連載「わが社のSDGs」
社員の幸せと持続可能な社会をめざして
マツオカ建機(株) 代表取締役社長 松岡 賢氏(三重)

SDGs(持続可能な開発目標)は、「誰1人取り残さない」持続可能な社会の実現をめざす世界共通の目標です。2015年の国連サミットにおいてすべての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられました。2030年を達成年限とし、17の目標と169のターゲットから構成されています。

新連載「わが社のSDGs」では、経営理念をもとにSDGsに取り組む企業の事例を紹介します。第5回は、マツオカ建機(株)(松岡賢代表取締役、三重同友会会員)の取り組みです。

 マツオカ建機(株)は、松岡氏の祖父が建設機械の修理業として1938年に創業し、その後建設機械器具のレンタル・リース業を始めました。現在は、建設関係の資機材のリース・販売・レンタルをはじめ、足場の組み立てや解体などの仮設工事や運送事業などを行っています。

 業界の特性として、同業他社に対して競争優位性を保つことが難しい中、お客さまが現場で使う、ありとあらゆるモノすべてを供給することを自社の強みとしています。さらに機械のメンテナンス・入出庫管理、仮設工事や物流まで行っており、レンタルに絡むサプライチェーンのすべてを供給することができます。ほかにも、1度しか使わないような機械でも購入するなどしてお客さまの要望に対応しています。

 建築・建設関連業界は人材不足が大きな課題のひとつです。そんな中、新卒社員の初任給を大きく引き上げ、社内の賃上げに取り組んでいます。また、職種を整理して、男性社員の比率が高い業界において「女性は事務職」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をなくすために勉強会などを開催して、女性社員もマーケティングや営業などで活躍しています。職場環境の整備に積極的に取り組んでいることで採用力が強化され、社員の定着率も向上しています。

 同友会には入会して24年が経ちます。入会したことで自社の存在価値を見直し、「社員みんなを幸せにする」という存在意義を定めました。また、「労使見解」について学びを深めたことで、社員教育にも力を入れ始めました。現在は三重同友会の人財委員長を務めており、三重に若者を呼び戻そうとインターンシップやオンライン企業説明会を予定しています。

幅広いニーズに応えるレンタル業

 熊本県小国町わいた地区でお客さまと共に地熱発電に取り組んでいます。最も苦労したのは地元の方との合意形成です。そこで、地元の皆さんと「わいた会」という合同会社を設立し、わいた会が売電事業者となって業務委託をもって地熱発電所を運営することで、きちんと地元に収入が入る仕組みにしています。現在2号系列の開発中で、年間収入の一部を地域創生に使う計画をしており、湧き出たお湯を使った観光施設や農園などを構想しています。

 また、長野県でパプリカ農園の設備リースを行っています。知り合いが定年退職後に農業を始める際、大きな壁となったのが農業設備などのイニシャルコストでした。そこで、同社でビニールハウスなど農業設備を建設・レンタルして、収穫されたパプリカの売上からリース料を支払える仕組みとし、農業に取り組みやすくしました。ビニールハウスの窓開けや、農薬・肥料・水の散布を自動化するなど工夫した設計を行いました。

 今後は、地熱発電の熱源を利用したビニールハウスを建設し、CO2フリーな野菜を作って、地域創生としての地熱発電事業に取り組みたいと考えています。

3つの宣言

 今年、同社では(1)2025年までにゼロエミッションの達成、(2)2030年までにスコープ1(※1)におけるカーボンニュートラルの達成、(3)DEI(※2)の積極展開を通じたマイノリティの活躍推進の3つを宣言しました。(1)については、今年中に紙のゼロエミッションを達成できる見通しです。「一緒にこの目標を達成してくれる中間処理業者の協力が必要となりますし、コストを抑えながらどこまで緻密に分別ができるかが鍵になると思っています」と松岡氏は語ります。

 (2)は、スコープ1、2(※3)の排出量をモニタリングし、全社員が自社の温室効果ガス排出量を把握できるように取り組んでいます。カーボンオフセットについては、植林やパプリカ農園をクレジット化する方法や農業を営んでいる同友会会員との共同も考えています。

 (3)は、15年ほど前から外国人技能実習生の受け入れを行っており、彼らの幸せを考えてさらに発展させていきます。若者を支援しつつ、自社に将来にわたって定着し活躍人材に成長してもらうことをめざしています。現在、受け入れを自社で独自に行っていることから、現地の送り出し機関と連携して同社での実習を希望する若者の生活支援を行っており、社内で差別禁止規定の作成や独自の日本語教育にも取り組んでいます。

 松岡氏が代表取締役を務める別のグループ会社ではカンボジアの子どもたちの支援にも取り組んでおり、現在5名の子どもに毎月1人4000円の支援金を送っています。コスト削減によって生まれたお金を資金として寄付をしており、同社はカンボジアにも拠点があるためカンボジア出身の社員も多く、社員にとっても有意義な活動になっています。

 これからもマツオカ建機はグループ会社と共に地域に根ざし、多様性を重んじながら、持続可能な社会の実現をめざします。

※1 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
※2 Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭字語
※3 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出

会社概要

設立:1938年
資本金:5,000万円
社員数:227名
事業内容:建設機械、資材のリース・販売・レンタル
URL:https://www.matsuokakenki.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2023年 8月 25日号より