考え方を学校の授業で事前に学んだ上で参加しています。生の仕事を目にし、社長や社員との交流によって、経営理念を理解し、働くことの意味や面白さを知ることで、生徒は地元の企業を深く知ることができます。対して企業側においては、生徒に自社を説明するために従業員が自社のことを改めて勉強し、その経営理念や役割を発信することで、従業員の職業意識を高めることができます。また、経営者も生徒の率直な質問に答えることで、新たな角度で自身を振り返り、成長することができるのです。インターンシップ後は成果発表会を行います。訪問企業の経営者や従業員、生徒の保護者を招き、生徒は訪問企業の特徴やインターンシップの経験を通して考えたことを発表します。

 こうした取り組みは県内の他の高校にも広がり、2023年3月22日、香川県教育委員会との包括的連携協定を結ぶに至りました。同友会の目指す「共育」の考えを教育から県内全域に広める一歩となりました。

他団体・行政との連携

 制定運動には他団体との連携も生かされました。第3回連合香川との懇談会では、参加した三木町議が条例制定の推進を宣言し、第4回では、三木高校の事例を同友会が発表しました。

 また、行政との信頼関係の構築も重要でした。三木町側は、条例を単なる補助金目当ての政策条例に矮小(わいしょう)化したくないとの考えで、自社経営を地域課題と結び付けて地域づくりに取り組む同友会運動に共感し、同友会に高い期待を寄せました。条例制定のための中小企業の振興に係る勉強会においては、福岡同友会田川支部の制定運動についてお話しいただいたほか、高松大学経営学部の蓮井明博教授に地域経済の発展における金融機関・大学等の役割についてお話しいただきました。

 条例制定後は、三木町産業振興会議・実務責任者会議で、同友会の会員が委員長やリーダーなどの中心的役割を担っています。

 三木町の制定運動のポイントは3つ。(1)地域と若者をつなぐ効果のある運動が先行したこと、(2)他団体と連携したこと、(3)行政や学校との信頼関係を構築したことです。

 香川県における条例未設定の自治体は残すところ5つとなりました。香川同友会は、先述の3つのポイントを踏まえて、全自治体での条例制定を目指し、すでに条例を制定している自治体では、自治体の首長との信頼関係を確立し、実のある運動を推進することに傾注しています。

 少子高齢化による若者の減少に対処することは、地域と中小企業の両者に共通する課題であり、地域で若者を育て、若者が自分らしく生きる希望を持てる地域づくりにおいて、中小企業が果たすべき役割は重要です。三木町の実践例は、地域課題を自社の課題として真摯(しんし)に取り組む同友会のあるべき姿を示しています。

「中小企業家しんぶん」 2023年 8月 15日号より