【第8回経営労働問題全国交流会問題提起】
社員、自社、地域が良くなっているか 中同協経営労働問題委員長 林哲也氏(香川同友会代表理事)

歴史に学び、歴史をつくろう

 2023年からの数年は同友会で目指す方向性や企業づくりを打ち出してから50年の節目を迎えます。1973年に「同友会の3つの目的」が成文化され、1975年に「労使見解」の発表、そして1977年に「経営指針の確立運動」が提唱されました。同友会が目指す企業づくりの運動が展開されてから約50年が経とうとしています。

 また、経営労働委員会と交流会は、1980年に「労働委員会」が発足し、1984年以降「中小企業労使問題交流会」を定期開催、2006年に「経営労働委員会」に名称変更、同年に有志による「経営指針成文化運動交流会」開催、2009年には2つの交流会を「経営労働問題全国交流会」に統合、という歩みを重ねてきました。このように時代とともに労使問題や労使の信頼関係構築、経営姿勢の確立と経営指針に基づいた経営実践の推進運動に発展してきたのです。

環境に合わせて変革を

 交流会にあたって3つの問題提起をします。1点目は経営環境の激変に対して自己と自社、同友会を変革することです。変化を当然のこととして、時代の流れに対応する企業家精神が問われています。企業づくりでは経営者の責任を明確にし、社員や社会との関わりについて言及している「労使見解」を軸とし、経営指針に基づく実践を重ねていくことが大切です。

 環境激変のひとつに最低賃金の対応があります。2023年の最低賃金は全国平均1004円と初の1000円超えとなりました。同友会では、給与を単なる経営コストではなく社員と共に生み出した付加価値の分配であり、社員と家族の生活を豊かにするものと提起してきました。賃金に関して、(1)将来的な社員の働く環境づくりのために社内の最低時給水準の目標(例えば1500円)を設定した財務計画を計算し、中期方針(3~5年後をめど)で実現できるよう価格決定権のある付加価値の高い企業づくりを目指す、(2)最低賃金の引き上げ額と同額以上のベースアップをする、この2点を意識しましょう。

中小企業家として自覚ある行動を

 2点目は、激変の時代、本当に地域と日本がよくなっているのかを考え、中小企業家として自覚ある行動をしましょうということです。地域課題を経営課題として捉え、経営を通じて解決を図り、地域と日本をよくしていきましょう。「地方は地域課題を実感しやすく、都市では地域と言われてもピンとこない」と耳にすることがありますが、介護事業所の経営をしている立場からみると、都市部の災害発生時の避難などは地域課題であり経営課題でもあると感じています。これはほんの一例ですが、地域の課題を経営課題として捉えるには自社の事業領域を明確にしておくことが前提になります。そうすると地域は違って見えてくるはずです。

 その上で「効果の伴う地域づくり、実践運動に関わる」という姿勢で臨んでいく。地域に中小企業振興条例があっても自動的に地域は変わりません。会員同士が励まし合い、経営指針確立の実践運動をして全国各地でポッと光る企業が増えていけば、日本全体がよくなっていくはずです。

「自主・民主・連帯」で徹底実践を

 3点目は、愛ある「自主・民主・連帯」の精神の発揮で徹底実践する同友会をつくりましょうということです。会員同士が、お互いに関心を深めて支え合う関係を築いていくことが大切です。

 腹落ちした徹底実践をする経営者・役員になって、運営や活動にとどまらずに運動として取り組むことを目指しましょう。瞬間の組織機能の発揮だけで満足していては、環境変化に対応できずに劣化していくだけです。同友会理念の理解を深め、自分の言葉で語り、自社の実践で伝えることで説得力が高まります。

 そして、経営労働、共同求人、社員教育、障害者問題の4委員会で連携して「労使見解」の理解を広げるとともに、実践の輪を大きくしていきましょう。委員会は会員として自社経営を充実させるためにあります。自分を認めてもらうための場ではありません。委員会の縦割りを解消することも非常に大事です。

環境変化を言い訳にせず進化し続けよう

 社内で経営理念を共通言語として経営実践するのと同様に、同友会においても経営指針を軸とした経営実践に関する共通言語を共有し深め合える役員を育てることが大切です。同友会は理念をもとにした本質論議を通じた気づきの場がたくさんあります。自社の経営指針を見直し更新していく姿勢がなければもったいないです。

 そして最後に、経営の問題を経営環境変化などの他者の責任にするのではなく、最大限の自助努力をもって解決していく、私はこの点が中小企業家同友会の優れた姿勢だと思っています。この志と精神を共有した仲間の輪を、共に会内外に広げていきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2023年 11月 5日号より