【黒瀬直宏が迫る 中小企業を働きがいのある職場に】
新たな「くるま生活」の提案(後編)
(有)エターナルコーポレーション 代表取締役 永岡 誠司氏(茨城)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授(特定非営利活動法人アジア中小企業協力機構理事長)が、中小企業の働きがいをキーワードに魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。今回は、(有)エターナルコーポレーション(永岡誠司代表取締役、茨城同友会会員)の取り組み(後編)を紹介します。

経営とは何か、同友会への加入

 エターナルコーポレーションは創業以来、中古車の販売、リース、レンタル、車検・修理と事業を拡大してきましたが、それは永岡氏の開放的な人柄による対人関係能力や事業機会の発見能力で“突っ走った”結果でした。ある時、「経営とは何か」とふと思います。経営戦略に関する本を買いましたが、言葉の意味さえ分かりませんでした。ある経営者にこんな本を読んでいると話したら、勉強したいなら中小企業家同友会がいいと言われ、例会にオブザーバー参加しました。B to Bという言葉も知らないくらいだったので、報告者の話は理解できませんでしたが、懇親会でお酒を飲んだ勢いで入会しました。入会してよかったのは、本と違い、わからないことを聞けたことです。先輩経営者の袖を引っ張り「(講演者が)今言ったことはどういうこと?」と聞きまくりました。

経営指針の作成

 先輩経営者から経営指針の作成は必須だと言われ、同友会の経営指針成文化セミナーに参加。話はもっと難しくなりましたが、何とか経営指針の卒業発表まで行きつきました。理念、ビジョンの作成で単に生活の糧を得るための仕事ではなく、社会との関わりの中でやりたい仕事を定めることができ、経営体としての目標が決まりました。

ビジョンの実現に向かって

 しかし、先輩経営者からビジョン実現への方針、計画がないと指摘されました。まだやらなくてはならないのかと思いましたが、言われたのはラッキーでした。ビジョンを10年で実現する計画を立て、その中でキャンピングカー製作の方針を打ち出しました。新車を土台にするもので、従来の中古車販売から新車販売への進出です。

 キャンピングカーというと社内で寝泊まりし、料理もする特別なものというイメージがありますが、そうではなく、購入しやすい軽自動車を改造し、「寝ることもできるので遠くにも出かけられる」という「旅ぐるま」を目指しました。新たな「くるま生活」の提案です。このオリジナルなキャンピングカー・シリーズをJUMPIEと名付けました(製作は他に依頼)。これはエターナルコーポレーションにとって重要な意味を持ちました。それまでは、大手自動車会社の下っ端のような気分でしたが、初めて価格決定権のある商品を持ち、企業として「独立」したからです。

 とはいえ、思ったほど車は売れず、10年後にオートリゾートを開設するための資金確保はできそうもありませんでした。その時頭に浮かんだのが同友会で広がっている「地域課題は経営課題」という言葉でした。改めて見回すと、茨城県には地方公共団体が所有者の有効利用されていない土地が多くあります。まず、県と掛け合いましたが、功を奏したのは、地域課題を抱えている市に直接アタックしたことでした。4市のほか、鹿島アントラーズにも声をかけました。高萩市の市長に会うことができ、県から管理を委託されていた空き地4000坪を紹介されました。ダム湖畔の小高い場所で、常磐道高萩インターチェンジから15分のところです。借地料はゼロ、電気・水道も引いてくれ、初期投資は大幅に節約できました。たった5人の企業でも経営理念・ビジョンを明確化したために行政を動かせました。

 23年7月に「オートリゾートinはぎビレッジ」をオープンし、運営のため別会社を設立しました。そのコンセプトは「キャンプ初心者でも気兼ねなく安心して泊まれる場所」で、地元食材を使った食材セット、調理道具も用意されています。建設のため借入もしましたが、融資はスムーズにいきました。計画より2年早い「オートリゾート」の実現です。

 永岡氏は早くも次へ進んでいます。「オートリゾート」に自分の車をDIYでキャンピングカーにする場をつくろうとしています。また、軽自動車の内装をキャンピングカーにする内装KITを全国の自動車販売店・整備業向けに販売し始めました。氏の「くるま旅」普及への強い志を感じます。

まとめ

 人は誰でも自分が自分の主人でいたいという自律性への欲求を持っています。生きていくために周囲や社会からの統制に甘んじ、自律性への欲求を抑え込む人が多いですが、それは「真の自分」の喪失です。永岡氏は自律性を貫くべく、独立開業の道を選びました。そして、事業においても企業を「独立企業」化し、自分の想(おも)いを追求しています。中小企業はこのように自律を望む人にその実現の場を提供するものです。

 永岡氏は「経営理念・ビジョンを従業員が理解していたかわからないが、ビジョン達成で社長が言ってたことはこういうことだったのかと今認識していると思う」と言います。社長の歩みに何歩か遅れてついてくる従業員の姿が浮かんできますが、従業員もまた企業の主体として夢を語るような労働共同体へ向かうことが次の課題かもしれません。

会社概要

設立:2006年
事業内容:新車・中古車販売、新車・中古車リース、レンタカー、オークション代行、自動車保険(取扱代理店)
URL:https://carismajapan.com

「中小企業家しんぶん」 2023年 10月 15日号より