インボイス制度への対応
㈱第一経営相談所 相談役 沼田道孝(中同協税制プロジェクト長)

 今年10月1日から適格請求書等保存方式(インボイス制度)が実施されます。制度開始にあたり、インボイス制度への対応について、中同協政策委員会税制プロジェクト長の沼田道孝氏の解説を紹介します。

はじめに

 10月からインボイス制度が始まります。国税庁は、この制度の導入について複数税率になったことを挙げ、正確に税額の計算をするためとしています。税理士会は、事務負担の増大と免税事業者の廃業などの増加を考えて、導入の再検討、延期の要望をしていました。国税庁では、インボイス制度が始まると160万社の免税事業者が課税事業者になり、2,480億円の税収増になると想定しています。しかし、先ほどの点から、反対運動の広がりなど想像以上に抵抗と混乱があり、免税事業者の登録は100万社程度にとどまると思われます。

 制度が始まる直前ですが、しっかりとチェックをして対応をしましょう。

課税事業者の確認項目

(1)法人の18%、個人事業者の70%が免税事業者です。すべてがインボイスを発行する事業者になることはないため、消費税納税額の増加など確認をしましょう。

  • 今までの帳簿方式では、免税事業者からの仕入れであっても消費税の課税仕入れの対象になっていました。
  • インボイス制度が導入されると、インボイス登録をした課税事業者の発行する領収書等によって課税仕入れが可能となります。たとえ取引業者が課税事業者でも、インボイス登録をしていなければ、課税仕入れの消費税の控除はできません。

(2)インボイスの登録をして、主要な取引先へインボイスの登録番号をしっかりと通知しましょう。

(3)同時に主要な取引先のインボイス登録番号を確認して記録をしましょう。

(4)免税事業者との取引については、機械的にインボイス登録を求めるのではなく自らの事業環境を考えて対応するようにしましょう。

  • 免税事業者からの仕入れについては2023年10月から3年間80%、2026年10月から3年間50%の消費税の課税仕入れが認められています。
  • 従来消費税を支払っていない免税事業者が、インボイス登録をして課税事業者になった場合、消費税を支払うことが可能かの試算をしましょう。
  • 人手不足、免税事業者の事業継続、技術の継承、地域の事業存続など、取引のある免税事業者の状況も考慮して検討をしましょう。

(5)インボイス「適格請求書等保存方式」に基づく6つの要件を備えた帳簿体系(請求書、領収書等)になっているかチェックしましょう。

  • 6項目≪事業所の氏名又は名称と登録番号、取引年月日、取引内容、対価の額と適用税率、消費税額、交付を受ける事業者の名称≫
  • 自社で使用しているソフトのバージョンアップなど、事務経費および事務負担の増加について把握しましょう。

(6)インボイスが導入されても帳簿も同時に記載が求められます。インボイスを必要としない取引について記帳を明確にする整備が必要です。

  • インボイスのいらない取引(自販機、公共交通機関の使用料などの3万円以下等)について帳簿記載(要件=自販機の場所の特定など)ができるようになっているか確認しましょう。
  • 中古車や中古住宅販売等のインボイスが出ない個人からの仕入れ、また生鮮食料品等の市場からの仕入れのような場合の帳簿備え付けができているか確認しましょう(仕入れの特定できる要件を満たしているか)。
  • インボイスがいらない社内の出張・旅費規定等が整備されているか。
  • クレジットカード等の引き落とし明細はインボイスと認められないので、実際の取引時点での領収書等の保存ができているか。

*ただし、簡易課税事業者(基準期間の課税売上が5,000万円以下)はインボイスによる課税仕入れの計算が必要ないため、取引先の課税仕入れになる(2)と(5)だけが求められます。

免税事業者の確認項目

(1)取引先が課税事業者であるか、また、インボイス登録についての移行を求めているか確認しましょう。

  • 主に個人(一般消費者)を相手にしている場合は必要ありません。交渉する場合は、地域の環境、業種の環境など事業と生活の実態から判断し交渉を。
  • 取引を理由にインボイスの登録を無理強いさせることはできません。

(2)インボイス登録をした場合の税額計算をしましょう。

  • 3年間(2023年10月から2026年10月まで)は売上に係る消費税(10%または8%)の20%の税額(免税事業者がインボイス登録を行う場合の特例)で計算することができます。
  • 簡易課税の選択をした場合、みなし仕入率(卸10%、小売20%、製造30%、その他(飲食・人工仕事)40%、運輸通信・サービス・金融・保険等50%、不動産60%)で計算できます。売上に係る消費税に、各業種に応じた割合をかけて計算をしましょう。卸の場合は特例よりも簡易課税の方が有利です。

(3)インボイス登録をした場合、課税事業者となります。

  • 取引の継続がされるかの確認。
  • 消費税を課税して請求できるかの確認。
  • 最低でも納めなければならない税額の補填が確保されるような価格交渉等が必要。
    たとえば、500万円の課税売上がある場合、インボイス登録をすると年間10%の消費税のうち20%の特例で、10万円が納税額です。取引先へ消費税の上乗せを請求するか、少なくとも10万円の負担を求めるかという交渉になると思われます(申告のための手数料等も必要なことに留意)。
  • 取引先の課税事業者にとって3年間は免税事業者からの課税仕入が80%認められるので、免税事業者にインボイス登録を求めて、課税事業者となった取引先に従来支払っていない消費税を支払うより出費は少なくなります。
  • 実際の負担増と生活のバランスおよび仕事の継続の見込みを立てる必要があります。
  • 当初のインボイス登録は9月30日まで取り下げることができ、それ以降は取り消しの届出が必要になります。インボイスの届出をすると2年間(10月1日から2年間、足掛け3事業年度)課税事業者となります。ただし10月1日を含む事業年度中にインボイスの取り消しの届出をすれば、翌事業年度から課税事業者でなくなることが特例として認められます。その場合、最初の年度は消費税の申告が必要です。

消費税増税だけに頼らない税制の構築を

 中小企業家同友会は、中小企業憲章の理念に沿った中小企業・小規模企業の発展のための公平・公正な税制を重視してきました。その前提になるのが、能力に応じた税金の負担です。その立場から、高額所得になるほど所得税の負担率が減少する「1億円の壁」の修正や、大企業が圧倒的に有利な租税特別措置法の整理、またグループ通算税制など社会的役割や能力に応じた負担を求めています。

 その意味で、今回のインボイス導入が1,000万円以下の収入の事業者への事業と生活に打撃を与え、地域産業や文化・芸術にまで及ぶさまざまな国民生活に影響を及ぼし始めています。導入に際しては中止・延期を求めてきましたが、現在、少なくとも免税事業者との取引における消費税80%控除の恒久化を求めています。

「中小企業家しんぶん」 2023年 9月 25日号より