【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】
新たな「くるま生活」の提案(前編)
(有)エターナルコーポレーション 代表取締役 永岡 誠司氏(茨城)

黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(有)エターナルコーポレーション(永岡誠司代表取締役、茨城同友会会員)の取り組み(前編)を紹介します。

 (有)エターナルコーポレーション(茨城県日立市、従業員5人)の売上構成は、中古車販売6割、新車販売2割、車検・修理・その他が2割ですが、同社の経営は永岡誠司社長(52歳)の個性を反映したユニークなものです。売上はコロナ禍前の1億3400万円(2019年度)から1億7200万円(22年度)と3年間で28%増加し、つい最近、別会社で「オートリゾート」の運営も始めました。創業から別会社による新事業への進出までの経緯をたどります。

旅行会社に就職

 永岡氏は最初に旅行会社に就職しました。営業・添乗員として4年半勤務しましたが、大手メーカー関連の旅行会社が持つ官僚制的体質と衝突しました。添乗員としての永岡氏は、バスの中でお客が酒を飲んでいる場に呼ばれると積極的に参加しました。添乗員としてお客の気分を盛り上げるのは当然と考えたからですが、会社からは怒られました。ある企業から添乗員としてディズニーランドへの日帰りバスツアーに来てくれという注文がありました。しかし、会社は日帰りツアーに添乗員は必要ないとし、添乗員なしでの受注になりました。顧客はがっかりしたため、永岡氏は休暇を取ってこのツアーに参加しました。添乗員としてやることはありませんでしたが、お客と一緒にジェットコースターに乗るなど関係を一層深めることができ、この企業から今まで取れていなかった別の仕事の獲得につながりました。プライベートでツアーに参加したのは1回だけではありませんでした。

独立開業の決断

 お客との関係が深まると思っても、それができないのはつらく、独立開業を決断しました。旅行業での開業は多額の資金が必要で、車が好きなこともあって、選んだのは中古車購入代行業でした。依頼者に代わって中古車のオークションに参加し、競り落とし、整備して納車します。1996年に「カリスマジャパン」を個人事業として設立しました。この事業が現在でも売り上げの60%を占めます。

 当時声をかけてくれたのが旅行会社時代のお客でした。「旅行が車になっただけでしょ。今までのようにお前から買うよ」と言ってくれ、創業者が一番苦労するのは最初の顧客の獲得ですが、永岡氏の場合は旅行会社時代のビジネスを超えたお客との交流が創業のための市場基盤をつくっていました。

ビジネスモデルの転換

 しかし、オートオークションによる事業には、多数の車を扱えないという問題がありました。顧客から相談を受け、合った車を探すのに1カ月、場合によっては数カ月かかることがあります。車の整備、登録、納車までの時間も必要です。人を雇えば取扱量は増やせますが、休日なしで毎日0時まで働いたものの人を雇えるまでの売上増加は不可能でした。

 顧客が購入する際にローンを利用できず、安い車しか扱えないことも大きな問題でした。クレジット会社は車を展示していない販売業者は「車屋」として認めず、提携してくれません。何とかして展示場用の土地を借り、クレジット会社が提携してくれたので販売台数は大きく増え(月に28台売ったことも)、簡単な整備ができるようにスタッフも1人採用できました(2004年ごろ)。販売増はローンのためだけではありません。顧客の中心は20代半ば以降の、永岡氏(当時32、3歳)の少し後輩の人たちでした。この年頃の間で「車の話をしないメッチャ面白い車屋がいる」と評判になっていました。実際、5~6分しか車の話をせず、車については次に打ち合わせましょうということがよくありました。旅行会社時代にお客と本音の付き合いをした永岡氏の個性がここでも発揮され、若い人同士の共感の空間が形成されていたのでしょう。

法人化へ

 2006年に法人化し、現社名としました。この1、2年前から車のリース事業をリース会社を通さず自社で行うと経営が安定するとのアドバイスを受けていました。永岡氏は次のように考えました。中古車1台を販売すれば原価をいっぺんに回収した上、まとまった額の粗利を得られる。だが、リースにすると原価の回収には時間がかかるが、回収後のリース料はすべて粗利になり、リース期間中には販売による粗利を大きく上回る。実際に自社リースを始めたところ、原価を半年で回収し、残りのリース期間5年というケースもありました。

 顧客になってくれたのが、アドバイスをしてくれた人が顧問をする企業でした。リース期間中に車種の変更も可能にするなどの提案が成果を生みました。法人化したのはリース契約の当事者になるためで、この企業を主要顧客とするリース事業の開始で経営は安定、整備工場も設け、車検・修理も事業に加えました。リースの顧客の中には短期間だけ車を使いたい場合があることがわかり、レンタカー事業も始めました。リース事業は東日本大震災で主要顧客が打撃を受け、縮小したものの、エターナルコーポレーションが個人事業から「企業」として発展を開始するきっかけとなりました。

(後編につづく)

会社概要

設立:2006年
事業内容:新車・中古車販売、新車・中古車リース、レンタカー、オークション代行、自動車保険(取扱代理店)
URL:https://carismajapan.com

「中小企業家しんぶん」 2023年 10月 5日号より